長澤淑夫(PP研、当日の司会担当)
今回は「米中対立と中国経済の困難」と題し、三浦有史『脱「中国依存」は可能か』(中公選書、2023年)を取り上げ、金子文夫さんに報告いただき、続いて参加者で議論を行った。
著者によれば本書の目的は、大きな幅のある中国経済評価(崩壊論と持続可能性論)の当否を判断する分析枠組みを示し、それを適用し習近平政権の経済、経済政策を評価すること、及び中国リスクを客観的に認識しバランスのとれた中国政策を考えることとしている。その目的のため、サプライチェーンの再編はグローバル・バリュー・チェーンにおける中国の役割をどのように評価するか、「共同富裕」については中国共産党がIT産業をどう捉えているか、住宅バブルについては住宅価格がどのように推移すると市民がみているのかがポイントになると著者は論じている。そして米中摩擦とコロナ・ロックダウンによりサプライチェーンの再編は不可避とする論と住宅バブル崩壊必至論には疑問があるとし、所得格差の是正を謳う「共同富裕」は「文革大革命」の再来であり、IT産業の成長期は終わったとの論には肯くことが多い、と前置きしている。
1時間余りの丁寧な報告を聞き、中国経済の巨大さとその中で国有企業の独特な位置を改めて認識した。また市場経済とはいえ、共産党による政治介入は中国全体の特徴であり、自由な市場経済ゆえに躍進したアリババなどのIT企業の成長も結局は過度の政治優位のもと逼塞してしまった。昨今は不動産問題が経済成長の足を引っ張っている状況も概ね説得的に説明されていた。
世界経済の中の中国経済、特に製造業のプレゼンスは非常に大きくサプライチェーンの再編は現実的でないことが説得的に、統計により説明され、納得した。金子さんもその他のポイントを含め、脱中国依存の難しさについては同意見だとのことだった。また中国の抱える経済問題―不動産問題、過剰債務体質、格差是正、責任ある債権国たり得るかーは早急には解決の困難な課題という判断も同意見であるという。
休憩の後、従来のグローバリゼーションが世界秩序を形成する時代は終了(2016年のトランプ大統領以降)したことは確認できるが、それに替わる資本主義の新しい原理は何か?という大きな問題が議論された。またアメリカが主導する中国包囲網の形成、米中対立の行方については、中国包囲網は中国に「きいている」との判断が金子さんより示された。また「一帯一路」がらみの中国の投資政策の特徴も著作の内容を踏まえ議論された。さらに反G7の立場を取る(またはG7に単純には味方しない)グローバルサウスの動向なども議論された。これに関して、歴史的にみればG7が基本的には旧帝国主義国で、グローバルサウスが従属地域だったという点も指摘された。こうした問題の背後に現在進行中の二つの戦争、ロシアによるウクライナ戦争、イスラエルによるガザ侵攻が作る状況に対する日本政府の煮え切らない態度への批判と西欧のダブルスタンダードを指摘する意見や反イスラエル政府が反ユダヤ主義でないことの指摘がでて、議論が盛り上がったところで時間切れとなってしまった。次回も充実した報告と議論が期待される。