マイナカードの強制は何を意味するのか

マイナカードの強制は何を意味するのか

                宮崎俊郎(共通番号いらないネット)

 10月13日に河野デジタル担当大臣が記者会見で、マイナンバーカード(以下「マイナカードと略」と保険証の一体化によって2024年秋には現在の紙の保険証の廃止を目指すと発表した。

 このニュースを見た多くの市民は「マイナカード保険証が強制される」ことはおかしい、と奇異に感じ、唐突に登場したことに驚いた。そしてSNS上でも「強制策」に反対する声が溢れかえりネット空間は「炎上した」。

 私たちも13日夕方に首相官邸前において「マイナ保険証強制反対!」緊急行動を呼びかけたが、緊急の呼びかけにもかかわらず40人を超える市民が集まってくれた。

 1.伸びないマイナカードに業を煮やした政策転換

 今年10月に入ってマイナカードの申請数が7,000万枚を突破したと発表されたが、交付数は追いついておらず、9月末で対象者の49.0%。まだ半数に届いていなかった。

 確かに「人参ぶら下げ」政策は一定の効果を発揮した。マイナカードに対するポイント付与(1ポイント1円)第1弾は5000ポイントで昨年9月から開始されたが、その後申請者数はかなりアップした。しかし、終了後は元の木阿弥。二匹目のドジョウを狙って今回は2万ポイント。これでも取得者が半数に満たなかった。この2万ポイント付与には1兆8円億円の税金が投入された。2020東京オリパラの額面予算を上回る巨額の投入だ。昨年の補正予算で決定されたが、あまりに安易な税金投入にもかかわらず、国会ばかりかメディアの追及すらないことにはほとほと呆れるばかりだ。

 こうした「アメ」では2023年3月には対象者全員に持たせるという目標達成には程遠いと観念した政府は、ついに「ムチ」に政策転換を図ったのだ。

 「ムチ」第1弾は、6月19日に放たれた。マイナカード普及率の低い自治体には地方交付税を減額するというとんでもない施策。さすがに自治体からは怒号が響いた。住基ネットはあくまで自治体の事務だったから離脱という抵抗の手法も取りえたが、マイナンバー制度は国の制度なのでカード普及率によってそれを自治体の取り組みに帰すというのはありえない。しかもマイナカードという踏み絵によって交付税を減額するという手法は国策自治体づくりそのものであり、地方自治の否定と言わざるをえない。

 「ムチ」の本丸が今回のマイナ保険証強制策だ。

 2.現行法制下でのマイナカード強制はありえない

 マイナカードと保険証の一体化に伴う従来の保険証廃止は6月に出された「骨太方針」にすでに書き込まれていた。しかし文言は「原則廃止」であり、今回は「原則」が抜けた。この差はかなり大きい。最終的には従来の保険証をなくし、マイナ保険証しか認めない=強制=義務化と解釈できるからだ。マスコミの紙面には一斉に「強制」「義務化」の文言が並んだ。しかし6月の骨太方針は閣議決定であり、その際には申請があれば保険証を交付するとしていた。今回の原則廃止は閣議決定を反故にするものであり、デジタル大臣の記者発表で変更できるようなことではないのだ。

 政府は「強制」や「義務化」という言葉を決して使わない。それは番号法違反になるからだ。番号法の規定では、「住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき、その者に係る個人番号カードを発行するものとする。」となっており、強制や義務化は法違反と解釈される。

 記者会見での河野大臣の答弁も「カードを取得しない人に対してどう対応するのか」という質問に対して「ご理解いただけるようしっかり努力したい」という曖昧なものに終始していた。仮にマイナ保険証を持たない人が保険適用医療を受けられない事態が発生するとそれは「国民皆保険」制度の崩壊を意味し、従来の保険証をすべて廃止するなど現実的ではないのだ。

 政府の目論見は、「もはやマイナ保険証を免れることは現実的ではなく、そろそろ諦める時期だ」という抵抗者の中に「マイナス思考」を蔓延させることだ。

 私たちに必要なことは、その空気に飲み込まれることなく「強制」や「義務化」がいかに非現実的なことで、これ以上所持率が増加していかなければ「強制」や「義務化」が「神話」でしかないことを隣の友人に伝達していくことだ。

 恐ろしいのは所持率が9割に到達して実質的な「強制」「義務化」状態を作り出し、「義務化」を明記する番号法の改「悪」まで突き進んでしまうことだ。所持率5割の現在においてカード義務化を明記する番号法の改悪は到底できない。まだまだ私たちは闘えるのだ。

3.マイナンバーからマイナカードへの比重転換

 マイナカードの実質的強制をなぜ作り出したいのか。

そこにはマイナカードの重要な意味の転換が孕まれている。マイナンバー制度発足当初、マイナカードは正確な付番・情報連携のための本人確認手段という位置づけだった。 

本人を認証するための電子証明書を実装したのもそういう位置づけだった。マイナカードには3つの領域がある。番号法で規定を受ける①「マイナンバー」、番号法で規定されない②「電子証明書」、自治体が条例で国の機関は総務大臣の定めるところにより利用可能となる③「空き領域」がある。

 マイナンバーに紐づけるということは番号法における規制があるため容易なことではない。そこでこの電子証明書の発行番号(シリアル番号)に様々な情報を紐づけて様々な領域で情報連携させていこうというのだ。マイナポイントの取得や保険証利用はマイナンバーを使うのではなく、この仕組みを利用している。この仕組みを政府は「マイキープラットフォーム」と命名してウサギのマイナちゃんに対抗して犬のマイキーくん(電子証明書のカギ)と打ち出した。

 今のところ、この仕組みには法的規制が存在しない。マイナンバーという規制の強い番号ではなく、法的規制の存在していないマイキープラットフォームを利用して情報連携を拡大させていこうという手法はかなり問題であり、私たちの知らないところでこの点に対する野放図な拡大を許していてはいけない。

 しかも「本人同意」を前提とするが、民間にもその利用を拡大していこうとしている。例えば本人が同意すれば、マイナカードで紐づけられた情報を顧客管理に使用していくことも可能になってくる。

これまで「官」が独占していた様々な個人情報や社会的な情報を「民」に開放していくということが今後の最大の狙いだと考えるべきだろう。「官」の保有する膨大な自然や社会情報を「ベースレジストリー」というデータベースを民間に開放していくという構想も進められようとしている。

いま同時に進められようとしている自治体の個人情報保護条例の国ルール化も個人情報利用の垣根を国の個人情報保護法の低いレベルに合わせて、個人情報の保護ではなく、利活用を徹底して推進しようとする動向であり、大変危険なものである。「本人同意」とは名ばかりで気づかないうちに同意させられていたというケースも増大している。細かく書かれた本人同意条項をどれだけの人が読んで同意しているだろうか。

マイナカードを対象者全員に所持させようという動きは、こうした情報流通にとってマイナカードが必須となるシステムが構想されているからこそ加速しているのだ。

マイナンバーそのものではなく、マイナカードを中心とした制度設計にシフトしつつあると見るべきかどうかはもう少し推移を見守るべきか。

4.治安管理の領域にも踏み出すマイナカード

10月13日の河野デジタル大臣の記者会見は、マイナ保険証強制の衝撃力が強かったので後景化したが、運転免許証とマイナカードとの一体化を2024年度末から前倒しできないか警察庁と協議を進めることも発表された。

実は今年の4月19日に運転免許証情報をマイナカードに記録可能とする改「正」道交法が通常国会において成立していた。

運転免許証にまつわる様々な利権は警察の特殊権益として現在でも位置付いており、マイナカードと一体化してしまうと莫大な更新手数料は警察に入らなくなる公算が強い。だからこれまで警察はマイナンバーやマイナカード利用には消極的だと目されてきた。ところが、2020年10月16日に小此木国家公安委員長、河野規制改革担当大臣、平井デジタル改革担当大臣の3者会談で、2026年にマイナカードと運転免許証の一本化に合意が成立し、公表された。

今回の一体化は、初めてマイナカードのICチップに運転免許証情報を書き込むことになり、その情報を警察官の端末で読み取ったり書き込んだりできるようにするものである。しかも全国どこでも可能となるように各都道府県ごとに管理されていた警察内部の個人情報を一元管理する警察共通基盤指システムも併せて構築されようとしている。

免許証の更新手数料と取引できる材料としては、マイナカードから得られる豊富な個人情報であり、今後警察利用の拡大と裏取引されたと見るのは穿った見方だろうか。

現在でさえ警察の保有している情報はブラックボックス化されており、私たちはほとんどその構造や利用について知らされていない。

しかも番号法では刑事事件捜査のために警察にマイナンバーで管理する個人情報の提供を認め、さらに政令で治安対策への提供も可能にしている。警察の利用は個人情報保護委員会の監督対象外で、マイナポータルによる本人開示もできない。

運転免許証との一体化とは単に運転免許証情報だけの問題ではなく、警察における個人情報の取り扱いを大きく変えていく危険な動向なのだ。

さらに2025年度から在日外国人の管理を行っている在留カードとマイナカードとの一体化も目論まれている。外国人に対するデータ管理は多岐にわたっている。出入国管理や就労情報などをマイナンバーで様々な税や社会保障情報と紐づけて一元的に把握するということが目指されている。

裏を返せば、常時携帯義務があり、管理の厳しい在留カードの在り方をマイナカードに輸出していき、「国内版パスポート」としてマイナカードを常時携帯しなければならないものとしていくことが最終到達地点なのではないだろうか。

運転免許証や在留カードとの一体化は治安管理の領域に踏み込んでいることを意味する。今後の監視社会化を展望するにあたっても、マイナカードが基幹メディアとなるのかどうか見極めていく必要があるだろう。

5.2023年3月31日をマイナカード廃止の記念日にしよう!

マイナポイント2万円分という1兆8千億円という税金を投入したにもかかわらず、来年3月までに対象者全員にマイナカードを所持させるという政府の目標達成はほぼ不可能となった。10月末においても交付済み率は50%を少し超えた程度である。もしこのままの水準で交付率がアップしていかなかったとすれば、明らかにマイナカードは失敗策であり、所持強制などは到底できないのだ。逆に言えばその程度の所持率であれば廃止を展望することもできる。

怖いのは代替策もないのに、「保険証廃止」という方針が貫徹されそうな「空気」を感じ取って、「諦めムード」が漂うことだ。「もうそろそろマイナ保険証にしないと保険診療が受けられなくなる」という恐怖感だ。

いま私たちは「国民皆保険」という仕組みをカード不保持者に適用しないなんていう「踏み絵」を突き付けられようとしている。そんな不当な弾圧に屈することなく、保険証継続を選択させるには、周りの友人たちに「マイナカード持たなくても大丈夫!」というメッセージを伝えてこれ以上マイナカードの交付率を上げないことだ。

そのせめぎ合いの末に、2023年3月31日をマイナカード廃止記念日としよう!

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