第17回<経済・財政・金融を読む会>活動報告

第17回<経済・財政・金融を読む会>活動報告

(2024.3.24)
平 忠人

                              

昨年の6月に岸田首相は「若者の所得を伸ばす」「児童手当を24年10月に拡大」する「少子化対策」決定に基づく「こども未来戦略方針」を記者会見で発表。「出生率」の低下を反転させるため若者の所得増が必要だと強調した。 

既に出版界では『世界(岩波書店)』の21年8月号で「サピエンス減少(人類史の折り返し点)」『季刊ピープルズプラン』においても15年4月号で「人口減少(何が問題か)」を70頁にわたって「経済成長を可能にした人口増大の時代は、終わりを迎えようとしている・・」(白川真澄編集長)を特集している。

当研究会でも、原俊彦『サピエンス減少(縮減する未来の課題を探る)』(岩波新書:23年3月)

大西広『「人口ゼロ」の資本論(持続不可能になった資本主義)』(講談社+α新書:23年9月)を取り上げ、報告会と積極的な議論が行われたのでここに報告する。

尚、当日の報告者は大川彗氏、司会は長澤淑夫氏、参加者16名(オンライン)であった。

1.はじめに(今回取り上げた要因)
 ◯日本をはじめとする、「先進国」の人口減少問題。
 ◯日本は出生数の減少に歯止めがかからず「人口激減」にいたる。
 ◯世界の人口分布が今後大きく変化、地球規模の社会変動が想定される。

2.国連新推計による人口変動予想(以下「サピエンス減少」から)
 ◯世界人口は今世後半中頃以降減少に転じる。
 ◯世界人口は減少に転じながら分布が大きく変化。

3.「新推計」を前提にした諸問題
 ◯従来の人口転換理論の見直し。
 ◯マルサス「人口論」の超克、人口爆縮の適応。
 ◯平均寿命延伸と出生力減少の因果関係。
 ◯地理的人口分布の変化に伴う問題。
 ・人口増加を上回る経済成長がない限り貧困化、社会不安。
 ・人口成長を上回る経済成長を先発地域からの投資、生産移転等で進めていく必要。
 ◯先発地域(具体例:日本)
 ・いかに社会システム崩壊を防ぐか・・「新推計」では国際人口移動(移民)で補う想定。
 ・現役世代(生産年齢人口)への扶養負荷は究極まで上昇。
 ・一人当たりの生産性・所得の向上、人口爆増地域等後発地域への経済支援・先行投資の促進、 国際人口移動の積極化提唱。
◯「新推計」には人口減に歯止めをかける契機なし。

4.今後の課題

 ◯「人口爆縮」に対しては社会経済システムを常に縮減再編していく必要があり、これは社会資本蓄積や社会的資本の拡大より困難。
  ・生産減と再分配強化。
  ・自然環境・資源エネルギー問題。
  ・国内・国際の人口移動の必要性。
 ◯グローバルな意思決定の必要
  ・国際的な人口移動の必要に伴う諸問題解決に不可欠。 

5.人口減少とマルクス経済学(以下「人口ゼロ」の資本論から)
 ◯「少子化」の原因。
 ・「格差社会の深刻化」に求める。
 ※但し、女性の場合「正規労働者」の方が有配偶率は低く「性別役割分担意識」による・・としているが、やや不十分な記述。
 ◯狭義のマルクス経済学を超えた「マル経」。
 ・家庭の出産数の決定要因を「効用最大化」によっても説明。
 ・「子育てコスト」マイナス面メリット等の大小関係で子供の数を決定。
 ◯未来永劫人口減少の隘路打開するのが資本論の「ヒトへの分配」重視。
 ・賃金切上げによる次世代労働力の質的量的形成の必要性。
 ◯人口減の最大の理由である「格差問題」解決の必要性。
 ・特殊な社会移転による「外部性の内部化」を行うとともに「平等化」を目指す必要性。
 ◯「マル経」の立場(まとめ)
 ・政府のやるような「少子化対策」といった次元では足りない。
 ・政府が行う「少子化対策」の強化は必用だが、合計特殊出生率を置換水準に上げることは不可能であり、根本的な社会の転換が必要。

6.論点
◯「サピエンス減少」に紹介される「新推計」は、日本・世界人口について悲観的結果。
・世界的人口分布の大きな変化を予測。
・グローバルな解決が必要な問題であることを認識する必要。
◯「サピエンス減少」の問題点。
・人口の変遷を「歴史的必然」と捉えているイメージが疑問。
・マクロ・ミクロの別を超えて人口が法則的に変動し転換していくのであれば、政策や社会的活動の意味は無に帰するのでは・・
◯「人口爆縮」への対応。
・食料生産を人口環境、高速移動手段の開発等高度テクノロジーを活用した社会変革による対応を提唱するが疑問である・・
・資源エネルギーの需給に新たな問題(逼迫)が発生する惧れが・・
◯グローバルな意思決定。
・武力行使の禁止や新たなグローバルな意思決定方式の定着が容易に実現するとは考え難い。
◯「マル経」に対する暫定的評価。
・小手先の(政府の「少子化対策」)政策を超えた「格差問題」の解決等根本的解決法を指向する点は評価。
・「総生産拡大」とするのは経済成長重視の旧来型社会主義路線の考え方を引きずってはいないか?
・国家による強制介入は適当か・・国家権限の安易な拡大を認める発想は旧来の全体主義的社会主義国家の轍を踏むことにならないか?

 ◇ 引き続き司会者の議事進行に従い、参加者から積極的な質問・意見等が交わされた

 <人口論をどのような視点で考察するのか?>
●人的資源論、生産力論、再生産論、福祉社会保障論等々。
 👉人口論は広範。

<生物学的観点で捉えた場合>
●繁殖能力(進化の過程・多産多死)。
●日本は食料需給率が低く、自給する経済展開は不可欠。
●社会のあり方に左右されるのでは?
●社会が生物学に与える課題検討の必要性。
👉生物学は社会のあり方と並行しての検討が不可欠。

<資本主義の発達に伴って人口増加か?人口増加が経済成長をもたらすのか?>
●マルサスの人口論に於ける食料増産と資本主義の発展について・・
●生産力を成長(発展)させたのは資本主義の影響か?
●社会全体の成長に資本主義の生産様式が貢献したのか?
●医薬品以外の進歩が人間の長寿化に貢献している。
👉イノベーションの進歩は経済成長にあてはまらないのでは・・(公害は企業の資本主義システムを変える)

 <資本主義(経済発展段階)と人口との関わり合い>
●自国労働者は海外労働者から搾取しはじめるが、時系列的には自国労働者からの利潤を追求することになる。

 <労働力の質的な問題>
●社会的生産力の向上に関して・・
👉生産力の向上は社会主義体制といえないか・・

 <食料生産(イノベーション)と化学肥料の関係>
●化学肥料が主因なのか?地球環境が主因では?
●食料の需給と寿命の関係。
●化学肥料と寿命の関係。
●最適な人口規模とは?(人口の限界・・マルサス、ローマクラブ)

 <外的制約に関して>
●所得の増加⇒出産増加⇒労働力増加⇒介護の保証の流れに対し、現在は子育てのコストが大き い・・所得のあり方、資本主義システムのあり方。
👉日本の少子化に特化したビジネスが横行。

 <人間を超越して資本主義はAIで生き延びる>
●生物の枠を超える資本主義。
👉快適さと生物学的進化は別では?

<グローバル化と地域循環>
●コミュニテイとグローバルの連携。
👉生産の目的からヒトとの関係が形成され社会像が描かれる。

 <資本主義が前提(経済成長)になっているが新しいイニシアティブが必要>
●世界的危機感がない。
●格差は人口減少部分に限定では?
●AIなど資本主義の自己発展、技術の発達をコントロール、制止力があるのか?
●グローバルゼーションは弾けていて、元に戻らない・・
👉将来性が欠ける資本主義は物足りなく全体像がつかめない。

— 小 職 の 感 想 —
ひたすら「経済成長」を追い求めてきた日本社会の現実、そこにあるのは「格差」「地域衰退」「少子高齢化」「ケアワーカー不足」「東京一極集中」以外のなにものでもない。
そのような危機的状況下に於いても「少子化対策」をめぐり「児童手当の拡充など充実策」「財源確保」と称し「子ども・子育て支援法等改正案」を閣議決定した上で「支援金」月500円弱を見込むという・・
いかにも上っ面だけの愚策であり、抜本的解決には遠く及ばない。
まさに今後においても「経済成長」を追い求め「労働力」の量的質的向上に幻想を抱く偽政者と経済界に対し、「経済成長のための人口政策」をはっきりと拒否すると同時に「政権交代」「主権在民」の観点に立ち、「市民運動」「地域・国政選挙」等の手段を通じて「格差是正」「ケア労働重視」を私たちは訴え、働きかけていかなくてはならない。

 

                                                                     

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