Ⅰ 24年総選挙の結果
1 獲得議席、比例区獲得票
獲得議席 増減 比例区獲得票 得票率 21年 増減
自民党 191 ▼56 1458.2万票 26.7% 1991万票 ▼533万票
公明党 24 ▼8 596.4 10.9 711 ▼115
維新の会 38 ▼6 510.5 9.4 805 ▼295
国民民主党 28 21 617.2 11.3 259 358
立憲民主党 148 50 1156.4 21.2 1149 7
共産党 8 ▼2 336.2 6.2 416 ▼80
れいわ 9 6 380.5 7.0 221 159
社民党 1 ±0 93.4 1.7 101 ▼8
参政党 3 2 187.0 3.4 ―
日本保守党 3 3 114
無所属 12
(自民非公認) 6
※投票率:53.85% 前回の55.92%を2.07%下回った。投票者総数は5459.9万人。
※女性の当選者:73人で、前回より28人増、15.7%を占めた。2009年の54人を上回り最多となった。
2 自公の過半数割れ
(1)自民党は、56議席を失って単独過半数を大きく下回る惨敗を喫した。比例区の得票も533万票減らして1458万票であったが、これは過去(1996年現行選挙制度で)最小となった。連立を組む公明党も8議席減、比例区得票115万票減で600万票を割り、過去最少と大敗した(とくに大阪では維新に4選挙区で全敗)。その結果、与党は215議席にとどまり過半数(233)を割り込んで、2009年以来15年ぶりに少数派に転落した。非公認と無所属の裏金議員6人を含めても、また右翼政党(参政党と日本保守党)の6人を含めても過半数に届かない歴史的敗北である。
(2)裏金問題に象徴される自民党の「政治とカネ」の特権・腐敗に対する人びとの怒りは想像以上に大きく、自民党支持層の大量の離反を招いた。言い換えると、自民党支持層が不信を抱いて大量に離反したこと、つまり自民党の自壊こそが、惨敗の主要な要因となった。
*投票率が前回の55.92%から53.85%へと2.07%低下したが、自民党支持者が棄権に回ったことが大きな要因だと推測される。すなわち、投票率の低下が自民党に有利に働かなかった。
*共同通信の出口調査によれば、自民支持層のうち自民党に投票したのは69.7%にとどまり、21年総選挙の77.3%よりも7.6%も減少した。立憲民主支持層のうち86%が立民に投票したのとは対照的である(日経24年10月29日、10月28日)。
*自民党は、これまで比例区の投票先ではずっとトップに立ち若い世代の高い支持を確保してきたが、今回は支持を大幅に減らした。朝日新聞の出口調査では、18・19歳で26%(前回42%)、20代で21%(同40%)、30代で21%(同37%)に落ち込んだ。ただし、70代では30%、80歳以上で37%(前回は70代以上で37%)と支持をつなぎとめた。
*石破首相は、立候補した裏金議員46人について10人を非公認、その他を比例区との重複立候補から除外するという措置をとり、裏金問題について「厳しい」態度を演出した。だが、非公認候補への2000万円の支給が暴露されたことも加わって、「政治とカネ」をめぐる自民党への根深い不信や疑いを払拭できなかった。裏金議員46人のうち28人が落選し、さらに離党した2人のうち1人が落選した。
*投票に際して、裏金問題を考慮した人は73%で、その人たちの投票先は自民が24%、立民が26%であった。考慮しなかった人は24%で、その投票先は自民が35%、立民が12%であった(朝日の出口調査、24年10月28日)。ANNの出口調査でも、裏金問題を考慮した人は76%であり、その投票先は自民党が25%、立民が26%であった。考慮しなかった人たちは24%で、その投票先は自民36%、立民13%であった。ここから、裏金問題が自民党支持からの離反を招いた最大の要因となったことが分かる。
*人びとは、自分たちが物価高に苦しめられ節約を強いられる生活をしているのと対照的に、国会議員だけが巨額なパーティ収入を記載もせず税金も払わないという特権ぶりと腐敗に強い怒りと不信を怒りを持ち続けた。
3 野党が過半数に
(1)立民は、自民党への不信と怒りの最大の受け皿になって、議席を50も増やした。ただし、比例区の得票は21年に比べて僅か7万票しか増やせなかった。にもかかわらず、無党派層の支持を広く集めて大都市を中心に小選挙区で自民党候補に競り勝った。
*無党派層の支持は、立民が25.2%でトップ、次いで国民が17.8%、自民が12.9%、維新が11.9%、れいわが10.3%、共産が7.0%であった(共同通信の出口調査、日経10月28日)21年総選挙と比べると、立民が1%増、国民が8.8%増、自民が▼4.7%、維新が▼8.9%、れいわが2.9%増、共産が▼2.9%となった。
*野党候補が複数立って競合した239選挙区でも、野党は119議席を獲得した(自公は111議席)。自民党がこれまでのような支持を得られなかったことが要因である。なお与野党一騎打ちの44選挙区では野党が18、与党が25議席を獲得。保守分裂の6選挙区では与野党がそれぞれ3議席を獲得した(朝日10月29日)。
(2)しかし、立民は、2009年総選挙のように自民党を圧倒する第1党にはなれず、中途半端な勝利にとどまった。
*民主党は、2009年総選挙では115議席から193議席増の308議席へと飛躍し、単独過半数(240)を獲得した。比例得票も3000万票近くの2984万票を獲得した。逆に自民党は300議席から181議席減の119議席へと惨敗した。比例得票も1881万票と2000万票を切った。公明党も31議席から10減の21議席に後退し、自公で140議席にとどまった。
*その結果、民主党主導の政権交代が実現した(社民党と国民新党が参加した連立政権)。
(3)自民党の補完勢力のなかで維新は、大阪の19選挙区で全勝したが全国的には支持を得られず6議席減となり、比例区の得票も300万票近く減らした。関西万博の赤字問題、兵庫県知事への対応などで化けの皮が剥がれ、勢いを失った。
(4)対照的に躍進したのは同じ自民党補完勢力の国民民主党で、議席は4倍増の28議席に、比例区の得票も358万票増やして600万票台に乗せ、維新と共産党を追い抜いた。
*自民党の補完勢力として振る舞ってきたが、自民党離反票の受け皿となった。共同通信の出口調査では、自民党支持層の7.1%が立民に、6.2%が国民に流れた(日経10月28日)。
*「国民の手取りを増やす」(所得税減税=基礎控除を万円に引き上げ、消費税の5%時限的減税、現役世代の社会保険料軽減、トリガー条項の発動によるガソリン税引き下げなど)という物価高対策の単純明快な主張が、若い世代の支持を引き寄せる効果を発揮した。共同通信の出口調査によれば、10代と20代から11.7%と15.5%の支持を得たが、21年総選挙に比べてそれぞれ8.6㌽、11.4㌽上昇した。逆に自民党は10代と20代から23.1%と19.9%とそれぞれ前回から14.6㌽、18.1㌽落とした(日経、10月29日)。
*国民は、日テレと読売新聞の出口調査では投票率が20代では26%、30代では22%と自民党の19%、20%を抑えてトップであった。18・19歳では19%と、自民党の24%に次ぐ2位であった(日テレNEWS NNN)。朝日新聞の出口調査でも20代で26%、30代で21%とトップに立った。自民党は20%、21%にとどまった。18・19歳でも国民は19%と、自民党の26%に次ぐ支持を得た(朝日新聞デジタル10月28日)。
*国民の当選者に占める新人の割合は67.9%と最も高く(平均では21.3%)、当選者の平均年齢も48.1歳(他の8党のそれは50歳を超えた)と、清新さを売りにして若年層の支持を掴んだと推測される(同上)。
*玉城代表が連日ユーチューブの生配信で支持を呼びかけ、SNSを効果的に活用したことも勝因の1つとなった。
(5)左派勢力のなかでめざましく伸長したのはれいわ新選組で、6議席増の9議席、比例得票で159万票増の380万票を獲得し、議席と得票のいずれでも共産党を上回った。
対照的に、低迷したのは共産党である。議席を2減らして8議席になり、比例得票数は80万票減の336万票にとどまった。目標の650万票にまったく達さないどころか、22年参院選の比例票から25万票下回り、300万票台に転落した。2016年総選挙では602万票を獲得して安倍政権と対抗した時と比べると、衰弱ぶりが目立ち、退潮に歯止めをかけられなかった。
*れいわも物価高対策として「消費税廃止」、「季節ごとの10万円のインフレ対策給付金」の支給というシンプルな政策を掲げて、支持を大きく延ばした。
*共産党は、「しんぶん赤旗」が裏金問題のスクープ、さらに選挙戦終盤での裏公認料2000万円の特報と、「政治とカネ」の問題で自民党を追及する先頭に立ちながら、自民党批判票の受け皿になれなかった。「自民党政治を変える」を前面に押し出したが、立憲や維新との差別化ができず、物価高対策の具体策を前面に掲げた国民やれいわに支持が流れたと推測される。
*共産党は、候補者も活動家かも高齢化が目立った。公明党も同じだが、強固な組織力を誇る組織政党が高齢化によって衰退している。その分、ポピュリズム的な動きが大きくなっている。
(6)極右排外主義の日本保守党と参政党は、それぞれ3議席を獲得した。
*比例得票で、日本保守党と参政党は114万票と187万票を獲得したが、これは社民党の93万票を上回る。
*3議席とはいえ、ドイツの極右AfDも最初はきわめて少ない議席獲得から出発したことを考慮すると、2つの極政党が議席を獲得したことに警戒を向けるべきである。これから外国人の移住が増えるなかで、排外主義の気分や言動が大きくなる可能性が高まるだけに決して軽視してはならない。
Ⅱ 何が争点であったのか
1 総選挙で問われたのは、自民党政治からの転換か否か、すなわち10年に及ぶ「安倍政治」(菅、岸田政権も継承した安倍路線)と訣別するのか否か・
(1)国家権力の私物化/権力中枢における腐敗の進行、政治腐敗の凝集点としての裏金問題
(2)米国追随の日米軍事同盟のバージョンアップ
(3)アベノミクス/経済成長を優先し、大規模な金融緩和で「デフレ脱却」(2%の物価上昇)をめざす → 2%インフレ(22年4月~)が到来し、株価の上昇と企業利益の急増の反面で実質賃金が低下し続けて生活を圧迫し個人消費が抑えこまれている。
*人びとはインフレに苦しめられているだけに、石破政権が唱える「デフレからの完全脱却」はまったくの時代錯誤であり、人びとの日常感覚には受け入れられない。この2年間で日本経済はデフレから脱却していて、人びとは資材や食料品や家電製品の値上がり、つまりインフレに不満を感じている。
2 何が争点になったのか
(1)最大の争点になったのは、国家権力の私物化、すなわち「政治とカネ」の問題をどう抜本的に解決するのかであった。
*立民や共産党は企業・団体献金の禁止、政策活動費の廃止を明確に主張した。対して、自民党は「政治資金の透明化」という抽象的な対応にとどまり裏金議員の多数を公認し、また非公認の候補への2000万円の支給によって「政治改革」への本気度の欠如を露呈。公明も裏金候補を推薦して信用を失った。
*「政治とカネ」は最大の争点になり自民党支持層の離反を招いたが、大量の無党派層を積極的な投票にまで動員する(投票率のアップ)ことができず、自公政権にトドメを刺すまでには至らなかった。
(2)米国追随の日米軍事同盟のバージョンアップの問題は、まったく争点にならなかった。立憲の野田が「日米同盟を基軸」する路線にとどまらず、違憲の安保法制を容認する態度をとったことが大きな要因。これに対抗する政策を対置したのは共産党・れいわ・社民党だけである。
*共産党/大軍拡をストップ。安保法制の廃止。ASEANと協力し対話と協力の外交で東アジアに平和を。辺野古新基地建設の中止と長射程ミサイルの配備をさせない。核兵器禁止条約に参加。
*れいわ/専守防衛と経済で徹底した平和外交、核廃絶の先頭に。辺野古新基地建設の中止。南西諸島のミサイル基地化をやめる。民主的な相互互恵の関係をASEAN諸国と結ぶ。日米間の友好関係を維持しつつアメリカ追従の外交政策を見直す。
*社民党/
(3)アベノミクスと訣別するのか否かについては、争点が狭く「物価高対策」に絞られてしまった(矮小化された)ため、きちんとした総括と対案(人口減少・労働力不足時代にふさわしい経済・社会ビジョン)が提示されることがなかった。
物価高対策としては、自民党・立民・共産党が物価上昇を上回る賃金引上げ(具体策としては最低賃金引上げ)を主張したのに対して、維新・れいわは消費税の減税・廃止を前面に出した。自民と立民は消費税減税には触れず、共産・国民は消費税減税も主張した。維新は所得税減税も主張したが、国民は、所得税減税を基礎控除の引き上げ=「103万円の壁」の引き上げとして最も具体的に提案し、差別化に成功した。
*自民党/物価上昇を上まわる所得向上=賃金上昇、最低賃金の引き上げの加速、低所得世帯への給付金。
*立民/最低賃金の1500円以上への引き上げ、「130万円の壁」を給付で埋める就労支援給付制度の導入
*維新/成長のための税制をめざし、消費税のみならず所得税・法人税を減税する「フロー大減税」
*国民/「手取りを増やす」ため所得税減税=基礎控除等を103万円から178万円に引き上げ、消費税減税(実質賃金がプラスになるまで一律5%に)、ガソリン代値下げ(トリガー条項の凍結解除)、現役世代の社会保険料軽減(後期高齢者の医療費の3割自己負担を拡大)
*共産/最低賃金の1500円以上へのすみやかな引き上げ、労働時間短縮(1日7時間、週35時間制の実現)、消費税減税(廃止をめざし当面は5%に引き下げ)、年金の引き上げ(マクロ経済スライドの凍結・撤廃)、高齢者の医療自己負担を1割に引き下げ、介護への支出の増加
*れいわ/消費税廃止(「個人消費を活性化させることが景気を回復させ、経済成長を促します」)、法人税の累進化・所得税の累進強化・金融資産課税などの導入、社会保険料の引き下げ(国庫補助)と年金の底上げ、季節ごとのインフレ給付金の支給
3 消された争点
(1)気候危機・温暖化対策
*待ったなしの課題であり、2030年CO2排出量の削減目標(現在の政府の目標は2013年比で46%)をどこまで引きあげるかが問われている。
*共産党は2030年度までに50~60%削減を、れいわは70%以上削減、社民党は60%削減の目標を掲げたが、自民党など他の政党は沈黙した。
(2)岸田政権は原発再稼働に前のめりになり、石破政権の下で女川原発の再稼働を総選挙直後に強行した。自民・公明から維新・国民までが原発再稼働を容認することを主張したのに対して、共産党・れいわ・社民が原発ゼロ・原発廃止の主張で対抗した。しかし、立憲は原発の新増設には反対するが、原発ゼロを表に出さないで再稼働については「地元合意」を条件とするという曖昧な立場をとった。このことが、再稼働の是非が大きな争点にならなかった要因の1つになった。
(3)選択的夫婦別姓制度の導入をめぐっては、立憲・共産・れいわが、さらに国民も導入を主張したが、自民党と維新は賛否を明確にせず旧姓の使用の拡大を対置した。それなりの争点になったが、投票態度を左右するまでの争点にはならなかった。
Ⅲ 自公と国民・維新の連合政治/多党化の時代へ
1 少数与党政権の出現/多党化の時代に
(1)安倍政権下の自民党一強政治の時代が終わり、「多党化」の時代に入った。1990年代の自民党単独支配の崩壊後の非自民連立政権(細川政権、羽田政権)と村山自社さ政権の時期に類似した状況に。25年夏の参院選の結果にもよるが、自民党あるいは立民が圧倒的な支持を得て過半数を握る可能性は少ない。少数与党政権=多党化の時代に入ったと考えらえる。
(2)野党は衆院で多数派になったが、立民主導の野党連立政権は維新も国民も拒否したため成立せず、石破政権が少数与党政権として継続することになる。したがって、自民党は公明党以外に維新あるいは国民と手を結ばざるをえないが、維新も国民も連立政権入りを選択しないため、政策ごとの合意という「部分連合」の政治が始まる。
*すでに、自公国の政策協議が開始された。
2 自公と国民の政策協議の問題点
(1)自公国の政策協議が始まったが、これからの政策決定の先例になるだろう。だが、その柱とされる①基礎控除の75万円への引き上げによる「103万円の壁」の引き上げ、②トリガー条項凍結解除によるガソリン代引き下げには、問題点が多い。
(2)基礎控除の引き上げ(現行の48万円から75万円へ)は、大幅な所得税減税をもたらす効果がある。
*年収200万円の給与所得者で8.6万円の減税になるが、年収が増えるほど減税額が大きくなる。600万円だと15.2万円、800万円だと22.8万円、2300万円(所得制限は2400万円)だと38万円になる。
*課税最低限(所得税が発生する下限)が103万円(基礎控除48万円+給与所得控除55万円)から178万円(基礎控除75万円+給与所得控除103万円)に引き上げられるため、パート主婦やアルバイトの学生が課税を免れるために働く時間を減らす必要が大幅に小さくなり、就労を促す効果がある。
*しかし、減税の効果は所得が高い層ほど大きくなるという不公平が生じる。
*基礎控除による所得税の減収は7.6兆円(政府の試算、税収全体の1割)に上る。玉木代表は、「(経済成長によって)税収は増えていくので大丈夫[カバーできる]」と楽観視しているが、疑問符が付く。
(3)トリガー条項の凍結解除によるガソリン代の引き下げは、脱炭素化に逆行する。
*そもそも日本のガソリン価格は、欧州に比べるとガソリン税が低いために安くなっている(表参照)。
ガソリン価格の国際比較(2021年2月)
本体価格 税額 合計
日本 0.68 0.66 1.34
米国 0.53 0.13 0.66
英国 0.59 1.08 1.67
フランス 0.62 1.13 1.74
ドイツ 0.66 1.07 1.73
単位:米ドル/1㍑
(資源エネルギー庁「エネルギー白書」2021)
*したがって、炭素税(地球温暖化対策税、CO2排出量1㌧当たり289円)を抜本的に引き上げて(例えば1万円)、ガソリン、つまりクルマの使用を抑制して脱炭素化を促進する必要がある。
*にもかかわらず、政府はガソリン価格引き下げのための巨額の補助金を支出し続け、野党もガソリン使用促進につながるガソリン税の引き下げ(国民はトリガー条項の凍結解除、れいわはガソリン税の廃止を主張)を主張している。
Ⅳ 減税を競うことで良いのか/長期的な視野に立つ対抗軸を明確に
1 自公政権に対する野党の主要な対抗軸は、減税である。消費税のみならず所得税も含めた大幅な減税の主張を競いあう状況になっている。
(1)減税による可処分所得(「手取り」)の増大が個人消費を活性化し経済成長を促すという見方に立っている。
*典型的には、消費税をなくすことで「「個人消費を活性化させることが景気を回復させ、経済成長を促します」(れいわ)の主張が示すように、経済成長主義に囚われている。これは、岸田政権(石破も)のいう「物価上昇と賃金上昇の好循環」(‟企業の価格引き上げ → 売上・収益の増加 → 賃金の上昇 → 消費の活性化 → 価格の引き上げ”)論と本質的に同じである。
*賃金=所得の停滞が個人消費の低迷の要因の1つであったことは事実だが、賃金=所得の増加は必ずしも個人消費の活性化につながらない。将来の生活=社会保障への不安の高まりが消費支出を控えさせているからだ。
(2)ケア中心の経済への転換/ベーシックサービスと最低生活保障の実現のために巨額の財政支出が必要になる。
*したがって、ベーシックサービスの実現、すなわち医療・介護・子育て・教育などのサービスの無償提供、年金など最低生活保障の実現こそ、最大の課題である。言い換えれば、人口減少・・労働力不足の時代には、限られた資源(資金と人材)をケアの領域に最優先で投入するケア中心の経済への転換こそ求められている。
*社会保障の抜本的な拡充、ケア中心の経済への移行のためには、巨額の財政支出が必要になる。その財源は、経済成長による税収増や国債発行に頼るのではなく、社会保険料の負担を引き下げながら税負担を増やすことによって賄う必要がある。
(3)富裕層と大企業に対する課税強化(金融所得課税に累進制を導入・法人税の累進化・内部留保への課税)、消費税と所得税は減税せず低所得層への給付金の支給、炭素税=環境税の引き上げを対置すべきである。
*「減税」は新自由主義の原理的主張であって、左派は「増税」、具体的には富裕層と大企業に対する課税の強化、環境税の引き上げを真正面から対置すべきなのである。
*北欧諸国の社会保障の高い水準は、高い消費税率(25%)に支えられている。消費税の逆進性は低所得層への給付の増大(給付付き税額控除の導入、インフレ手当の支給など)によって解決する。
2 「対決点なき政治の流動化」を「明確な対決点のある政治」に変えよう
(1)日本の政治は、自公政権が過半数を割って「少数与党」政権に転じたことによって一気に流動化しつつある。そのこと自体は、自公政権による強権的な政策決定(国会の審議ではなく閣議決定で)を困難にする、政策論争を活性化するという点で歓迎すべきである。だが、政治の対決点が不明確なまま政党間・党派間の駆け引きや取引のゲームだけが盛んに行われれば、政治への不信が広がる。「対決点なき政治の流動化」が進行する奇妙な事態である。
(2)不確定な要素が増えている。すでに石破政権の支持率が急落していて、短命に終わる可能性も大きくなっている。
*石破政権の支持率は、朝日新聞の世論調査(11月2~3日)では1カ月前の46%から34%に急落し、不支持率は30%から47%に急上昇し支持と不支持が逆転した。共同通信の調査(10月28~29日)でも、支持率は50.7%(内閣発足時)から32.1%に急落した。「首相を辞める必要はない」が61%(「辞めるべきだ」は24%、朝日の調査)を保っているが、党内の権力基盤が弱く世論の期待と支持が頼りの政権であるだけに、早くも危険水域に追い込まれている。
*自公政権と国民の「協議」=取引がどのように推移するか。それが石破政権の延命の手段となるか。
*自民党内の「石破おろし」の動きがどこまで高まるか。
*立民が野党をまとめる主導力を発揮できず、存在価値を失うのではないか。
*れいわが共産党に代わって左翼を主導できるのか。
(3)米中対立の激化、米国の新政権の誕生とヘゲモニーの衰退、人口減少と労働力不足の時代に対応して、リベラル・左派は、経済成長と軍事力に頼らない社会、ケア中心の社会、外国人と共生する社会のビジョンを明確に対置して、自公政権と補完勢力(国民、維新)の連合政治に対抗する必要がある。
(2024年11月4日記)