岸田政権の悪政に反撃する大きな運動をつくろう―大軍拡予算にストップを

岸田政権の悪政に反撃する大きな運動をつくろう―大軍拡予算にストップを

白川真澄

 岸田政権の悪政ぶりは、安倍政権の暴政に引けを取らないものになるかもしれない。この政権は、人びとの強い反対の声を「聞く力」を持たず安倍「国葬」を強行し、旧統一教会による自民党の権力維持の構造を覆い隠そうとして、一挙に支持率を下げた。時事通信の10月7~8日の世論調査では内閣支持率は27.4%と、危険水域とされる30%を切った。にもかからず、岸田政権は、思いつくかぎりの悪事を企んでいる。「台湾有事」を口実にした大軍拡をはじめ、原発の再稼働のみならず新増設への前のめり、健康保険証廃止によるマイナンバーカード取得の実質的義務化、「全世代型社会保障」の名による介護保険や医療保険の改悪(自己負担の増大)。

 物価高騰対策として29.1兆円もの大型補正予算を組んで支持率回復に躍起となっているが、ここでは、年末の23年度予算案編成に向けて大軍拡の防衛予算が計上されている状況について簡単に見てみよう。


■先制攻撃能力をもつ自衛隊ミサイル部隊の南西諸島への配備

ウクライナ戦争をきっかけにして、‟軍事力を強化しなければ安全は守れない”という主張が声高に叫ばれるようになった。自民党は、参院選で「防衛費を5年以内にGDPの2%以上に」すると公約した。岸田首相も、「防衛力の5年以内の抜本的強化」「反撃能力(敵基地攻撃能力)という選択肢を排除しない」と明言している(所信表明演説、10月3日)。年内には、「国家安全保障戦略」(2013年制定)・「防衛大綱」(2018年決定)・「中期防衛力整備計画」(同)の3文書が大幅に改定される。そして、年末の来年度予算案の編成に向けて大軍拡の防衛予算が組まれようとしている。これにお墨付きを与えるために、防衛費増額に関する有識者会議(「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」)が設置され、12月までに提言を出す予定になっている。

 いま進められている軍拡の最大の焦点は、「台湾有事」を煽り立てて米軍支援(日米共同作戦)のための自衛隊ミサイル基地を南西諸島に設けることである。すでに宮古島と奄美大島には19年からミサイル部隊が配置されたが、来年に石垣島、さらに沖縄本島にも置く予定だ。台湾とは111キロしか離れていない与那国島には沿岸警備隊がいるが、電子戦部隊が新しく配置される計画である。また、種子島の隣にある馬毛島にも、自衛隊の訓練基地(米軍空母艦載機の離着陸訓練も移転)を設ける計画を進めている。


 これらのミサイル部隊は地対空・地対艦ミサイルによって、中国の空軍や艦隊と戦火を交えることが想定されている。現在の「12式地対艦ミサイル」は射程200キロだが、これを相手の射程圏外から攻撃できる長射程(「スタンドオフ」)ミサイルに置き換えることが急がれている。例えば「12式地対艦ミサイル能力向上型」は射程1000キロとなり、地上発射型に加えて艦船発射型や空中発射型も開発される。この長射程ミサイルの配備(1500発以上を予定)は、中国沿岸部を標的にした「敵基地攻撃能力」、つまり先制攻撃能力をもつことにほかならない。露骨な挑発行為ではないか。

防衛省は、23年度予算編成に向けて過去最大の5兆5947億円の概算要求を計上したが、その目玉の一つが「12式能力向上型」ミサイルの開発と実用化によるスタンドオフ防衛能力の強化である(zakzak9月1日)。272億円が計上されているが、防衛費は金額を示さずに上限のない「事項要求」が認められているから、青天井で増えるだろう。また南西諸島での「継戦」に必要な弾薬は、2か月程度で「弾切れ」になってしまうと試算されている。この弾薬不足を解消するために火薬の量産工場を建設し、23年から稼働する(日経新聞9月18日)。

 麻生自民党副総裁は「台湾でドンパチが始まれば、沖縄は戦闘区域になる」(8月31日)と公言した。台湾をめぐって米中が衝突する場合、米軍はいったん空母などの主戦力をグアムに退避させ、沖縄の海兵隊などで台湾を支援するが、自衛隊のミサイル部隊は中国の攻撃に耐える戦いを強いられるという「過酷シナリオ」も語られている(週刊ダイヤモンド8月27日号)。南西諸島の軍事要塞化は、住民に悲惨な犠牲を強いた沖縄を再び「捨て石」にする危険な企てである。


■急増する5兆円――軍事力増強か社会保障拡充か

 今年度の防衛費は、当初予算で5兆3687億円、GDP比0.95%である。ただし、毎年のように補正予算にも防衛費が組まれるために、21年度では当初5兆3422億円に補正7655億円を加えて6兆1077億円と、GDP比は1%を超えて1.09%になっている。なお、海上保安庁の予算などを含めてNATO基準で見ると、6兆9000億円、GDP比1.24%になる。防衛費の増大は、防衛省の所管する予算だけにとどまらない。海上保安庁の装備の強化(国土交通省)、自衛隊が「有事」の際に使う空港や港湾など公共インフラの整備(同)、軍事関連の科学技術研究開発費の増額(文部科学省)など、省庁横断的な取り組みで増額されようとしている。

防衛費を5年以内にGDP比2%以上にする、つまり2倍に増やすということは、一挙に5~6兆円増やすことを意味する。この金額は、公共事業費6兆円や文教・科学振興費5.3兆円(22年)に匹敵する。急速な高齢化に伴う社会保障関係費の伸びを年5千億円に抑え込み、医療保険や介護保険の自己負担分を引き上げる一方で、軍事費だけを突出して毎年1兆円以上増やす。

生活の安心を犠牲にして軍事力による「国の安全」を優先させるのは、本末転倒以外の何ものでもない。防衛費増額分の5兆円を使えば、医療保険の自己負担分をゼロにできる。あるいは年金受給者全員に年12万円を上乗せできる。大学授業料の無償化には1.8兆円で済む(東京新聞6月3日)。また、円安が加速するインフレは3%に達したが、1ドル=150円が続けば家計(2人以上世帯)の負担を平均で年8万6462円増やすと試算されている(朝日新聞10月21日)。物価高騰手当てとして、全体の87%を占める所得1000万円以下の4532万世帯に一律10万円を給付しても4.5兆円である。この給付こそ、急がれねばならない。

しかも、防衛費の倍増には新たに巨額の財源が必要になる。安倍元首相は死ぬ前に「国債で対応していけばいい」と言い放っていたが、かつて侵略戦争を戦時国債で賄い敗戦後に超インフレを招いた歴史を反省しない暴言だ。国債累積残高は、すでに1千兆円を超えている(22年度末には1026兆円になる見込み)。国債増発に頼る財政は、異次元金融緩和による超低金利(ゼロ金利)政策によって利払いを低く抑えて、何とか維持されてきた。

しかし、近い将来、円安(日米金利差の拡大)による物価高を加速する金融緩和からの転換は(黒田日銀総裁が退陣することもあり)、避けられないだろう。借金財政は、金利上昇による利払いの急増の前に行き詰まる。財務省の試算でも、金利1%の上昇で国債費は25年度には3.7兆円も増える。そこで、まず国債発行で防衛費増大の財源を確保したうえで、将来の増税など返済財源の確保を法律で定める「つなぎ国債」という方法も検討されている(朝日新聞9月27日)。いずれにしても、所得税や法人税(場合によれば消費税)などの増税に行き着くか、社会保障費の削減に走ることになる。

これからの日本では、減税ではなく増税が必要不可欠である。だが、それは社会保障の拡充、とくに医療・介護・子育て・教育のサービスの無償提供(ベーシックサービス)のための財源なのである。けっして軍事費を倍増するための財源であってはならない。


■逆風を切り裂き、反撃へ

世論調査では、「敵基地攻撃能力の保有」に賛成53.5%:反対38.4%、「防衛費」について増やすべき56.3%:いまのままでいい31.0%:減らすべき9.8%(共同通信10月8~9日)と、多数派は軍拡支持に転じつつある。この逆風を切り裂いて、大軍拡を阻むのは簡単なことではない。原理・原則の確固さと創意・工夫に溢れた説得力が求められる。市民とリベラル・左派は7月参院選の惨敗で意気消沈したが、安倍「国葬」反対の行動が全国各地で起こり、運動は息を吹き返しはじめた。とはいえ、岸田政権の悪政全体に対する力強い反撃の運動はまだ組まれていない。

  「台湾有事」を煽り立て先制攻撃能力を備える大軍拡にストップを! 軍事費を減らし、医療・介護・子育て・教育の予算を増やそう! 声を大にし、さまざまな戦線と分野の運動が共同して岸田政権の悪政に対する怒りの大きな反撃の運動をつくろう。

(2022年10月28日記)

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