■G7、NATOとウクライナ侵略戦争の歴史的背景
G7(=米英仏独伊日加+欧州連合)は、歴史的には、カナダ以外の6カ国が20世紀前半までの帝国主義時代における列強国=軍事大国であり、今も米英独仏日の5ヶ国の各国の年間軍事費は世界のトップ10を占めている(日本は9番目)。しかも米英仏3カ国が核兵器保有国で、日本を除いた6カ国がNATO加盟国である。したがってG7とNATOは緊密に重複しており、その両方の主導権を握っているのは、あらためて言うまでもなく米国。つまり、米国の最も重要な国家政策であるパックス・アメリカーナ(覇権主義による世界支配の下での「平和維持」)を支え推進することが、G7とNATOの二大組織の重要な役割の一つである。
1999年以来NATOの軍事活動は、毎回、その行動範囲が、西欧を中心としたNATO加盟国地域をはるかに超えて、中東や東欧地域をはじめ世界各地に広がり、様々な武器開発と購入にも多額の資金が投入されてきた。この行動範囲と活動の広がりは、とりわけ2001年の9・11同時多発テロから始まったブッシュ政権の「対テロ戦争」に、密接に協力する形で進められてきた。
米国とNATOは、東欧への拡大政策に沿って、2014年からはウクライナへの最新式の武器の供与と軍事訓練・合同演習などを通して、NATOの支配下にウクライナ軍を事実上統合させる戦略を着実に推進してきた。2022年2月の、ロシアの非道なウクライナへの侵略戦争開始につながった要因として、こうしたNATOとG7のこれまでの動きを忘れてはならない。端的に言えば、一方では東欧に向けての米国の挑発的な覇権拡大主義、他方でNATO内に分裂が起きるものと誤信してウクライナの強制的再統合を目論んだ、プーチンのロシア帝国復活の野望。この両者の帝国主義的な対立の根を根本から取り除く必要がある。
この侵略戦争の結果、無数のウクライナ人のみならず、戦争に駆り出されたロシア人も犠牲者となり、戦争の影響で食糧が入手できなくなった数百万人にのぼる数のアフリカやアジアの人々が餓死の危機にさらされている。そのうえ、このまま戦争が長引き戦況がさらに悪化すれば、小型核兵器の使用という最大の危機が起きることも十分ありうる。こうした現在の状況を打破するには、外交による交渉での、相互的な妥協による戦争終結によるほかに道はない。
■中国・ロシア封じ込めのためのNATOのインド太平洋進出計画と日本
そんな状況の中で、ドイツで行われたG7首脳会談に続き、6月29〜30日にはスペインのマドリッドでNATO首脳会合が開催された。ここに、NATOの主要パートナー国として、インド太平洋地域の日本、豪州、ニュージーランド、韓国が招かれた。これは、NATOの「新戦略構想」が、インド太平洋地域のいわゆる「自由主義諸国」との軍事協力のもとに、中国、ロシア、北朝鮮を欧州側とインド太平洋側の両地域から強力な軍事力で囲い込み、閉じ込めるという、文字通りのグローバル化戦略となっていることを示している。しかも、その「戦略地域」には宇宙空間までもが入れられている。
このNATOの「新戦略構想」は、現在進行中のRIMPAC(環太平洋諸国海軍合同演習)にすでに強く反映されている。2年に1回行われる世界最大の海戦演習であるRIMPACは、今回は6月29日から始まっており、8月4日まで続く予定である。日本を含む26カ国から2万5千人を超える兵員と、38隻の戦艦、170の航空機、4隻の潜水艦が参加し、さらに9カ国からの陸上部隊が水陸両用車による上陸演習を行うことになっている。
26の参加国の中の、(イタリアを除く)6カ国がG7のメンバーであり、6カ国(米国、英国、フランス、デンマーク、オランダ、カナダ)がNATOメンバー国。5カ国(日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、コロンビア)がNATOのグローバル・パートナーとなっている。すなわちRIMPAC参加国の42パーセントがNATOと緊密に繋がっている。
こうした米国主導のRIMPACの目的は、中国、北朝鮮との戦争を想定する米国主導の同盟諸国軍による軍事演習を展開することで、中国、北朝鮮さらにはロシアに対して威嚇を行うことである。この威嚇は、すでに米軍のインド太平洋地域における広範囲で活発な行動に対抗して、同じように敵対的な軍事活動を強力に展開している中国・北朝鮮との緊迫状況をさらに悪化させこそすれ、緊張緩和には全く役立たない。かくして、アジア太平洋地域も、状況はむしろ冷戦時代よりも危機的である。
こんな状況の中でNATOは、2014年に日本政府(安倍政権)が、憲法に明らかに違反する集団的自衛権を容認したことを、高く評価している。その集団自衛権の行使との関連で、NATOはとりわけ「ヘリコプター搭載護衛艦」と称する「いずも」が、2020年にステルス多用途戦闘機F-35Bの発着を可能にする「改修」(=事実上の「空母」化)を行ったことも積極的に評価している。かくして、NATO=米軍ならびにその同盟軍との集団的軍事活動への「自衛隊」の積極的な参加が、着々と推進されている。岸田首相の公約の一つである「敵地攻撃能力の向上」も、「自衛の範囲」というメチャクチャな論理の下、このNATOへの統合化のための一戦略として、誰もが違憲と明確に理解していながら欺瞞的に進められている政策である。
このように、岸田内閣は、安倍内閣の憲法のあからさまな空洞化をそのまま受け継ぎ、それをさらに押し進めていると同時に、5月のバイデン米大統領との会談では、防衛予算=軍事予算の大幅増大(=GDP1%をNATO諸国と同じレベルの2%にまで引き上げること)を約束した。これが現実化されれば、日本の軍事予算は約11兆3千億円にもなり、今年度より一挙におよそ5兆1千億円の増額枠を認めることになる。この増額は、皮肉なことには憲法9条をもつ日本が、米中に次ぐ世界第3位の軍事大国になることを確実にする。しかもその金額の大部分が、米国からの高額のさまざまな武器の爆買いに当てられることになる。
現実には、これだけの巨額の予算を急遽準備するためには税収でまかなう他はない。よって、消費税を現在の10%から最低でも12%に引き上げる必要があり、その重い負担が国民一人一人に課せられることになり、すでに日々の生活費高騰に苦しんでいる多くの一般市民、とりわけ母子家庭や高齢者の生活がさらに逼迫することは目に見えている。
7月10日の参議院選挙の惨憺たる結果、これから以上のような日本の軍事大国化=一般市民のさらなる貧困化、憲法改悪と東アジア地域のさらなる不安定化・軍事衝突勃発の危険性は一挙に高まるであろう。日本は今や、歴史的に極めて重大な分岐点に立たされている。
■G7広島首脳会議批判に向けて市民の力の結集を!
来年5月に広島で開催が予定されているG7首脳会議では、したがって、インド太平洋地域諸国、とりわけG7のメンバー国である日本、さらには韓国やオーストラリアの軍事力を、米軍・NATOの軍事力に統合し、それを中国・ロシア・北朝鮮の封じ込めという「新戦略構想」のために極力利用するという米国とNATOによる政策の、いっそうの強化がはかられると考えられる。この「新戦略構想」には、もちろん、核抑止力が重要な戦略として引き続き維持される。
よって、78年前に米軍が原爆無差別大量殺戮という由々しい「人道に対する罪」を犯した広島という都市で開かれるG7首脳会議で、米国とNATOの核抑止力政策が見直される可能性は全くないと考えるべきである。「唯一の戦争被爆国」を売り物にしながら、「最終的な核廃絶」というごまかしの表現で国民を騙し続け、実際には米国の核抑止力に全面的に依拠し続けている日本政府。その日本政府の岸田首相が自分の選挙区である広島市をG7首脳会議に選んだのも、見せかけは「反核」という姿勢を欺瞞的に表示するための政治的たくらみ以外のなにものでもない。
したがって、首脳会議の結果は、2016年5月に広島を訪れた オバマ大統領と同じように、原爆無差別大量殺戮に対して最も責任の重い米国と、マンハッタン原爆開発計画に参加した英国、カナダを含む7カ国の国家首脳が、おざなりの慰霊のために平和公園を訪れるだけの「political show政治的な見世物」に終わることであろう。かくして、オバマと安倍が広島の犠牲者の霊を政治的に利用し、米国も日本も、それぞれが戦時中に犯した戦争犯罪の犠牲者に対しての謝罪は一切せずに、結局は広島を日米軍事同盟の強化のために利用したのと同様、来年も再び、広島がうしろ汚い政治目的のために利用され、市民が踊らされるだけという結果になるであろうことは明らかである。
こんな状況を黙って見過ごすことは、広島の市民としての、また日本の国民としての責任を、同時に人間としての責任を、ないがしろにすることを意味している。
そこで、私たちはG7首脳会議が開かれる1週間前の2023年5月13〜14日に広島市内でG7広島首脳会議を徹底的に批判する大規模な市民集会を開催することを提案し、実現に向けてこれから活動を展開していくための呼びかけをここに行う。
なお、G7首脳会議を広島で開催するにあたっては、とりわけ次のような条件が満たされるべきである。
1)バイデン大統領は、広島・長崎への原爆無差別大量虐殺が由々しい「人道に対する罪」であったことを真摯に認め、被害者ならびにその親族に謝罪すべきである。同時に、核抑止力(=核兵器保有)が「平和に対する罪」であることも明確に認め、核兵器を即刻廃棄すべきである。
2)岸田首相は、日本軍国主義によるアジア太平洋侵略戦争の加害責任を誠実に認め、戦争中に日本軍や日本政府がアジア太平洋各地で犯した残虐な戦争犯罪行為や人権侵害の被害者ならびにその親族に謝罪すべきである。
3)岸田内閣は日米軍事同盟を廃棄し、NATOへの加担を止め、沖縄をはじめ日本各地に設置されている米軍基地の即刻撤去を米国政府に要求すべきである。日米の軍事関係を、日米両国市民の真に平和的で文化的な多様な交流の連繋に基づく、人間味溢れる国際関係へと変更すべきである。
4)G7首脳は、軍拡でロシア・中国・北朝鮮を封じ込めることをやめ、それらの国々との平和的共存を目指して、外交交渉を粘り強くすすめていくべきである。また、そのためには、ロシア軍がウクライナ侵略戦争遂行をただちにやめ、ウクライナ大統領・ゼレンスキーとロシア大統領・プーチンが和平交渉のテーブルに1日も早く着くように、G7首脳も奮励努力しなければならない。
5)G7首脳は、気候危機を発生させ且つ今もその危機状況をさらに悪化させている、いわゆる「先進工業諸国」としての責任を自覚し、生物多様性を保持、発展させ、脱原発と化石燃料極力削減による脱炭素社会実現に向けて懸命の努力をしなければならない。それが地球上の人類と他のあらゆる生物・植物に対する私たちの重大な責任であることを、明瞭に認識する必要がある。
2022年7月18日
「G7広島首脳会議」を批判する市民集会開催準備会
久野成章
田中利幸