『絶望の中の希望』  そんなものあるのか な? (気になった本の紹介)

『絶望の中の希望』  そんなものあるのか な? (気になった本の紹介)

鶴田雅英(相談支援事業所ここん/原爆の図丸木美術館)

PP研のサイトで何か書くことになりました。「結論がなくても、内容がしょうもなくても、そんなことはわかってるから」というPP研の運営委員の複数のみなさんのやさしい励ましを受けて、久しぶりにPP研のサイトに書かせてもらいます。

使いまわしている感がある話ですが、気が付いた人は黙っていてください(笑)。
 紹介したいのは『暗闇のなかの希望 増補改訂版』 (ちくま文庫2023年)。この大好きな本が増補改訂版として文庫になっているのをすっかり見落としていました。しかし、最近、行きつけの近所の本屋「葉々社」(梅屋敷駅近く)にちゃんと目立つように置いてくれてたのです。お気に入りの本屋が近所にあるのはほんとうに幸せ。で、この本の著者はレベッカ・ソルニット。この本が最初に七ツ森から出たとき、彼女はまだまだ日本では無名の人でした。ちなみに、ちょっとした自慢でもある小ネタを披露すると、彼女のお兄さん、David Solnit と会ったことがあるのです。会ったのは2008年のG8サミット反対のサウンドデモ。彼はこのデモで使うパペット(大きな棒付きの人形)の製作ワークショップのファシリテーターでした。 パペットの写真は https://www.asahi.com/special/gallery/images/HOK200807100001.jpg

で、暗闇≒絶望の中に希望はあるのか、という話ですが、絶望的な状況は枚挙にいとまがないです。

終わらないどころかひどくなる戦争。

・止まらない気候変動。

・政治に背を向ける人の多い日本社会。

・飢えや治療可能な病気で亡くなる人の多さ。

そんな世界に生きています。そんな中、この冒頭で著者のレベッカはこんな風にいうのです。

「あなたの敵は、もう希望はないとあなたが信じることを願っている」

 現実は少し上に箇条書きしたようにホープレスな社会です。そして、そこに希望がないとあきらめることを「奴ら」は待ち望んでいます。思い通りにさせるか、と思うものの、軽々に希望を語れる状況はありません。希望をもつということは、こうした現実を否認することではないと言いつつ、レベッカは希望を語ります。「社会なんて変わらない。無力な自分に出来ることなんてない」と誰もがあきらめたら、社会はほんとうに変わらず、ひどくなる一方。この本には「希望とは何か」ということがいくつかも描かれている。

・希望は、私たちは何が起きるのかを知らないということ、不確かさの広大な領域にこそ行動の余地があるという前提の中にある

・希望とは、いつ、どのように意味が生まれ、だれや何にインパクトを与えるのかあらかじめわからないとしても、それでも私たちの為すことに意味があると信じること

・物事は常に良く変わるとは限らない。しかし物事は変わる。行動しさえすれば、私たちはその変化の中で何らかの役割を果たすことが出来る。その変化こそが、希望や、記憶、すなわち私たちが歴史と呼ぶ集合的な記憶が生まれる場所

・希望はソファに座って宝くじを握りしめながら幸運を願うこととは違う…。希望とは非常時にあなたがドアを破るための斧であり、希望はあなたを戸外に引きずり出す

・希望は、単にもうひとつの世界は可能かもしれないということにすぎず、そこには約束も保証もない。希望は行動を求める。希望がなければ行動はできない

・希望と行動はお互いを成長させる

 レベッカは同時に偽りの希望についても言及しブロッホを引用します。『希望の原理』のなかで彼は「欺瞞的な希望は人類に最大の悪を為し、力を奪うもののひとつ・・・」と書いているとのこと。例えば、米国の引き起こす戦争が正義で平和や安定をもたらすものだとか、再び経済成長が起きて日本社会は豊かになるとか、そんな偽りの希望。

そしてSDGsには両者が入り混じっているように思います。大量生産大量消費を促進する大企業が唱えるSDGsを「アヘンだ」と切り捨てるのはちょっとすっきりする話ではあるのですが、SDGsを使って、このどうしようもない世界を何とかしたいと努力する人たちも他方にいて、SDGsをめぐる綱引きが行われていると、ずっと前に古沢さんから聞いたような気がします。

 ともあれ、この本には人々が行動することで権利を勝ち取り、社会を動かしてきた例がいくつも書かれています。社会運動をいくらやっても、世界はちっともいい方向に変わらないじゃないかと思ってしまう局面はたくさんありすぎて数えきれないくらいですが、世界がもっとひどくなることを押しとどめている場合もある、とレベッカはいいます。

社会はこんなにひどく、周りには無関心な人が多く、希望なんてあるのかと思いがちなので「もう、全然だめだ」とか思ったときに取り出して読みたい、そんな本です。正直、社会がこうあってほしいという方向に変わるかどうかなんて、ぼくにはわかりません。でも、希望はない・社会は変わらないとあきらめて生きるより、変わるかどうか確信はないけど、いつか変えることが出来るかもしれないと信じて生きるほうが100倍楽しい、と思うわけです。

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