日米比軍事同盟の深まりを憂慮する座談会

日米比軍事同盟の深まりを憂慮する座談会

参加者 
白川真澄(ピープルズ・プラン研究所)
木元茂夫(ピース・デポ理事)
大橋成子(ピープルズ・プラン研究所)
武藤一羊(ピープルズ・プラン研究所)
司会:長澤淑夫(ピープルズ・プラン研究所)

司会:本日は木元さんをお迎えして、現在、日米比の間で進行する軍事同盟の危険な展開とその問題点を議論する座談会を行います。まず大状況の説明を白川さんにお願いし、その後、木元さんに詳しい軍事の有り様を、大橋さんからはこの間、米中間で揺れ動くフィリピンについての報告をお願いします。

白川報告

白川:4月に岸田首相が訪米して4月11日に日米首脳会談をやりました。その後、アメリカ議会では国賓待遇で議会演説を行ない「日米のグローバル・パートナーシップ」をぶち上げ、続けて初めての日本・米国・フィリピンの首脳会談を開き、重要なことを決めました。ところが、日本国内では自民党の裏ガネ問題が政治の大きな焦点になっていて、日米首脳会談とか日米比会談の問題がまったく議論になっていないんです。

武藤: そうですね。それが国政上一番の問題なのに、まったく焦点化されなかった。国会でもマスコミでも。

日米会談の意味

白川:『赤旗』が批判の論評を出していますが、何となく怒りが足りないと感じたんですけど。でも共産党しか批判しない。そこに大きな問題がある。岸田のアメリカ議会演説を読むと、よくこんなことが言えるなって驚愕しました。その意味を含めて、米・日にフィリピンを加えた対中軍事包囲網の形成の具体的な姿を今日の議論で明らかにしていきたいと思います。

この日米首脳会談は、やっぱり米国にとっても非常に重要な意味を持ったのだろうと思います。ロシアによるウクライナ侵攻が続いていて、それから去年の10月からガザでのジェノサイドが行われていますが、米国のヘゲモニーがますます揺らいでいる。イスラエルの軍事侵攻を全面支持したが、その残虐さもあって、イスラエル批判の声が高まる中でネタニヤフにブレーキをかけようとする。国際司法裁判所や国際刑事裁判所が厳しい態度をとり、国際的にはイスラエルが孤立しつつあります。そうなると、米国にも批判が向けられる。米国は国際秩序を再建するヘゲモニーを取ろうとしているが、ますますうまく行かなくなっています。

だからといって、中国が積極的にヘゲモニーを行使しようとしているわけではない。深刻な経済の落ち込みを抱えていて、「一帯一路」構想を含めて米国一極支配に代わる新しい国際秩序を創り出そうとする余力はないのではないか。

米中両大国ともヘゲモニーを行使できない、世界はますます混沌とした不確実な状況になっている。グローバルサウスの発言権が強まっているとは言っても、別にインドのモディ首相が明確な理念や考え方を持って国際システムを作ろうとしていないし、明瞭な構想も出てない。

ヘゲモニー不在の世界の中で、バイデン政権は、対中包囲網の形成を強化するといった形で何とかヘゲモニーを維持しようとしている。だけど、それだけの力を持てず孤立さえしている。そこで、今回の日米首脳会談が重要な意味を持ってくると思います。日米首脳会談で決められたことは、23年末の「安保三文書」の改定が起点になっていて、これを具体化して、日米間で確認したという流れの中にあります。「安保三文書」改定についても、残念ながら、日本ではほとんど議論にならなかったために、政権側はいいように事柄を進めてきたと思います。

日米首脳の共同声明に盛り込まれた中身はもちろん、軍事が中心ですが、それ以外にも経済の問題をはじめ多くの項目を盛り込んだ異例の共同宣言になっている。AIの新たな技術研究、脱炭素化とサプライチェーンの強化、フィリピンの問題と関連するがニッケル生産、宇宙開発、量子コンピュータなどで連携を強化することが盛り込まれています。

強まる米軍の指揮権

しかし、一番重要な項目は、後で木元さんから具体的に述べられると思いますけども、「米軍と自衛隊の指揮統制の枠組みの向上」です。これは、米軍の指揮統制のもとに自衛隊を最前線部隊として組み込むということです。自衛隊の側は、そのために統合作戦司令部を新設する。これまでの統合幕僚長は首相への助言をする役割だけで、三軍の作戦を統合指揮する人間がいなかったので、それを新たに作る。それに見合って、米軍の方もインド太平洋軍の司令部にある指揮権の一部を在日米軍に移すかどうかの検討を始めているという状況です。

いずれにしても米軍の指揮統制のもとに自衛隊を組み込んで行く。岸田や林官房長官は、それぞれが独立の指揮統制で行動し、自衛隊が米軍の指揮統制の下に置かれることはないとしきりに弁明しています。しかし、作戦行動の前提になる情報は米軍しか持っていないわけで、日本が独自の指揮権を持てるはずがない。まさに情報は全てを左右するから、それを米軍が握っている限り、自衛隊の統合作戦司令部が米軍の指揮統制系統の一部に組み込まれることは間違いない。

それに加えて、防衛装備品の共同生産についても定期的に協議する、日本が導入するトマホークの運用を米軍が支援する、米国・イギリス・オーストラリアによる軍事的な協力体制であるAUKUSに日本が技術面で協力する、米軍の大型艦船や戦闘機を日本で修理をするといったことを決めました。

岸田米議会演説

どうしても言っておきたいのは、岸田の議会演説の内容です。米国がリーダーシップを発揮してきたが、「米国は助けもなく、たった一人で国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」。アメリカの覇権が弱体化していることを岸田は率直に指摘して、だから「日本はすでに米国の肩を組んで共に立ち上がっています。米国は一人ではありません。日本は米国と共にあります」。実にすごい宣言をしています。

「日本は控えめな同盟国から外の世界に目を向けて強くコミットした同盟国へと自ら変革してきました」。これは具体的には、防衛予算を倍増してGDPの2%にする、反撃能力、つまり1千㌔射程の長射程ミサイルを保有する、サイバーセキュリティを向上させるといったことを指します。こうして、日本は米国の最も頼りになる同盟国、「米国のグローバル・パートナーである」ことを誓いますと言い切ったんです。日本は、米国がその覇権を維持する行動について何でも一緒にやりますと誓約したわけです。これは歴史的な演説だと思います。そして、さっそくフィリピンを引き込んで米・日・比の対中軍事同盟体制の構築に踏み出しました。

安部は訪米した時に集団的自衛権行使を宣言して、それを日本に持ち帰って安保法制を作ったわけです。あれも大変なことだったけれども、今回の演説はさらにすごい。ただ岸田自身がどこまで自覚してこれを言っているのか、よく分からないところがあります。

司会:どうもありがとうございます。では早速、木元さん、報告をお願いします。

木元報告

日米比の政治的ステートメント

木元:岸田首相は米国議会でこう演説しました。「両国のパートナーシップは二国間にとどまりません。例えば、米国、日本、韓国、豪州、インド、フィリピンによる三か国間や四か国間の協力、さらにはG7を通じた協力や、ASEAN(東南アジア諸国連合)との協力が挙げられます」。2016年の安保法制の施行以来、日本政府はここに掲げられた国々との軍事協力、共同訓練を推進してきました。ここ2年こうした国々を「同志国」と呼び、軍事協力の流れを加速しようとしています。

また、岸田は歴代の首相が誰も使ったことのない言葉で、米軍を絶賛しました。「今この瞬間も、任務を遂行する自衛隊と米軍の隊員たちは、侵略を抑止し、平和を確かなものとするため、足並みをそろえて努力してくれています」と。あまりにも一方的な見方です。米軍が「大量破壊兵器の保有」を口実にイラクに攻め込み多くの市民を殺傷したことなどなかったようです。

議会演説は、中国への批判が続きます。「日本の近隣諸国に目を向けると、現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向は、日本の平和と安全だけでなく、国際社会全体の平和と安定にとっても、これまでにない最大の戦略的な挑戦をもたらしています」

しかし、中国については、日米の思惑とASEAN各国の考えは大きく異なっています。端的に言ってしまえば、中国に対する包囲網を形成しようとする日米と、中国とも米国ともうまくやっていきたいというASEANの政治姿勢、経済姿勢の差です。

そして4月11日の「日米比首脳による共同ビジョンステートメント」です。共同声明は何回も読みました。「日米豪印(QUAD)、AUKUS、日米韓三か国の枠組みによるものを含め、平和で安定した、ルールに基づくインド太平洋地域を支援するための取組を歓迎する」と軍事協力の枠組みが例示され、日米比の協力がそれに次ぐものだと位置づけています。続いて、経済分野にスペースが割かれています。

中国・フィリピン関係の変化

「日本、フィリピン及び米国は、鉄道、港湾の近代化、クリーンエネルギーと半導体サプライチェーン及びその展開、農業ビジネス並びにスービック湾の民間港の改修を含め、影響の大きいインフラ・プロジェクトへの協調された投資を加速させることにコミットする」とあります。

ASEANと中国と日本、米国との関係について、昔パルクで少し勉強した経験があって、アジア経済研究所の「アジア動向年報」をまず見るんですが、フィリピン以外はみんな中国が貿易相手の第一位です。1970年代、80年代は日本がその位置にいたけれど、もはや中国に対抗できるような経済力は持ってない。そこでアメリカと一緒になってASEANにおける覇権を巻き返そうという意思があるのかなという感じがします。

この1年で、フィリピンと中国、米国の関係は大きく変わりました。2023年の1月にマルコス大統領は北京に行って習近平主席から三兆円投資という約束を取り付けて帰ってきました。ここまでは中国重視でした。ところが、4月にマルコスが訪米するとガラッと方針が変わっていきます。訪米直前にはワシントンへ向かう機内で、「フィリピンが巻き込まれるような形で挑発的な軍事行動の拠点として使われることは認めない」と記者団に断言していました。

ワシントンでの米比首脳会談では、バイデン大統領は「フィリピンは世界で最も複雑な地政学的状況にある」と発言。

訪米前の2月には来日して岸田首相と会談。日本はフィリピンの鉄道、港湾、道路の整備に6000億円の支援を行うと約束しました。うち、鉄道はマニラへの通勤に使われているものの拡充です。住友商事と、横浜市金沢区にある総合車両製作所が304両を受注しています。

三菱電機の警戒監視レーダーの輸出など軍事面にばかり注目していましたが、日本企業はフィリピンの民間企業への投資も急速に拡大させました。

4月の訪米後には、マルコス大統領は、どんどんアメリカベースの主張に変わり、一年経ったら今回の共同声明になってしまいました。共同声明には「10億ドル以上の米国の民間部門投資の発表並びにフィリピンにおける民間部門投資の動員に対する米国の継続的なコミットメントを歓迎する」とあります。さらに、「日本、フィリピン及び米国は、重要鉱物資源のための強靭で信頼できるグローバル・サプライチェーンを促進する方法として、三か国全てにおける重要鉱物資源産業を支援する。我々は、電気自動車及びエネルギー貯蔵システム用の電池材料や電池を生産し、世界市場に供給するという目標を共有する」としています。具体的にはフィリピンが豊富な埋蔵量を誇るニッケルの開発です。電気自動車の販売拡大がニッケルを重要な物質に押し上げたということでしょうか。住友金属鉱山はニッケル鉱の処理工場をもち、新たな鉱山の開発にも乗り出そうとしています。

共同声明は経済協力に続いて、海上保安機関の協力を強調します。「米国及び日本は、日本からフィリピンに対する海上保安船舶12隻の最近の提供や、船舶5隻の追加提供の計画を通じたものを含め、フィリピン沿岸警備隊の能力向上を支援し続けている」とあります。2013年の日比首脳会談で表明され小型の巡視艇10隻を供与、2016年には追加で大型の巡視船2隻の供与が決定されました。いずれも円借款によるプロジェクトです。

軍事演習

「2023年の日比米海上保安機関間での初の合同訓練に続き、米国は、本年、インド太平洋でのパトロール中にフィリピン沿岸警備隊及び日本海上保安庁の職員を米国沿岸警備隊の船舶に迎えることを期待する。また、今後一年以内に、日米比三か国の海上保安機関は、相互運用性を向上し、海洋安全及び保安を推進するため、インド太平洋において三か国間海上合同訓練及びその他の海上活動を実施する予定である」とあります。23年6月、日本は横浜の第3管区に配備されている大型巡視船「あきつしま」(総トン数6500トン)をマニラ湾に派遣し、日本が供与した高性能の巡視船とともに共同訓練を行いました。

海上保安分野での協力にとどまらず、軍事協力をさらに拡大することを宣言しています。共同声明には、「日米比三か国間及びその他のパートナーとの海軍種間の共同訓練・演習を通じた協力や、フィリピンの国防近代化の優先事項に対する米国及び日本の支援を連携させることにより、三か国間の防衛協力を推進することを決意する」とあります。日米比首脳会談直前の4月6日から7日にかけて南シナ海で「日米豪比共同訓練」が行われました。訓練の目的を「海上自衛隊と米海軍、オーストラリア海空軍及びフィリピン海軍との相互運用性の向上」としています。

安保法制が2016年に施行されてから、自衛隊がフィリピンで行われている米比合同訓練に参加するようになりました。最初は哨戒機や潜水艦の派遣でしたが、次第に部隊どうしの訓練を行うようになりました。カマンタグ(「海の戦士の協力」という意味)演習には、2017年から参加。この年は陸自中央即応集団14名が参加。18年には、この年の3月に発足したばかりの陸自水陸機動団と中央即応連隊が参加しました。水陸両用装甲車を米海軍の揚陸艦に搭載して、上陸訓練をやりました。しかし、陸幕広報室は「災害発生時における救援活動について訓練します」と発表しています。他国の海岸で上陸演習をやることには問題がある、陸自の中にもそうした認識はあるのでしょう。当然のことです。憲法9条を考えれば、他国の海岸に上陸することは侵略の準備行動にほかなりません。また、かつて米軍の巨大な海軍基地のあったスービック湾からフィリピン人運転手が運転する車両で移動中の、水陸機動団員が交通事故で死亡するという事件が起きています。にもかかわらず、2019年も水陸機動団約80名が参加して、同じ訓練が行われました。自衛隊の参加人数は毎回発表されてはいませんが、いままでのところこれが上限のようです。22年には米海軍の揚陸艦から陸自隊員の乗ったオスプレイを発艦させて上陸訓練を実行しましたが、30名の参加にとどまっています。「陸上自衛隊と米海兵隊が共同し、比海兵隊に対する特殊武器防護に係る教育をはじめて実施」しました。

米比の海上合同演習「サマサマ」(タガログ語で「共に」の意味)には、2019年から海上自衛隊が参加するようになりました。21年は海上自衛隊員3名が参加して「人道支援・災害救援に関する専門者意見交換」を行ったと発表しています。しかし、22年からは様相が変わりました。ウクライナ戦争の勃発、ロシアと中国の軍事協力の拡大を想定しての対応でしょうか。米比日に、オーストラリア、イギリス、フランスの三か国が加わり六か国の演習になりました。訓練海空域はスールー海、フィリピン南部のパラワン島の南東にある海です。海自は護衛艦(乗組員約170人)、米海軍は横須賀配備のイージス駆逐艦と哨戒機、オーストラリア海軍はイージス駆逐艦と補給艦を、英海軍は小型の哨戒艦を参加させました。海幕は「捜索救難訓練、洋上補給等」を訓練項目として発表しました。

23年は、米比日に、カナダとイギリスが加わりました。海自は護衛艦、米海軍は横須賀配備のイージス駆逐艦、フィリピン海軍とイギリス海軍は哨戒艦を、カナダ海軍はフリゲート艦を参加させました。注目すべきは、海洋状況把握(MDA)の専門者会合が訓練中に開催されたことです。 この年、内閣府・総合海洋政策本部が「我が国の海洋状況把握(MDA)構想」を決定しました。対象海域には「シーレーン等海洋の安全保障上重要な海域」が明記されました。こうした動きとの関連なのでしょう。

そして、もっとも大規模な軍事演習がバリカタン(タガログ語で「肩を組む」の意味)です。

22年は8900人の規模でしたが、23年には17000人の規模に膨れ上がりました。横浜ノースドックに配備されている小型揚陸艇(LCU)は、高機動ロケット砲システム・ハイマースを輸送しました。「対艦戦闘訓練」が行われました。地上に配備したミサイルで、海上の艦船を攻撃する訓練です。23年まではフィリピンの領海内で行われていましたが、24年は領海の外側の排他的経済水域で演習が行われました。

バリカタン24もほぼ同規模で行われましたが、その内訳は(米海兵隊、陸軍、海軍、空軍)1万1000人、フィリピン軍5000人、フランス軍とオーストラリア軍も小規模な部隊を派遣し、韓国、ベトナム、インドネシアなどがオブザーバー参加しました。自衛隊は航空自衛隊がはじめてのオブザーバー参加。「IAMD(統合ミサイル防空)に係る専門家交流に参加して米、豪、比の参加者との間で情報交換を行いました」と発表しています。参加人数は公表されていませんが、公開された写真を見ると、数人の規模にとどまったようです。

中国との軍事的緊張

最大の特徴は、米陸軍の第1マルチドメイン・タスクフォース(宇宙、サイバー、電磁波作戦能力をもった多領域部隊)が、トマホーク巡航ミサイルと対艦・対空ミサイルSM-6を地上から発射する「タイフォンミサイルシステム」を持ってやって来たことです。アメリカ海軍協会ニュースは「第1列島線とインド太平洋地域への初めての配備となる」と報じています。演習終了後には撤去されたようですが、今後、中距離ミサイルのフィリピンへの配備が繰り返されると、中国との緊張は高まる一方です。

バリカタン24のもう一つの特徴は訓練海域の拡大です。フィリピンの領海を越えて、排他的経済水域での演習をはじめて実施しました。4月25日から29日までフィリピン南西部にあるパラワン島西方の南シナ海で演習が行われました。中国とフィリピンが領有権を争う南沙諸島の直近海域での演習でした。中国が岩礁を埋め立てて滑走路を造成した場所まで240キロの海域でした。29日には中国軍の艦艇2隻が演習海域に進入して、米仏比の艦艇を追尾する行動をおこないました。

フィリピン海軍の軍艦は対艦ミサイルを、フィリピン空軍は対空ミサイルをはじめて発射した。幸いなことに軍隊同士の衝突はありませんでした。

しかし、30日には中国海警局の巡視船2隻が、フィリピンの巡視船に放水、同船の乗組員が負傷した。米海軍は5月1日、フィリピン海に展開していた原子力空母ルーズベルトを南シナ海に移動させました。

バリカタン24は、フィリピン周辺にかなりの緊張をもたらしました。来年のバリカタン25には、自衛隊が正式参加するという報道もあります。米比と組んで日本が軍事力の展開を拡大させるならば、緊張は高まるばかりでしょう。

フィリピンと台湾の間には、潜水艦の通過ポイントになっているバシー海峡があります。台湾では約15万人のフィリピン人が働いているという関係もあります。

いま、必要なのは継続的な協議の場を設けることではないでしょうか。数日後、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議で、インドネシアは「非同盟路線の堅持」を表明しました。一方を非難するのではなく、対話の重要さを強調したことを、とても心強く思いました。

今年のバリカタンでは、中国の艦艇が演習海域に入ってきて衝突はしなかったんですけど、アメリカとフィリピンの艦艇を追跡するところまでやったんですよ。4月30日に例の日本のマスコミが大々的に宣伝した中国海警局の巡視船がフィリピンの船に放水をしている。フィリピンが今から25年前にわざと座礁させた船。とにかく古い船を座礁させて、そこを海岸基地みたいに使っています。日本のマスコミは、あたかも最近座礁したような船のように報道されるんですけど、もう25年もそうゆう状態が続いています。

大橋:その座礁船の監視人たちに食料や水を供給していた船が放水された。これまで何年も配給は続いていたんです。

木元:この2015年の頃から訪問部隊地位協定の締結に向けての話があって、最近円滑化協定とか総互訪問協定とかいうのを締結する話が出ているんだけれども、お互いに合意できないところがあるようです。

白川:その相互協定は、これがないと軍事演習を公然とはできないのですか?

木元: そんなことはありません。これを結ぶとある程度の長い期間は、せいぜい一ヶ月、二ヶ月三ヶ月ぐらいですけれども、部隊が駐留できる。今はそういうものはイギリスとオーストラリアとしか締結していません。

大橋:フィリピンは米国とは結んでますよね。

木元:そうですね。フィリピンと米国は結んでいます。日本は結んでない。だからこれまで演習はそんな長いこと言えなかったんですよ。それが今後長い期間演習をやるようになるんだろうと。

でフィリピンの側からすれば、これはベローさんに聞いたんだけど、そもそも米国を撤退させた時点で外国軍の永続的な駐留を認めない、と憲法にはっきり書いてあります。

大橋:しかしその後、米比間では地位協定が何度も交わされ、最近では「防衛協力強化協定(EDOCA)によって、米軍が自由に使用できるフィリピン軍の基地が9か所増えました。

木元:ずっと居られるわけではないですよ。

大橋:従来の米軍基地のように何万人という兵隊を駐屯させるのではなく、いわゆるモーバイル方式。必要に応じてフィリピンの基地を自由に使用するから予算も減らせる。

木元: 日豪、日英間で締結された円滑化協定では、入国に当たって査証の申請は省略、個々の隊員は身分証明書を所持し、部隊としては旅行証明書を提示すれば入国はOKとなっています。部隊の中から行方不明者が出たら、48時間以内に受入国への報告が義務づけられています。軍隊から逃亡する隊員が出た場合の措置ですね。

「派遣国は、接受国における協力活動のために輸入する武器、弾薬、爆発物及び危険物の種類、数量及び輸送日程を接受国に事前に通報する」(第14条)。つまり、事前に申請すれば武器・弾薬の持ち込みオッケーと、円滑化協定には明記されています。

両協定は23年4月の国会で批准手続きがとられ、「実施に関する法律」も制定されました。フィリピンとの円滑化協定も基本的には同じ内容になると思います。

台湾に関しては、なかなか難しいんですけど論議はそれなりにされてきましたが、フィリピンについては、情報の共有も含めて、まだほとんど知られていない状況なんで、それを今後どう広めていくか、その辺をご相談したいと思って今日はやってまいりました。

司会:続いてフィリピンについて、大橋さん、お願いします。

大橋報告

大橋:日米比首脳会談で発表された「共同ビジョン声明」を読みながらぞっとしました。私は軍事の専門ではないので、この声明をフィリピンの社会・経済状況や民衆の生活を考えながら読みました。今後流れ込んでくる巨大な経済プロジェクトや巨額の軍事援助を受け止められる素地というか体力が、はたして今のフィリピンにどれだけあるのかを想像するとすごく不安になりました。

この声明では、軍事力拡大と経済協力の重要性を何度も繰り返しています。しかもその対象地域はすでに南シナ海ではなくて、インド太平洋ですよね。軍事面では今後の訓練についてかなり具体的な日程まで出て来て、今年中に、インド太平洋上でのパトロールにフィリピンの沿岸警備隊と日本の海上保安庁をアメリカの沿岸警備隊に迎えて三カ国の合同演習にする。来年のバリカタン25には、オーストラリア、韓国の防衛協力を拡大して参加させる。昨年のバリカタン23では17,000人が参加して過去最高と報道されましたが、今年は17,600人と、また最高記録を更新しました。そうなると来年はどのぐらいの規模になるのか。

ルソン回廊とは

共同声明が強調している経済協力はこれまでの形の経済協力とはかなり違います。

「米日比3カ国は、インド太平洋における最初のグローバル・インフラ投資パートナーシップとして、この地域に経済回廊を作る」ことを強調しています。まるで中国の一帯一路に対抗するような構想で、そこに日米の巨額な援助をぶち込む。その一環としてフィリピンに「ルソン回廊」を作ると発表しています。ルソン回廊とは何か?そこに再びそのクラーク、スービックが登場しています。30年前に両米軍基地が撤去された後、スービックとクラークは外国企業にとって関税ゼロの経済特区に転換されました。かつての米海軍基地スービックの街は驚く光景です。多くの中国企業が進出しており、中国で禁止されている煌びやかなカジノホテルやオンライン賭博を管理する会社が沢山あって、かつてアメリカ兵が使っていたバラック(しかしこれは非常に立派なホテル群ですが)に、それぞれの企業がホテル一棟を借り、そこに中国から連れてきた若いオンライン・ゲーマーが何百人も寝泊りして賭博ゲームの応戦相手になっている。ホテルの個室の2段ベッドに6人くらいが詰め込まれている映像を現地のテレビで見たことがあります。スービックの中国人人口は今や何千人にもなっていると報道していました。コロナ禍を経てもこのビジネスは盛況だと聞きました。

一方、米空軍基地だったクラークは韓国企業の街になっている。経済特区の管理行政担当をしているフィリピン人に聞いた話では、韓国人と中国人は仲が悪いから上手く住み分けている。クラークは韓国のIT産業系が多く、韓国料理屋がダーって並んでいます。

声明で発表された「ルソン回廊」は、このスービック・クラークからマニラ、そしてルソン島南端のバタンガス港を縦断して繋ぐ構想です。バタンガス港一帯の地域は、30年前に日本のODAで「カラバルソン」と呼ばれる巨大工業地帯に転換されました。「ルソン回廊」を作るために、鉄道・港湾の近代化、クリーンエネルギー・重要鉱物・半導体サプランチェーンの展開など、「影響力の大きなインフラ・プロジェクトの投資を加速させる」と声明では言っていますが、まだ難題が多い。

フィリピンはこの数年、東南アジアで第2位という高い経済成長を遂げてきたわけですが、交通・電力・水供給などのインフラが全く追い付いていない。スービックからバタンガスまでは鉄道もなく、何本も入り組んだ高速道路を使わなくてはならない。マニラ・スービック間でさえ、普通なら2時間で行けるはずが、実際はその倍はかかることもあるほど、昔も今も‘渋滞’がフィリピン名物になっています。

援助の恩恵はどこへ?

あとクリーンエネルギーと聞いてドキッとするのは原発です。マルコス独裁政権時代に建設されたバターン原発は、反対運動のうねりもあってアキノ政権に変わった時点で稼働前に止めることができたのですが、5月11日付の共同通信によると、アメリカの東アジア太平洋担当の会見で、「米国の原子力企業がフィリピンなど東南アジア諸国に小型原発を輸出できるよう、米商務省がマニラに原発産業の作業部会の拠点を置く予定」という報道がありました。

さらに重要鉱物の開発では、さっき白川さんも言っていたようにニッケルを重視しているんですね。フィリピンはインドネシアに続いて世界第二位の産出国です。すでに住友金属がニッケル開発を続けてきましたが今後はその規模がさらに大きくなる。ニッケルは電気自動車のエンジンに不可欠で、これまで中国が独占していたことに対抗して、アメリカが資金提供し、フィリピンは原料を提供し、日本と韓国とオーストラリアが精製技術協力するという計画が出されています。

フィリピンは資源だけ収奪されるという開発独裁時代の構造は変わっていません。しかもニッケルをはじめとする鉱物資源が豊富な地域は、ほとんどがミンダナオ島やパラワン島など、先住民族が住む先祖代々の土地です。土地を取り上げられ、強制退去させられた先住民の闘いはこれまでも数多くありました。

軍に関しては、木元さんが詳しいと思いますが、私がかつてフィリピンの軍事問題を追っている人たちから聞いたのは、フィリピンはそもそも対外的な軍事はアメリカに任せ、フィリピン軍はもっぱら共産主義を掲げる新人民軍やイスラム武装勢力など国内の反乱鎮圧のために組織・訓練されてきたため、対ゲリラ戦に強い陸軍にくらべて、海・空軍はかなり脆弱だってことを言っていました。そんな状況で、2000トン級の戦艦や巡視艦を操作する力が果たしてフィリピン海軍にあるのかという不安があります。だからこそ軍事訓練が目白押しなんでしょうが・・・。

経済の面で言うと、フィリピンの経済成長率はコロナ禍前後も7%ぐらいをずっと継続していますが、これは「砂上の楼閣」のような成長だと良く言われます。この成長を押し上げてきた要因に挙げられるのは、1200万人(国民の10人に1人)の海外フィリピン人からの送金、それによる国内消費の増加と不動産ブーム。製造業の成長はほとんどなく、あとは全部下請け産業です。最近流行りの「ビジネス・プロセス・アウトソーシング」と言われる海外IT関係やコールセンターが乱立し、何億という興行収入を稼いだ日本アニメのドラゴンボールやワンピースなどは、その制作の7割をフィリピンに下請けしており、コストは日本の3割で済む。フィリピンの平均年齢は24歳。英語が上手な若い労働力が安価で使われている。こうした「成長」の上に、今後巨額な開発マネーが押し寄せてくることで、資源収奪に伴う生活や環境の破壊、若い労働力の行く末など今後のフィリピン社会がどのような姿になっていくのかとても心配です。あと、対外債務の問題。軍事援助も経済援助も借款です。今、具体的数字を持ってきていませんが、年々累積する対外債務がフィリピン人の肩に重くのしかかっており、今後の借款でそれがどれほど膨らむのかにも今後目を向けていく必要があると思います。

汚職の温床に流れる巨大なマネー

フィリピンの進歩的なオピニオンリーダーであるウォールデン・ベローが、「デモクラシー・ナウ」というアメリカの国際ニュースのインタビューの中で「マルコス大統領は国防と外交政策を実質的に米国に委託している。私が言っておきたいことは、マルコス大統領はフィリピンの国益のことはほとんど考えてないということ。彼の主な関心は、アメリカやアメリカの同盟国に隠されているマルコス家の百億ドル相当(約1兆円)の財産を守りたいだけなのだ。つまり、マルコス一族による米国との同盟は、実のところ個人的な経済的利益のために促進されている。」

これは笑い話じゃない。私はこの間、フィリピンの左派や進歩的勢力の言論を調べていました。現地にいないのでネットで集めた情報が中心でしたが、軍事専門家の話を含めてあまりまとまったものが出ていません。でも進歩勢力が必ず言及するのは、このマルコス隠し財産と汚職問題です。

そしてフィリピン政界は、対米・対中政策に関しては決して一枚岩ではありません。元々マルコス家とドゥテルテ家は盟友だったけど、マルコスが急速にアメリカ寄りになったことで対立を深めています。親米派であれ親中派であれ、所詮国益を通り超した政治家の利権や思惑が渦巻く茶番だと、人々は冷静にみているようです。

司会:それでは武藤さん、コメントを。

武藤コメント 岸田的政治手法と左派・リベラルの対応

武藤:白川さんの提起とお二人の報告、たいへんに勉強になり、改めてことの重大性を認識しました。この頃少し別の問題にかかっていて岸田訪米についてきちんとフォローしていなかったので。とにかくこの2か月ほどの期間に、ひどくよろしくないことが進行したことは間違いない。岸田という、ぬらりくらりと何でも先送りする総理大臣の下で、国会に何の真っ当な説明も議論もなく、軍事、対外関係でそら恐ろしいほどの対米コミットメントとが首相個人の米国議会演説でなされてしまう。アメリカはここぞとばかり日本支配の総仕上げに押し込んできますよ。ここで面白いのは岸田のほうが安部よりも、アメリカとの政治関係でも、軍事的コミットメントでも「成果」を挙げている感がある。岸田は大事なことは一切裏でやってしまい、議論はさせない。せいぜい閣議決定。野党や有権者を説得しよう、そのために説明しよう、という気はないんですね。むしろ安部のほうがそれでも国民を説得しようという気はあった。集団的自衛権のときは、テレビに出て、軍艦のハリボテ模型使って、遭難した日本人の親子がアメリカの軍艦に助けられて、その軍艦がどこかの軍艦に攻撃されたとき、自衛隊は集団的自衛権がないと言って黙っていていいのか、とか本当に噴飯物の説明していたイメージが残っている。言葉で人を説得しようという姿勢は残っていた。岸田にはそういうことは全くない。人を説得したいとは思っていない。突っ込まれても、反論じゃなく、同じセリフを何度でも繰り返し、それを丁寧な説明と称する。そういうスタイルで、安部でもできなかったようなことがやられてしまう。これは一体どういう政治環境が、今、日本に生まれているかの指標として、見る必要がありますね。岸田の場合、言葉が現実と切り離され浮遊している。そういう岸田が総理として通ってしまう状況、それは一口で言えば完全に政治の崩壊、責任を伴う政治言語の廃棄と言ってもいい。だから閣議決定で何でも決め、国会は面倒だが仕方ない付き合い、という状況になった。こうなるには特殊事情もあった。コロナが間に挟まり、コロナ下のオリンピックという変則状況で狭義の政治がしばらくカッコに入れられたことが、こういう状況を促進したかもしれない。そのなかでどうするべきかと。ぼくは、ひとつ欠けている要素は、左派とかリベラルとか言われる政治潮流にこの政治のありようへの危機感、それがないんじゃないかと思うのです。その危機感があれば、左派・リベラルを結集しよう、全国的に新しい動きを含めてまともな政治勢力を作ろうといった動きが起こって当然。そういう状況にいまあると思うんです。その動きが見えない。自民党のほうもそうで、国内統治の筋を立てることができない。それが岸田の今度のアメリカ国会演説での踏み込み方のかなり大きな要素だと思います。つまりアメリカの立てている筋を借りて筋を立てたことにする。中国を敵としてインド・太平洋にヨーロッパ、NATOまで引き込んで中国にたいする米国覇権防衛体制の構築に献身する、日本はその最前線を担う、といった無展望、無責任、自分自身の根なしの筋です。ぼくは戦後国家の崩壊と言ってきたけれど、これが崩壊の姿。そのなかからどのよう筋を自前で立てるのか、その材料はどこにあるのか、それを正面に据えて政治を再建する必要がある。僕はそう考えているんですが、野党にも、運動者の側にも、問題の深刻さが実感されていないんじゃないか、という気がしてならない。

白川:その通りだと思いますが、安保三文書の改定の時もそうだし、今度の岸田の訪米についても、立憲民主党から共産党まで含めたリベラル・左派勢力がまとまって反撃し、それを大きな争点として押し出すことが全然できていないんですよね。

武藤:考えてないと思う。思いついてないと思う。

白川:政治の重要な対決点になる問題が、例えば沖縄の問題と関連してくるんだけども、地方自治法の改正案として出されています。これは、国が地方自治体に対してコロナのような緊急事態の時には指示権を発動できるっていうものです。2000年の地方分権改革以降、これまで一応形式的には国と地方自治体が対等な関係になるという地方分権改革の流れを全部ひっくり返すようなものです。これも、積極的に争点にする姿勢が弱いです。立憲は、セキュリティ・クリアランス制度にも賛成しているでしょう。維新は当然賛成するけども、維新が反対するようなことは言わないみたいな姿勢になっている。日米首脳会談やセキュリティ・クリアランスといった問題について、それを大きな争点として世論を作っていくという運動ができていないのが危機だと思いますね。

 NATOのアジア政策と日本の属国化

武藤:そういう国内状況で、急激に動く世界政治にどうかみ合うか。一つ特徴的なのはヨーロッパ諸国、かつてアジアに植民地を持っていたヨーロッパ帝国主義国が全部、アジア太平洋、また中国沿岸に海軍の艦艇を派遣して、存在感を示し始めていることです。そしてそれはすべて日本を足場に、日本の海上自衛隊と協力して動いています。歴史的文脈では、たいへん目障りで不愉快な景色ですね。NATO事務所を東京に作る構想があり、フランスが反対して実現の方向には向かっていませんが、日本政府はそれを推進しているように見える。いずれにせよNATO諸国のインド太平洋への軍事的展開は、中国包囲だけでなくロシアに睨みを利かせる布陣でもありますよね。ロシアは去年、日本海とオホーツク海で太平洋艦隊による大規模な演習をやっています。安倍政権のころから日本をめぐる安全保障環境が厳しさを増したという、で日本はそうしたきな臭い状況に自身の立場、政策で対応しようとしているか?していないし、できないんですね。貫くべき一貫した筋がないんですから。で、アメリカの筋を拝借し、便乗する。アメリカのほうは痩せても枯れても覇権国ですから、こうした複数の違う挑戦を統一的に全部引き受けなけりゃならない。だからそれなりの総合性を備えているわけです。しかし日本は覇権国でもないのにそれを丸呑みする。日本国憲法というものがまだ存在しているのにですよ。あまり知恵のないキツネが虎の皮をかぶるわけですよ。これは日本が本来周囲の状況それぞれに最適の対応する道を遮断してしまう。自国を軸にして対米、対中、対韓、対ロ、対DPRKへの関係を調整していくのが本来の在り方でしょう。その側面がどんどん希薄になって、主要な対外関係はすべて他律的に米国の戦略に組み込まれ、それで初めて実効性を持つ、そういう状態に今はなってると思うんです。独立国の立場じゃなくて、属国の立場。60年安保以来ずっとそうだったという話じゃなくて、従属に質的な変化が起きていると僕は見ています。アメリカ側はすでに露骨に属国扱いを始めています。5月17日に、米国の駐日大使のエマニュヌエルが、軍人を伴って、米軍機で与那国に飛び、県が着陸を許可しなかったのに、それを無視して与那国空港に着陸、自衛隊駐屯地を視察、隊員と懇談、という出来事がありましたね。他国の大使が、自国の軍用機で勝手に他国内を動き回るなんてことはふつうありえないですよ。大使というのは国を代表する外交官ですから、エマヌエル大使のこの行動は、わざわざ日本は属国なんだよと念を押す、焼き印を押す行動と見るほかない。アメリカの対日態度っていうのは質的に変わったとみるべきじゃないでしょうか。白川さんが最初に指摘していた軍の指揮権の米軍への一元化が起こっている。それは軍だけじゃなくて、政治関係においても急速に進んでいるんじゃないか。僕はそれを恐れています。

 台湾有事

白川:木元さんに聞きたいのですが、米国の対中包囲網の形成では、中国の脅威がますます高まっているということが大義名分になっています。その焦点が「台湾有事」論です。最近、2027年までに中国が必ず台湾に武力侵攻するという観測は少し下火になっていますが、米中両国とも全面的な戦争は避けたいと考えている。にもかかわらず軍事演習の拡大とか南西諸島へのミサイル配備などギリギリまで軍事的な緊張を高めるという動きが強まっている。このことをどう見ればよいのか、木元さんの意見を聞かせてほしい。

木元:そもそも、「台湾有事」というのは、極めて可能性が低いと思っています。中国も台湾も現状維持というのが本音だと思います。米国は中国が兵員を台湾に上陸させるための揚陸艦の建造を発表したことを好機として、「台湾有事」を言い立ててきましたが、台湾で中国との統一を望む人が少数派である以上、政治判断として「台湾侵攻」はありえない、というのが私の基本的な見解です。米国は、台湾の動向がどうあろうと、中国の軍事力を封じ込めたいと考えていると思います。そのためには、小規模な軍事衝突はあってもいい、米軍はそう考えていると思います。1月の台湾総統選で、国民党がかなり勢力回復しました。蔡英文さんのようにアメリカからどんどん武器買うみたいなことには歯止めがかかるのかなと思っています。日本は5月20日の頼清徳総統の就任式になんと30人の国会議員が行きました。それをやったら日中関係はどうなるかの判断が効かないのがいまの自民党で、あきれかえるばかりです。

私は基本的に、中国台湾関係は冷静に議論できる環境があれば、それなりに落ち着いていくと思います。中国が台湾の独自性を認めること、軍事的な恫喝をしないこと。アメリカや日本が軍事演習をやらないことが大切だと思います。麻生さんがわざわざ台湾に行って「戦う覚悟が地域の抑止力になる」と発言する、もうあのおろかさ加減が私には理解できない。台湾有事を一番避けなきゃいけないのは、日本のはずです。

アメリカは太平洋の向こうの国だからね。よしんばドンパチやっても経済的な影響はそれほどない。限定的だけど、台湾周辺で、米日と中国が軍事的に衝突した場合、日本の場合もろに影響をかぶるでしょ。今、円が160円と騒いでいるけどそんなレベルじゃなくなります。昔の自民党なら、真っ先にそういうことを考えたと思います。ぶつかった時はどうなるかを考え、ぶつからずにやってきたのが日本の戦後政治だったと思うんだけど、ここへ来て本当に冷静な政治判断ができなくなってしまった。

現在の自民党右派は、中国の経済成長をなんとかしてもっとダウンさせたいっていう思惑が非常に強い。アメリカも日本も。そんなことやったって日本に何の展望もないのに。中国と経済力がなぜこんなに開いたのかという冷静な分析はなくて、とにかく中国が悪い。力による現状変更と経済的な威圧。経済的な威圧だけで貿易構造はこんなに変化してるはずがありません。脅かして貿易が増やせるわけじゃない。その一方で、日中韓の閣僚会議を復活させ、近々やるみたいですけど、どこでバランス取ろうとしているのかが見えない。日本の財界も中国という市場をどうしようと思っているのか、そこが見えない。

日本の対中国外交の不在

白川:米国の対中包囲網が強化される中で、ドイツやフランスは首脳が中国を訪れています。ドイツも何百社という企業の代表を連れて行っている、マクロンもそうです。親玉の米国も、ブリンケン国務長官やイエレン財務長官が何回も北京に足を運んでいるわけですよね。ところが、日本の首相も外務大臣も、この数年間一回も中国に行っていない。首脳が北京に行っていないのは、日本だけなんです。これは、実に奇妙なことです。日中韓で協議の場がある場合だけ中国の首脳と顔を合わせる。中国に出かけないで、グローバルサウスの重視とか何とか言って南米を訪問している。

中国に対する外交をまったく行なわないという異常な事態について、野党もあまり追及しない。経済界も声を上げない。日本の輸出入の相手国の第一位は、中国なんです。だから経済界にとっても対中関係の改善が大事なはずで、企業は円安で大儲けしているけれど、やっぱり中国との関係が改善されないと、日本の経済は安定しない。それなのに、日本だけがまともな対中外交をやっていないのは異常なことですね。

木元:私、30年前ぐらいに中国行って、走ってる車の大半がフォルクスワーゲンだった。それを見てびっくり。ドイツはこんなに中国市場に力を入れてんだと痛感させられました。それは今もそんなに変わってないと思います。トヨタも少し遅れたけれども、中国に進出してEVで中国やドイツのメーカーと張り合っています。白川さんが今指摘した外交の欠如、それでいいと思えるのが不思議でしょうがない。

司会:さっき武藤さんがいった日本の政治の崩壊と関係があるんですか?つまりリーダーシップとか明確な方向がない状況になっているのでしょうか?

木元:なんかこう安部派に代表される右派勢力の中国憎し感情だけで出発してる。あんたら本当に国益を考えてるの?と言いたくなるような外交ですよね。

白川:経済界から対中関係を改善せよという声が上がらない。はっきり声を上げたのは、伊藤忠の丹羽宇一郎ぐらいです。実際のところ中国との関係改善なしには日本の経済は回らないのに、不思議で仕方がない。

木元:中国のやっていることは「経済的威圧」、「過剰生産」と批判して、一方で軍事力の強化を進める。立憲民主党はなんと統合作戦司令部、賛成したんですよ。福島みずほさんは退席して、これはね、やっぱりちょっと情けないよね。そんなものを作ることに反対の声がない。だから安保法制の時はあれよあれよという間に結集が進んで、最大値3万も人が集まる状況が生まれ、国会でも野党が頑張る状況になったけど、今は全く反対だからね。

白川:5月3日の憲法集会でも、立憲民主党の代表の演説は憲法審査会の話で、安保や外交をめぐる争点にはほとんど触れなかった。沖縄の高里さんからの南西諸島へのミサイル配備の危険性についての報告はあったが、あの集会全体がリベラル・左派勢力がどういう争点を掲げて岸田政権と対決するのかという方向を鮮明に打ち出せなかったという印象があります。憲法が大事だっていうことを一般的抽象的に言ってもしょうがないわけでね。

ASEANの独自性とフィリピン

武藤:大橋さんに聞きたいんだけれど、全体の国際情勢的の中では、ASEANが割と一つのまとまりとして、グローバルサウスっていう枠でもないそして親中国でもない、そういうものとして存在感を感じさせる存在になっていて、そのなかでは例えばインドネシアは非常に大きな力があると思いますけどね。一つ一つの国をとってみると大変な問題を抱えているけれど、ASEANとなると新しい国際的な要素として存在感を示している。だから、アメリカでもトップがASEANの会議には出かけていかなきゃいけない。そのASEANの中でね、フィリピンは何か意味のある存在なのか、それともメンバーではあるけれど、あまり重きをなしていないのか、その辺はどうなんですか。

大橋:私は感想めいたことしか言えないけど、フィリピンが向いているのはやはり完全にアメリカですよ。政治でも軍事でもアメリカの方しか向いていない。だからASEANとの繋がりも会議には出るけど、同じアジアの仲間というか、地域の連帯感をフィリピン政府に感じたことはなかった。

武藤:うん、僕もそういう感じを持っていた。でもその中で、アメリカ側がASEANの自律性をひっくり返すためにフィリピンを利用する局面はないのかな?フィリピンはASEANとの関係は薄い?

大橋:専門家の意見は別として、私の知る限りでは薄いと思う。植民地から独立した過程はASEAN諸国はそれぞれ違うけれど、フィリピンの場合はスペインとアメリカという特殊な歴史があり、宗教だけでなく、特に文化や言語はアメリカの影響を色濃く残している。そこはタイやインドネシアやマレーシアなどとはかなり違いますよね。

民衆レベルのアジアのNGOネットワークでも、フィリピン代表は浮いちゃうことが多かった印象があります。英語がすごく上手だということもあるし、議論の仕方もアメリカ的プラグマチズムというか、行きつ戻りつ思考するというより箇条書きに従うような進め方をする。

武藤:わかる。そのアメリカはASEANをちょっとうるさい存在と見ているようだから、フィリピンはその中でアメリカの手先のような動きはしていないのかな?

大橋:アメリカに言われたら、特にマルコス大統領は従うと思う。ドゥテルテ前大統領以外、歴代大統領はずっとアメリカの手先だったわけだし。ただ、まだそのような圧力はかかっていないですよね。

白川:今フィリピン自身も中国との経済的な関係ではそんな簡単に切れないでしょう。

大橋:そうだと思います。中国との関係は今に始まったことじゃなくて、フィリピンの政財界を牛耳っているファミリーはほとんどが中国系フィリピン人。東南アジアの華僑の力と同じです。そこに近年になって新しい中国資本が流れ込んできた。台湾もしかりです。

白川:いくらITのアウトソーシングでコールセンターを作って雇用を増やしているといっても、それで何百万人の雇用を作れないでしょう。

大橋:コールセンター関連は、今数字をもってきていないけれど、全国で百万人単位ですよ。

白川:でもね、自動車とか電気産業のような大量生産で雇用を作り出すような産業じゃない。

大橋:そう。製造業は庶民の零細工場は別として全然育っていない。モノを大量に作っているのは経済特区、輸出加工区です。そこでは労働法は適用されず、労働組合も作れない、労働者を使い放題の状況です。

白川:今のアメリカの動きはフィリピンだけを引き込んで、ASEANを分裂させる動きに見えるよね。

木元:私にもそういうふうに見えますね。

大橋:そうですね。それをタイやインドネシアでやったら絶対反発がすごいと思う。アイデンティティやプライドの問題が違う。

木元:だからインドネシアの前の大統領、ジョコさんがバイデンと会談してもやっぱり自己主張をちゃんとやった。今度のブラボウ大統領は国軍出身ですが、6月1日のシンガポールで開催されたアジア安全保障会議では、「地政学的な緊張の高まりにグローバルサウスは幻滅している。大国には責任が伴う。人類の利益のため、互いに協力できるはずだ」と、米中対立を明確に批判しました。

大橋:タイもマレーシアもインドネシアもベトナムも経済成長の中で、しっかりナショナル・ブルジョアジーが形成されているけど、フィリピンで感じるのは、自国にお金が貯まらずザルのように海外に蓄積されている。メイドイン・フィリピンというものが本当にないように思う。

日本政治とASEAN

武藤:日本はね、今、その対アジアということで言うと、あんまりドクトリンがないんだよね。あのASEANとはその昔、福田が行って、日本は軍事大国にならず、平和に貢献するという福田ドクトリンで関係を繋いだんだけどね。その時はまだASEANは生まれたばかりで大したものではなかった。ところが今ある実態を備えていて、しかもその中の多様性ってすごいじゃない。非常に大きな力だと思うよね。インドネシア、ベトナム、タイなどが牽引する力があるし、マレーシアのように独特な国際政治感を持つ国、それにシンガポールまでが協調してるわけだから、EUなんかよりもまとまりがある気がするんだよね。それが今後の国際秩序の大規模な差編成のなかで、意外と大きい要素になるんではないだろうか。

白川:共産党の主張で評価できる点は、ASEANを高く評価して今後の外交政策のモデルにしようとしている点です。なかなか良いところに注目していて、悪くないと思います。米中の対立に巻き込まれるのではなくて、中立の立場を取って米中対立を超えるという外交をやればよいという主張は、説得力がある。ただ、立憲も含めたリベラル・左派が全体としてそういう方向を打ち出せていない。

白川:ASEANもEU的な自由貿易市場、そういう経済統合を進めるっていう方向は出しているけれども、具体的に進んではない。それがかえって良いのかしれない。通貨統合するとか経済統合するとか理念的には言っていても、具体的に進んでいない。逆に経済社会があまり破壊されていないと僕は思う。

南西諸島の軍事化

白川: 木元さんに伺いたいんだけど、南西諸島へのミサイル配備は軍事演習と並んで大問題なんですが、現地では自衛隊の動きとか住民の動きとかで特徴的なことはどういうことがありますか?

木元: 今年の3月に沖縄のうるま分屯地(陸自の駐屯地のうち人数500人以下の小規模なものを指す)に地対艦ミサイルを配備して、それで琉球弧へのミサイル部隊の配備は一段階と思っていたんですが、そこで終わるかと思ってたらとんでもなくて、さらにその電子戦部隊を配備しましょう、与那国島に配備されて、宮古島にも配備しようとしています。そして、例の重要港湾、重要空港全国16箇所、与那国島の糸数町長があの三つ目の港、を誘致しましょうって言いだしました。三つ目って言いながらね、二つ目も完成してないんですよ。沖縄島のうるままでは自衛隊の新たな訓練場を作るっていうのは住民がこぞって反対したんで、とりあえず防衛省は引っ込めました。

武藤: それ、ゴルフ場跡を訓練基地にしようという計画をつぶした。1000人を越す町民集会。すごい熱気だったようですよ。沖縄で自衛隊基地を阻止した初めての経験じゃないでしょうか。

木元:だからミサイルの方は配備されちゃったけど、次の段階としては今の射程200キロしか飛ばないミサイルをね。千キロ以上飛ぶ。長距離ミサイルに配置替えするのかどうか。来年から納入されることにはなっています。今年もとんでもない予算がついてます。南西諸島にそれを配備しますとは正式には言ってない。一つの動きは、九州の湯布院、大分県。あそこに新しく地対艦ミサイル連隊を新しく作る。弾薬庫もどんどん増やしていく。そういう動きが進んでいる。

大橋:南西諸島の軍事施設の土地はもともとどういった土地でしたか?

白川:強制的に収容してるわけじゃないんだよね。

木元:それは宮古島で言えばゴルフ場の跡地を買い取った。奄美大島の奄美駐屯地もそうでした。宮古島では市長が絡んだ汚職があって、市長がパクられた。作る前にそれが明るみに出てパクられていれば、もうすごい力になったと思だけど残念ながらできてから捕まった。

武藤:今配備しているのは対艦ミサイル?。

木元:地対艦ミサイルです。はい、対空ミサイルも配備してますけど、対艦ミサイルを空からの攻撃から守るのが基本的な任務です。要するに中国の艦艇を攻撃するための基地ですよね。

武藤:長距離を配備するっていうのはどういうこと。

木元:中国のイージス艦が搭載している対艦ミサイルYJ-18の射程が600kmなので、現状では一方的にやられてしまうという危機感なんでしょう。巡航ミサイルCJ-10を搭載しているイージス艦もあります。こちらはトマホークを上回る射程2200kmという情報もあります。そもそも、領有権をめぐって争いのない宮古島や石垣島にミサイルが打ち込まれるという状況を想定するのが、どうかしていると思うんですが。しかし、射程距離を1000kmに延伸しても、中国には射程2500kmの対艦弾道ミサイルもあります。現状は、長距離ミサイルの開発・配備競争が始まってしまったというところにあると思います。

ただし、南西諸島(琉球弧)の自治体には、長距離ミサイルを配備するという通告は、まだしていないと思います。23年3月に石垣市議会を傍聴しましたが、中山市長は「長距離ミサイルを配備するという話が政府から正式に来てから考える」と答弁しました。でも配備する方向で間違いない。千キロ飛ぶようになると中国の陸上の基地も両方攻撃できるっていうことですね。射程1600kmのトマホークも導入すれば、その範囲はさらに広がります。24年3月には、そのトマホークを搭載したイージス艦ラファエル・ペラルタが石垣港に、水深不足で入港接岸こそできませんでしたが、沖泊まりして乗組員を上陸させました。

武藤:今のところ南西諸島への展開っていうのは、中国の艦隊をターゲットにしてるということですか?

木元:そうですね。すでに、中国が保有する艦隊は海上自衛隊と在日米軍が保有する艦艇を大きく上回っています。米空母を除いての話ですが。これから日本が建造するイージスシステム搭載艦に相当する、レンハイ級イージス巡洋艦がすでに8隻配備、さらに4隻建造予定。旅洋Ⅲ型のイージス艦がすでに25隻、旅洋Ⅱ型が6隻、江凱型フリゲート艦が30隻。小型の艦艇も入れると、大雑把に集計しても150隻。海上自衛隊は護衛艦隊32隻うち8隻がイージス艦、地方隊配備の小型護衛艦14隻、機雷戦能力のあるフリゲート艦4隻、合計50隻ですね。横須賀にいる米軍のイージス艦が11隻。重要なことは中国の艦隊は確かに隻数は多いけれど、日米の艦隊ほどに攻撃的な演習を繰り返してはいません。頼清徳総統就任後の台湾周辺での演習も、実弾発射は伴わない演習でした。南沙諸島、西沙諸島で、領有権争いはありますが、他国の島を次々に奪取しているわけでもありません。ましてや、民間船舶の航行を規制したことなど一度もありません。一方で、南シナ海ほぼ全域の領有権を主張しています。現状を冷静にみれば、対話と外交で解決できると思うのです。

しかし、米軍は台湾にしろ、フィリピンにしろ、軍事演習を重ねて中国軍を封じ込めるという戦略ですね。それに日本が引き摺られている、いや、日米比共同声明を見れば、積極的に加担していると評価すべきですね。

3月には石垣島に今まで寄港したことのなかった横須賀のイージス艦を無理無理入れたのはアメリカにとっては、イージス艦の南西諸島での作戦行動が今後必要だということですね。

大橋:漁業や農業への影響とか騒音問題など、具体的な住民の被害は?

木元:あんまり聞いたことない。一番ひどい被害は鹿児島県の種子島の向かいの馬毛島。8.2平方キロメートルしかない島を全部基地にしちゃう。60年代には600人近い住民がいてトビウオ漁や農業で食ってた。1980年に無人島になりました。ところがもう全部基地になっちゃう。馬毛島の周りの海は非常にいい漁場だけど、工事が一斉にはじまって、漁業ができない状態がある。でも、防衛省は工事関係者の輸送を漁業者に依頼して、批判を封じ込めているということをやっている。これから工事で魚取れないということが起こってくるよね。漁業やってる人が高齢だし後継者もいないし、という状況。

大橋:ほとんど漁業で食べている人たちが多いんですか。

木元:種子島の漁協には400名あまりの漁民が加盟しています。ただ、漁獲量は減少気味で、漁民もだんだん減っていると聞きました。

大橋:与那国の人は台湾に親戚がいそうだよね。系図をたどれば。本州に来るよりうんと近いもんね。

木元:植民地支配してた時に石垣島までは結構農業移民が台湾からきてるんです。その人たちの子孫はそこそこの数今でも石垣島に住んでいます。

白川:玉城知事が昨年、福建省に行って文化交流を強める約束をしました。あまり報道されなかったけど、非常に大事な動きだと思う。台湾、福建省、南西諸島、沖縄はつながっているわけだから、地域間の交流が進むのは緊張緩和にとってすごく良い動きだと思う。

大橋:東南アジアの華僑の人たちっていうのはほとんど福建から来てる。

木元:そうそう言い忘れましたが、台湾在住のフィリピン人労働者って15万人。だからフィリピンにとって台湾有事のダメージは大きいかもしれないですよね。

反戦運動の現状

司会:問題点ははっきりしましたが、最後に反戦運動の展望と現状をまとめていきたい。

白川:今日話したことをもっと大きな声で、はっきりさせなきゃいけないよね。これだけの問題が議論として出てないのは深刻な問題だと思う。裏金問題ばかりが、去年の12月から政治の焦点って。

大橋:広めたいけども、今私たちの周りの媒体がどんどん小さくなって、活字メディアも少なくなってますよね。

白川:横浜で二ヶ月に一回ぐらい街頭演説でしゃべるんだけど、やっぱり岸田が訪米した直後にその話をした時も、反応は悪かった。全然聞いてくれない。この問題を取りあげてくれるオピニオンリーダー的な、テレビにも出るような評論家でさえいないでしょ。

大橋:ところで今反基地運動は元気ですか?

木元:全然元気じゃない。

白川:木元さんたちが集会するときは、神奈川の人たちが中心になるんですか。

木元:そうですね。私がやればまあ神奈川中心だけど。

大橋:全国ではどういうところがつながっていますか?

木元:今ね、元気なのが大分で弾薬庫建設反対運動。行って見て驚いたのは、弾薬庫の周りの人家の多さでした。市営住宅や小学校もありました。弾薬庫のすぐそばに大分大学があって、そこの名誉教授が四人も反対運動に加わっているそうです。沖縄防衛局もそうでしたが工事の全貌を住民に説明しない。大分で言えば、23年度の計画だけ説明して、あとから24年度の計画を出してくる。こんなやり方をされれば誰だって怒る。

白川:今その反基地運動の全国的なネットワークがそれなりに存在し、元気なの?

木元:部分的にしか存在してない。20世紀中はなんとかやってたけど、21世紀になってからは厳しい。再興しようという動きもありますが。

大橋:部分的ってどういうこと

木元:例えば厚木の人が中心になってる全国爆音訴訟連絡会。一応沖縄の嘉手納と普天間も含んで岩国、宮崎と小松との訴訟団。嘉手納が2万何千人の原告だけど、全部合わせると4万人近い原告で運動をやっている。やっぱり情報交換の必要性をみんなが感じている。どこの訴訟で国は何を言ってこっちは何を主張するのかの情報を交換するあとは聞かないような。リムピースは続いている。

白川:木元さんはよく情報を出してるね。月に一度でしょ。

木元:そうですね。昔は『派兵チェック』は毎月でしたよね。なくなってみるとね、あれの意味が本当によくわかったね。もうやっぱりあれで毎月毎月全国的な情報交換やってたっていうのは非常に大きな意味があった。梶野宏君、あと反天連、天野恵一さん、池田五律君、山本英夫さんとかそうですね。

白川:杉原浩司(NAJAT)さんは軍事費問題を中心に頑張っているね。

結論

木元:今日は久々の機会だから言うけど、フィリピンのことは主張していかないといけないですよね。難しいのは、あの中国との関係をどう整理するのか、どう展望するのかなかなか議論が分かれるとこじゃないですか?最近で言えば、ウクライナ戦争どう見るのかっていう議論もあるし。ただ、まあ、そういう議論には必ずしもとらわれずに、このフィリピンとの軍事協力の強化はおかしいんだ、ASEANとの関係見ればASEANはアメリカと中国に挟まれながら平和的にこう生きてきたじゃないか、それを壊すようなことはしてはいけない。この点で論陣を張るべきです。

白川:まあいい結論じゃない。今そうですね。今の結びにしましょう。

司会:ありがとうございました。ではこれで座談会を終了します。

(この座談会は2024年5月22日水曜日に行われました)

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