オルタナティブ提言の会

第5回 グローバル資本主義に対抗する
 
2009年11月15日

コメント:千村和司
アシスト(ACIST[国際連帯税を推進する市民の会])事務局長

初めに「アシスト(ACIST[国際連帯税を推進する市民の会])」について簡単に説明したいと思います。そもそもこの会がいま市民運動のなかでどういう役割を果たそうとしているのか。リーフレットの「実現に向けて」では「国際連帯税を実現するにはより幅広い市民の合意が必要です。・・・アシストは市民が国際連帯税を議論していくための一つの場として設立されました」ということが書いてあります。つまり、実現そのものが目標としてあるのですが、さしあたり自分たちの自己規定としては、市民自らが「国際連帯税というものが必要である、それを作っていくべきである」と考え合意していく空気、プロセスをつくっていくのが我々の役割であると考えています。

これはなぜかというと、ひとつにはNGOは市民の代表であるという見解がありますが、実際にNGOの提言活動、政策決定がどこまで市民的な合意をもっているのかというと、そこは必ずしも明確ではありません。それに対する一つの自己抑制という意味で自己規定をしています。しかしこの間、状況が国際連帯税実現に向かって有利な方向に動いているなかで、そのチャンスを活かして実現に向うべきだという声も出てきます。ここは会のなかでも難しい議論になっていくと思います。

そもそもアシスト自体、今年4月にできたばかりで、どの程度の影響力があるかということはまだ言えません。いまメーリングリストに登録している数が250名くらい。関わり方は3段階あって、財政含めて支援しましょうという人が60名程度です。一番コミットしている事務局が全員ボランティアで現在15名、ほとんどが社会人です。その程度のひじょうに小さい組織です。そんな組織が国際通貨取引制度にたいしてものを言うというのもおこがましいことですが、市民がそのことを理解をし考えていくということを、自分たちの活動の重点に置いています。

次に金子さんの話へのコメントに入っていきたいと思います。金子さんとは同じ組織で普段から議論している関係なのでコメントするのも難しいのですが、決済通貨としての米ドルの意味について触れます。レジュメに7項目ほど挙げましたが、簡単に言ってしまえば、戦後60年、アメリカの帝国主義の形成過程のなかで、軍事とともに金融経済システムが車の両輪として形作られてきた。そのなかで東南アジアの経済圏も形成されてきました。その結果、東南アジアの経済圏のなかでも、各国通貨による二国間決済が行われず、最終的な消費地である米国の通貨であるドルが決済に採用されている現状があります。そういったある種の帝国的なものがいま揺らいでいるという報告が金子さんからありましたが、そのアメリカ帝国からどういう形で抜け出していくのかというのは、単に政治的な課題だけではなく、経済金融システムについてもあわせて考えていかなければ、抜け出る方法はないのではないかと思います。

もう一つは、運動的な課題ということになりますが、提言・改良型運動と徹底批判・最大限綱領主義という話が金子さんの報告にありましたが、そこには私たちの運動にとっての大きなジレンマがあります。もしいまの時点でトービン税であるのか通貨取引開発税であるのか金融取引税であるのか、その中身はさておき、実効的なものを作っていくとすると、いまそれができる組織は各国政府とG20,IMFしかありません。私たち自身がそのあり方を含めて批判の対象にしてきたこうした組織が決定しなければ、今の時点では実効的なものはできないわけです。そういったジレンマのなかで私たちはどういう対応をとっていくべきなのかが問われています。

具体的な例をひとつ挙げると、IMFの「最後の貸し手」構想というものがあります。IMFの側がG20に対して行う報告に関してIMF世銀総会の記者会見のなかで、金融機関に対する課税というのはこの状況のなかでは当然であると述べています。各国政府は非常に大きな財政出動をしているけれども、それによって救われた金融機関が大きな利益をあげているにもかかわらず、さまざまな優遇制度の下で税金を払わないで済んでいる。納税者の負担があまりにも大きくなりすぎて、それに対する批判がひじょうに大きくなるなかで、金融機関が何らかの負担をするのは当然であろうという大きな流れが出てきています。

こうした流れにたいして抵抗していたのは、今までは米国や英国だったのですが、英国はすこし変わってきていて、先日のG20財務省会議でブラウン首相が通貨取引税を導入するべきだということを言って、これにはみなびっくりしました。11月10日にはEUがトービン税の検討を開始するということを記者会見で発表し、全体の流れとしては金融課税の方向への雰囲気が醸成されてきています。最後に残された米国も、米国議会で、金融課税に対する法案の提出を検討しているということで、具体的な課税率まで提案されてきているようです。

このような形で導入に向けた動きはひじょうに活発になってきています。そうした時に、たとえば私たちはIMFが出しているIMF改革案に対して私たちはアクセルを踏むのか、ブレーキを踏むのか、大きな枠のなかで中期、長期的な議論しながら、最終的なオルタナティブの方向に向って社会を変革していくために、ある意味政治的な意思決定をおこなう必要が出てきています。そのとき、その意思決定をおこなう場が市民社会のなかに存在しているのかどうかという問題があります。今後そのことに対応する運動をどう作っていくのかが、大きな課題になっているのではないかと思います。