第20回<経済・財政・金融を読む会>活動報告

第20回<経済・財政・金融を読む会>活動報告

(2025.3.29)平 忠人

 自公政権が「少数与党」に転落した国会では、本年度予算案の修正と成立をめぐって、「年収103万円の壁」の引き上げや高校無償化が論点となった。これらの問題を切り口にして「税」と

「社会保障」に対する人びとの関心が高まってきてはいるが、国会での議論はつまみ食いの域を出てはいないと言える。むしろ、「103万円の壁」引き上げ=減税による手取りの増大のためには「公共サービス」を削減してもよい、との意見のほうが多数になりつつある。まさに「新自由主義」に引きずり込まれる「自己責任」型の生活保障への志向が、「連帯・分かち合い」への志向よりも強くなってきている現状に対し、「税と社会保障」「財政と民主主義」との関係に基礎から学び、議論の場を設けた次第である。

★テキスト:神野直彦『財政と民主主義』(2024年 岩波書店)
★報 告 者:長澤淑夫氏
★司    会:千村和司氏
★参 加 者:(オンライン)19名

——―報告者レジュメ(抜粋)——―

【本書概要】と【報告者解説👉】

序章 経済危機と民主主義

①民主主義による貨幣現象としての財政

👉市場社会とともに財政が誕生:租税国家。

 市場社会を統治するのは生産産業を有する被治者。

👉近代国家とともに財政は誕生 政治システムと経済システム分離、財政がこれを統治。

②社会における生命活動

👉地域共同体が市場経済によって包まれてしまうと・・家族間の同質性は崩れ、移動性が高まり

地域共同体に亀裂が走り、その機能が弛緩→←自発的市民組織による協力関係の形成。

<本誌の主張>

 社会システムにおける人間の生命活動が持続不可能になろうとしている=根源的課題

 この課題を、民主主義を活性化させ、財政を有効に機能させて乗り越えていく。

③財政の三つの役割

👉財政が何を公共財として提供するかは、政治システムで(何に)私的所有権を設定するか否かにかかっている。

④財政によるシステム統合

⑤市場経済に抱かれる国家

👉73年911ピノチェット/CIA/シカゴ学派によるアジェンデ政権転覆。

⑥民主主義に希望を託して

第1章 「根源的危機の時代」を迎えて

①人類の存続が脅かされる危機

②「生」は偶然だが、「死」は必然である→だから「明日のために」生きる

③内在的(人間由来の)危機と外材(自然由来の)的危機

④二つの環境破壊

⑤所有欲求か存在欲求か

👉工業化社会 基礎的ニーズを充足させ、欠乏解消のため、存在欲求を犠牲にし、所有欲求の追求を社会目標としてが、その達成後は存在欲求に目標を転換すべきだった。

⑥誤ったハンドル操作による自然環境の破壊

👉市場の自己再生力の喪失。

⑦新自由主義の「政治縮小―市場拡大」戦略登場→国際的に大きな影響

⑧新自由主義による社会環境の破壊

⑨共同体の崩壊と原理主義の台頭

⑩地域社会の変容 自然破壊

第2章 機能不全に陥る日本の財政―コロナ・パンデミックが浮き彫りにした問題

①転換期に繰り返されてきたパンデミック

②コロナ・パンデミックへの財政動員

③日本型コロナ・パンデミック対応の問題点

④医療費抑制圧力の悲劇

⑤なぜ医療崩壊を招いたのか

⑥費用補償としての医療保険

⑦公的医療機関の少ない日本

⑧浮き彫りになった日本財政の無責任性

⑨人間の生存に必要な対人サービス

⑩労働市場と家族の変容 第二次世界大戦以後

👉労働市場の二極化。

⑪対人社会サービスへアクセスする権利保障

⑫エッセンシャル・ワーカーの劣悪な労働条件 90年代新自由主義による民営化と低賃金

⑬(コロナ封じ込めのための)「規制・統制」受容の代償

⑭生活面より生産面を優先した日本の対応

⑮問われる財政の使命

⑯財政縮小路線の大転換

👉ヨーロッパ委員会も収斂基準一次停止(財政赤字GDP3%債務残高60%以内)。

財政機能の衰退・異様な債務残高

⑱今こそ財政の使命を拡大する戦略へ

第3章 人間主体の経済システムへー民主主義を支える財政の意義

①(コロナによる)「生」への省察の覚醒 自ら目標を!

②未来の選択を民主主義に委ねる

③民主主義を有効に機能させる

④社会システムを活性化させる=民主主義の活性化

⑤民主主義を下から機能させる

👉ヨーロッパ社会経済モデル→←新自由主義。

⑥財政を機能させる

⑦「参加社会」か、「観客社会」か

⑧参加社会を成り立たせるもの

⑨観客社会における民主主義への不信と絶望

⑩熟議に基づくスウェーデンのコロナ対応

⑪「強い社会」というヴィジョンの構想・・スウェーデン自己批判して新ヴィジョンへ

⑫熟議と連帯というプロセス・・生活が下から構想

⑬人間不在の「新しい資本主義」岸田前内閣

⑭人間を「手段」とするか「目的」とするか

⑮実態をともわない「成長と分配の好循環」

⑯知識社会のインフラストラクチュアとしての教育

⑰人間が人間として成長するための「学び直し」

⑱対人社会サービスの充実と地方自治体の役割

⑲協力原理で下から民主主義を積み上げる

4章 人間の未来に向けた税・社会保障の転換-いま財政は何をすべきか

①人間の生命活動を支える帰属所得

👉例 1834救貧法改正 対象外は労役場に収容し労役を課す

   家族、地域社会には相互扶助、共同作業→生命活動を保障。

②「社会保険国家」から「社会サービス国家」へ

③現金給付と現物給付の役割

 現金給付・・賃金所得代替給付・・社会保険(年金) 

生活保障給付・・公的扶助・児童手当 年少者の生計費(衣食)

        現役世代で賃金を稼得出来ない者。

現物給付・・1 地域社会相互扶助代替サービス 教育医療(早くから専門職)

福祉(立地点サービス)(以前、ヨーロッパでは教会)。

      2 家族内相互扶助代替サービス・・養老・育児。

      3  共同体維持(祭事)代替サービス・・文化・レクリエーション(文化政策ともなる)。

④「社会保険国家」となっている日本

👉デンマークは租税で年金。

⑤現物給付の少ない日本  少ない(児童手当  再訓練、再教育費

⑥「全世代型社会保障」の光と影

👉抜本的改革ヴィジョン 高齢者中心の給付→子育て支援 現役世帯に偏った負担→全世代、

応能負担。

 👉日本・・高齢者3経費(年金・医療・介護) 全て保険 改革の視野外。

 ⑦現物給費なき高齢者福祉の悲劇

 ⑧声なき声の民主主義

 ⑨子どもたちが育ちたいと思う社会へ

👉人間な個人としても社会的に主体性を育て「自己教育」で自己成長←これを支援すべき。

租税負担の低い「小さすぎる政府」←無償性の租税を嫌い給付のある社会保険を受け入れた

👉国民が政府を信頼していない・・民主主義が有効に機能しない。

⑪低すぎる公的負担がもたらす苦しい生活

⑫共同事業のための共同負担の必要性

⑬「小さな政府」の逆進性

👉アメリカ 利子所得は総合課税 独仏:総合と分離の選択制。

⑭資本に軽く、労働に重いという「逆差別性」・・事業所得はその中間

⑮富裕税の創設を

 ⑯利益原則にもとづく消費課税

👉贅沢消費可能な経済力、補足しにくいという分配局面→消費税の根拠。

👉能力原則課税でなく公共サービスによって社会秩序が維持され、生産物市場での取引が可能になることを根拠とする利益原則にもとづく租税。

⑰「大きな政府」の逆進性、「小さな政府」の累進性

👉日本・・所得税、法人税を減税し、消費税で穴埋め スウェーデンのような展開ではない。

⑱「事後的再分配」から「事前的再分配」へ

⑲国民による財政のコントロールが困難な日本(共同意思決定による共同負担でなく統治者にとられる負担と観念)

⑳財政民主主義を機能させる「三つの政府体系」

👉国民は三つの政府に属し、どのような共同の困難をどう分かち合っていくのかを「仲間」意識にもとづいた共同意思で決定。

👉国民経済計算もこの三つの政府から構成。

5章 人間らしく生きられる社会へ地域の協同と民主主義の再生

①太った豚よりも痩せたソクラテスになれ

  ②「量」の経済から「質」の経済へ・・経済システムも本来の使命=生命活動維持へ

  ③地域社会から存在欲求を充実させる

  ④崩れ落ちる地域共同体

 👉自然林。

  ⑤持続可能な都市の創造-地域の生活機能の再生から

  ⑥「環境」と「文化」を取り戻すストラスブール

  ⑦「公園のような都市」づくり―ドイツ・ルール地方

  ⑧経済指標から社会指標へ

  ⑨大正デモクラシーの教訓

  ⑩信州で芽生えた国民教育運動

 ⑪民主主義の活性化に向けた自治体の役割

  ⑫巨大な富の支配と民主主義の危機

⑬グラス・ルーツでの対抗とポピュリズムの台頭

⑭形骸化した民主主義を再創造するために

――参加者からの主な意見・交わされた議論内容——

<民主主義の在り方・姿>

●民主主義を支える・・社会システム(協同組合等)・・生産者を支える。

●コモンズ・・住民参加が重要・・行政の活性化。

●SNS(ソーシャルネットワークサービス)・・デマ、ニセ情報が人を動かす危険。

●日本の財政のあり方批判⇒社会保障の拡充、税制の拡充、医療を支えるための税制度の拡充。

●ベーシックサービスと税制度の在り方。

●税によるケアサービスの拡充。

<財政の在り方、繋がり方>

●公共サービスの見なおし、あるべき姿。

●国会の予算案審議・・予備費への不信感=財政の公開について・・。

●社会保険と税との違い・・(逆進性に対する疑問)=1億円の「カベ(壁)」。

●財源と支出の「質=中身」見なおしは必須。

●社会保険料の上げ方・・一方的では?

<本書P173図4-6「所得階層でみた税・社会保険料の負担構造」>

●「1億円の壁」。

●所得税の負担構造上の問題点。

●富裕税、法人税の不公平性。

●資産の把握について。

<政治・政策関連>

●国民民主党と労働組合との関係、女性の賃金格差、家族賃金のあり方。

●労働者が資本家の立場での政治的思考。

●労働組合と賃上げ・・全体的にデコボコなのが現状。

●非正規労働者が4万人、ケア労働者、医労連はゼロ回答!

●サービス業界・・賃金が低いまま据え置き・・。

——活動報告者の所感——

同誌「民主主義を有効に機能(一人ひとりが未来の社会形成に影響力を発揮できる保証)させる」によると、スウェーデンでは中学二年の教科に於いて18歳で得られる選挙権・被選挙権の政治的任務の行使を推奨する。日本でも選挙権の行使は教えられるが、スウェーデンではむしろ、被選挙権を行使して政治家として政治的任務を果たすことを推奨している。更に「新聞に投書」「地元ラジオでのおしゃべり」「政治家との話し合い」等を訴え、他者との連帯行動(環境・貧困・教育・ジェンダ-・民族・障がい者等々の社会問題)に取り組むために市民組織・協同組合・地域組織・労働組合等の団体に参加して活動することを呼び掛けている・・

かたや、日本で2024年10月に行われた衆議院選挙の投票率は53.8%で戦後三番目の低さで

20歳~24歳が30.19%で年齢別では最低であった。まさに、「今だけ、自分だけ、金だけ」に

集約されてしまう日本の「民主主義機能」の在り方・・大いに憂えるべき!そして連帯が不可欠といえないだろうか!

 

                                                                     

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