(2023.4.30)平 忠人
今回の研究会は、宮﨑雅人『地域衰退』(岩波新書:2021年1月)を取り上げ、報告者平 忠人、司会長澤淑夫氏、参加者26名(全てオンライン)で実施された。
今や人口減少が急激に進んでおり、とくに地方の社会や経済に打撃を与え、地域の農業・畜産や地場産業は、外国人労働者の就労なしには維持することも困難な状況であり、地方の衰退と東京の一極集中は、日本社会を深刻な危機に陥れるものである。従来型の企業誘致や原発回帰ではなく、子育て支援、新規の就農者支援、体験型ツーリズム等々の構想を参考のうえ、地域の衰退と再生をテーマに取り上げた次第である。
なお、今回の書籍は刊行が2021年1月の「新型コロナ(感染第3波)」期になされたことから、「同(感染第5波)」「同(感染第7波)」の「感染爆発」の前であり、他のデータも2018年までを基準としており、「コロナ禍」の影響度の深刻さはやや物足りないものがある。
したがって、可能な限り最新データを随時報告者が付け加え報告した。
更に、資源エネルギー庁(経産省)は2022年6月に「地域との共生と国民理解の促進」を公表しており、内容は原発回帰実現に向けての「立地自治体の構造」「同課題」「地域振興に関する取組支援」等々、明らかに「交付金」の名のもとに「原発回帰」工作を推し進めるレポ―トにも報告者が独自に触れてみた。
<報告の概要>
はじめに:「少子化加速」(最新のデータ)
①2070年日本の人口8700万人。(国立研推計)
②日本人75万人減 過去最大12年連続マイナス。
14歳以下は総人口の11.6%の過去最低。(総務省)
③日本人平均年齢48.6歳(世界第2位の高齢化)
第1章 (1)地域はどのくらい衰退したか (人口減少と高齢化)
①全国1151市町村で793市町村が減少。
②高齢率は、上位20市町村で40%を上回る。
☛地域における著しい人口減少は高齢化と強い相関関係が見られる。
☛基盤産業の衰退が原因?人口減少に盤産業の動向が大きな影響。
(2)労働力人口の減少
①上位20市町村のみで人口変化率はマイナス20.2%になる。
②当時の安倍政権は「地方に於いても有効求人倍率が高くなった」と強調したが、その背景には、深刻な「労働力人口」の減少があった。
(3)商店数の減少
①昼間人口の減少率の高い市町村では、商店数も減少傾向にある。
②昨年4~12月期、地銀の過半数40行が前年同期から減益、1行が赤字であった。
(4)地方都市の衰退
①製造業の衰退後に他の産業によって地域の雇用は吸収されなかった。
(5)病院数・医師数の減少
①2018年までの20年間で、病院の数がゼロになった市町村は全国で53ある。
(6)高等学校数の減少
①2016年までの6年間で、高等学校数がゼロになった市町村が24ある。
(7)増えたのは空き家
①日本全国:2021年448万戸⇒820万戸(20年間で1.8倍)
(8)止まらない地域衰退
①日本の地域は「人口減少」「少子高齢化」「産業の衰退化」の厳しい現実。
②2014年「地方創生」(第二次安倍改造内閣)成果は見られず、2024年に先送り。
第2章 (1)衰退のメカニズム (製造業従業者数の減少)
①2017年までの20年間で20%減少の770万人になった。
②外国人労働者は2021年10月現在172万7千人(製造業従事者46万5千人)。
☛特定の大企業を中心に地域経済が発展した企業城下町でのリストラは、地域全体の衰退を招く。
(2)単独事業への政策誘導と建設業の衰退
①補助事業から単独事業へ
☛国による自治体に対する単独事業への政策誘導も結果として地域衰退につながった。
②自治体の財政悪化と土木費の減少。
③建設業の立地状況と土木費削減の影響。
☛公債費が増加する中で自治体は土木費を削減し、その結果土木事業に依存する
多くの建設業者の経営が立ち行かなくなった。(雇用者数の激減)
☛地域における基盤産業の衰退は地域衰退の要因となっている。
第3章 (1)衰退の「臨界点」
①基盤産業を失った地域では、サービスの経済化(事業所サービスの拡大と偏在)に伴い、若者を中心とした人口の流失が拡大した。
(2)サービス業と大都市集中(集積の利益)
①サービス業や人口だけでなく、他地域に住む人々の消費も大都市に集中する事になる。
(3)社会保障が地域の産業構造を形づくる
①高齢者に対する社会保障給付が公共サービスの産業構造形成の要因となる。
☛公共サービスの中でも、医療や教育が成り立ちにくくなるほど人口減少が進んだ状態は地域衰退が止まらなくなる「臨界点」である。
(4)財政にも及ぶ衰退
①臨界点に達した地域の財政は厳しいものとなる。
☛自治体は標準的な行政を行うために借金せざるを得ない状況に陥っている。
第4章 (1)「規模の経済」的政策対応の問題点
①農業の大規模化は農村の持続を困難にする。
②衰退した地域でかつては基盤産業であった農業の活発化を、大規模で図っていくのは困難である。
☛政府は、農業の規模を拡大することによって地域の衰退を食い止めようとするのではなく、小規模農家を前提にいかにして農家を守り、地域を守っていくかを中心に据えて政策を展開すべきである。
③市町村合併は歳出の効率化をもたらさない。
☛「規模の経済」が働いて経費が削減されるとは限らない。
☛合併前に期待された歳出の効率かは実現しなかった。
(2)「小規模」を前提に政策を組み立てる
①「範囲の経済」商品の種類を増やすことによって増益を図る。
☛人口が減少している日本で大規模化によって問題を解決するという手法を、探ることはもはや適切であるとはいえない。
☛「地域の資源を生かし、モノ・お金・仕事が地域内で循環する経済システムを創る(エネルギーや食の『地産地消』互酬と助け合いの活動を活性化する)
(「脱成長のポスト資本主義」p.78)
第5章 (1)地域衰退をどう食い止めるか
①人々が活きていくために必要な社会サービスを確保する。
②医療サービスを維持する。
☛これから人口が減少していく多くの地域においても、診療報酬上の手当によって、地域における医療サービスの持続可能性を高めていく必要がある。
③国による政策誘導をやめる。(「地域創生」=地域特性を考慮しない表面的な施策であった)
☛自治体の努力によって、それらがあたかも実現可能であるかのように自治体に目標を設定させ、その結果を評価する(罪深い)。
④「まちづくりの成功事例」は参考になるか?
☛「まちづくりの成功事例」は表面的にまねることによって、その地域の問題を解決することはできない。
☛「新型コロナ」の感染拡大によって、観光客が激減したことから、これまでのような形で地域経済に貢献するようになるかは不透明である。
(2)地方から都市に電気を売る(農山村=小水力発電が地域経済にプラスの影響)
①発電事業は、地域の基盤産業となりえる可能性を秘めている。
☛地域に産業を興すという取り組みを、国の政策誘導や外部委託で策定した戦略に基づいて行わないということである。
☛地域の住民が主体的に取り組むことが、新たな産業を生み出すためには不可欠である。
☛「地域から逃げない資源や人間のニーズに基礎をおいた産業(エネルギー・食と農・福祉)において雇用を創出する。「平成経済衰退の本質」
②分権・分散型国家をつくる(「疎開」ではなく「定着」を)
☛「東京は日本経済の成長エンジン」という言説。
☛「新型コロナ」感染拡大によって、東京一極集中はリスクが高いことが明らかになった。
◇ 引き続き司会者の議事進行にしたがい、参加者から積極的に意見が交わされた
<農業現場の実情報告>
●現地での外国人労働者(研修生)の実態。
●技術力を伴う労働農産物は価格変動が激しい。
●若者の離農増加の実態。
●国からの補助金は、ある一定の規模以上に適用される矛盾。
●大規模化に伴い離農化が進む実情。
●水田は死んでいる・・「基盤」が壊されているのが現状。
<農業政策に関して>
●「コミュニティ」のあり方とその将来的展望について・・
●農業政策に農民たちの「声」は無視され、「農業」が壊されてきた。
●農業政策の「責任」は、国か地方か?
●外国産農産物に「関税」を施すことで、国内農産物をまもれるのか?
●農家の所得補償問題。(家族農家は不可能・・)
●食料安全保障(食料安定保障)について・・
●食料自給保証はどう機能するのか?
<地域衰退をどう食い止めるか・・>
●「子育て予算」明石市の好事例を参考にする。
●海外市場を視野に農業生産を展開する。(TPP関連)
●地域衰退と農業衰退を関連付けて解決策を図る。
●産業政策のあり方として価値形成問題、多角的な社会経済形成の確認が必要。
●政策の土台として、所得補償・生活保障政策が不可欠。
●グローバル資本主義の隆盛と日本資本主義経済の停滞問題。
●資本主義経済の価値生産の土台、その変化と展開の捉え方について・・
<まとめ> これからは、ケアを中心に置くと同時に、エネルギーと食料の過度の輸入依存から脱却し、再エネと食の地域自給を推進する。東京一極集中型の経済・社会から地方分散のネットワーク型の経済・社会に組み替える。巨大企業主導型(企業城下町)の経済から中小企業・協同組合・自営業のネットワークが先導する経済に転換する。(「脱成長のポスト資本主義」から引用)企業城下町は報告者挿入。
<参考文献>(一部引用)
『地元経済を創りなおす』 (岩波新書:枝廣 淳子 2018年2月)
『水道、再び公営化!』 (集英社新書:岸本 聡子 2020年3月)
『平成経済衰退の本質」 (岩波新書:金子 勝 2019年4月)
『脱成長のポスト資本主義」(社会評論社:白川 真澄 2023年4月)