オルタナティブの討論を進めるために 2009年6月1日 白川真澄
[このレジュメは、6月6日の立ち上げの会合で討論したい項目をいくつか立ててみたものです。最初の集まりですから、お互いの問題意識を自由闊達に出しあいたいと思いますが、討論の叩き台として参考にしていただければ幸いです。]
? 時代認識をどこまで共有できるか
1 世界的には何が終わり、何が始まろうとしているのか――新自由主義の終焉? 金融資本主義の終焉? アメリカ帝国の没落?
2 日本の国家と社会はどこに立っているのか――新自由主義「改革」から日本版ケインズ主義への回帰か? 対米追随の路線は変わっていない? 経済成長主義の発想は不滅? 民主党は自公政権に何で対抗するのか?
3 世界的な反グローバリゼーション運動の現状をどう評価するか――WSFは? 反米政権下のラテンアメリカの民衆運動は? ヨーロッパでの「反資本主義」運動は?
4 日本の社会運動の現状をどう見るか――「派遣村」や反貧困運動の可能性と課題は? 労働運動は再生するか? 反戦平和運動や反改憲運動は? 地域再生や協同組合の運動は?
? 私たちがめざすのは、どのようなオルタナティブか
1 思想・原理・発想のラディカルな転換と制度・政策の具体性を結びつけたい。抽象的な理念や原理のレベルにとどまるのでもなく、かといって現在のシステム内で「実現可能」な制度や政策の羅列だけに終わらない。
2 日本社会の現実に密着しながら、アジア・世界の変革に有機的につながる変革をめざしたい。オルタナティブを実現する主体は、「日本国民」ではなく、日本列島に住む人びと、日本で生き暮らす人びとである。
3 次のことが、オルタナティブを構想する出発点あるいは基本的な原理・原則になるのではないか。
(1)生きるということ(生存)、生存権という原理が何にも優先する。
(2)国家を相対化する。国民国家という枠組みを否定・消去することはできないが、すべてを国家に預けるのではなく、国家の役割を限定することが必要である(民主主義という領域でも、生存権の保障という領域でも)。
(3)経済成長主義と訣別する。経済成長がなくても雇用や生活が保障される経済や社会のあり方をめざす。
4 グローバルな資本主義そのものに対して、どのような立場をとるのか(廃絶なのか、蚕食なのか、規制なのか)という問題が問われる。しかし、これを抽象的・原理的なレベルで論じるのは、あまり生産的ではないのではないか。どのような論じ方をするのがよいか。
? オルタナティブ討論の集約形態と過程をどうするか
1 日本の社会と経済と政治のオルタナティブについて提言する文書の作成と発表をめざしたい。とりあえず1年後を目標とする。
2 提言の文書の作成を目標にして、討論(研究会)を積み上げる。月1回のペースで討論(研究会)を行なう。
*1つのテーマについて、2回連続して討論する。
*1回ごとの討論(研究会)について議事録を作成し、報告者のレポートと合わせてメンバー全員で共有する。
*MLも立ち上げる。
3 参加メンバーを拡大する(毎回参加できない人でも、ぜひ参加してほしい人に声をかける)。関東圏以外の人で討論に加わってほしい人に声をかける。
4 この集まりに名称をつける。
5 討論の柱となるテーマや報告者を決める。
6 一定期間、討論を積み上げたところで、提言の原案作成の作業に入りたい。
? 私たちの提言が出す日本社会のビジョンはどのような問題系列を含むべきか
1 グローバル資本主義と世界権力システムにおける日本の位置はどのようなものであったのか。
*戦後の対米関係(安保、沖縄、対米輸出依存、対米金融協調など)
*アジアとの関係(朝鮮半島や中国との関係、アジアへの経済侵略、戦争責任・戦後責任、「東アジア共同体」論など)
2 戦後の日本国家と日本社会の基本性格はどのようなものであったのか。
*戦前の「帝国」原理の継承
*戦後平和主義(憲法9条)の意義と限界
*社会統合のシステム(企業社会、家族、開発・公共事業など)
*ジェンダー差別
*人権――マイノリティ
*イデオロギー――成長・開発神話、ナショナリズム、天皇制神話
3 新しい日本社会のビジョンに欠かせないものは何か。
*多民族性――在日、移住労働者、先住民、沖縄
*対米関係と対アジア関係――「安全保障」の再定義、グローバリゼーションへの対 抗
*脱成長の経済
*働き方の転換、「労働」の再定義
*生存の保障、公正な社会、多様な生き方の保障
*ジェンダー正義
*地域社会、コミュニティ、協同
*民主主義――憲法の位置づけ、自治と分権、天皇制
*人権――世界人権レジーム、司法
*文化、メディア、コミュニケーション
4 グローバルな民衆連帯への展望とはどのようなものか
*グローバルな資本主義
? 討論の柱となるテーマを何に設定するか
(?)望ましい働き方と雇用のあり方は何か
1 「使い捨て」と大失業に対抗する雇用のあり方は何か。
*緊急の課題としての「使い捨て」労働の禁止(派遣労働の専門業務への限定、登録型派遣の禁止)。
*正社員化による雇用と生活の安定という仕組み(正規化要求)の根本的な限界。
*雇用と生活の安定の責任を企業から、より多く政府に負わせる(扶養手当=子ども手当や住宅手当など)。
*働き方の多様化を実現するための条件――非正社員の均等待遇の実現、最低限の生活が営めることを社会的に保障する仕組み(ベーシック・インカムなど)の整備。
*正社員の特権的地位にどう手を付けるのか――「フレクシキュリティ(柔軟性と保障の結合)」政策をどう評価するか
*女性労働者に対する差別的扱いを(男並み化ではない形で)どうなくすか。
*移住労働者の権利と生活を保障する国際的な仕組みとは何か。
2 働き方をどう変えるか。
*より少なく、よりゆっくり働く(労働時間の抜本的短縮)。
*賃金労働の範囲をどこまで縮小するか。家事労働やボランティア活動をどう位置づけるか。
*協同組合方式(ワーカーズコレクティブ)による働き方を増やすことをどう考えるか。
※検討素材:「共同提言:若者が生きられる社会のために」(河添・木下・後藤・小谷野ほか『世界』08年10月号)をどう評価するか。
(?)生存権の保障の仕組みをどうするか――ベーシック・インカムの基本思想
1 「生きる」こと、生存権は、普遍性・無条件性(世界的にも)をもつ。
2 生存権の保障の仕組みとしてのベーシック・インカム。
*すべての個人に対して無条件に最低限の所得保障を税金によって給付する。
3 「働かざる者は食うべからず」(近代社会の原理)から「働かざる者も食って当然」(新しい社会の原理)へ。
*ベーシック・インカムは、資本主義の枠内で成立可能な最良の社会保障制度であるとしても、それは資本主義システムを転換するテコにはならないのか。
4 日本の社会保障制度(年金、医療、介護、失業対策、住宅、生活保護)をどのように変えるべきか。
*日本の社会保障制度の行き詰まり――成人男性が主たる稼ぎ手となる家族の存在(企業社会と性別役割分業)という大前提の瓦解。少子高齢化、女性の社会進出、非 正規雇用の急増。
*社会保障制度をめぐる論争をどう評価するか(年金制度改革をめぐる社会保険方式と税方式、消費税率引き上げの是非など)。
*ベーシック・インカムの導入と社会保障制度の変革(現金給付の部分)。
*現物サービスと現金給付のあり方をどうするか。
5 税制と社会保険をどのように変えるか。
*公正な高負担社会へ――私的負担の増大を抑えて公的負担を大幅に引き上げる。
*社会保険方式から税方式への転換。
*望ましい税制のあり方は何か。
6 セーフティネットという概念をどう扱うか。
7 国家による社会保障制度にどこまで頼るのか、自主的な助け合いの仕組みをどのように発展させるのか。
*自主的な助け合いの運動や事業の現状をどう見るか、その課題は何か。
8 世界的な所得再分配=所得移転と国境を越える社会保障の仕組みは、どうあるべきか。
※検討素材:山森 亮『ベーシック・インカム入門』(2009年)をどう評価するか。
(?)脱成長の経済・社会への転換をどう進めるか
1 「グリーン・ニューディール」(環境投資による新たな経済成長)路線の限界と問題点は何か。
2 輸出依存型経済からどのような経済へ向かって転換するのか。
*発展させるべき経済部門/農業、環境・自然エネルギー、ケア・教育。
*縮小するべき経済部門/自動車、電機、金融、建設。
*より少なく働き、よりスローに生活する(GDPは縮小する)。
3 農業と地域をどのように再生するのか
*農業の再生はどうすれば可能か(農業の担い手、生産者と消費者の関係、中山間地の農家への所得保障、都市農業、農産物市場開放路線からの転換)。
*企業誘致による地域再生に代わる地域再生の道は何か。
*大都市のあり方をどう変えるか。
4 金融のあり方をどのように転換するか。
*世界的な金融活動に対する規制と監視
*地域から集めた資金を地域に還流し市民の監視下に置く。
*金融NPOの活動の現状と課題をどう評価するか。
*ドル基軸通貨システムに対する民衆運動の側の提案は?
5 「連帯経済」の可能性と役割をどう考えるか。
6 脱成長への転換と南北格差の解決をどう結びつけるか。
*中国やインドが巨大開発型の経済発展(モータリゼーションなど)からオルタナティブな経済発展の道に転換する可能性と条件は?
*フェアトレードや「民衆交易」の役割や可能性をどう見るか。
*CO2排出量の大幅な削減のための国家間協定(ポスト京都議定書)に対して民衆運動はどのようなスタンスをとるべきか。
7 経済界の「東アジア共同体」構想に対するオルタナティブはどのようなものか。
※内橋克人の「共生経済」、「FEC自給圏」構想をどう評価するか。
(?)日米関係をどう転換するか
1 日米軍事同盟を解消し、どのような新しい日米関係を築くか。
*沖縄の米軍基地をどうするか。
*自衛隊をどうするか。
*新しい日米関係とはどのようなものか。
2 東北アジアにおける非軍事・非核地帯の実現に向けての構想と運動はどのようなものか。
*北朝鮮に対してどのような政治的な態度をとるのか。
3 軍事力なき外交をどのように展開するのか。
*人権侵害や大量虐殺に対して何ができるのか。
*国家間の交渉・協力と民衆レベルの協力の関係をどう立てるか。
4 「安全保障」という考え方をどう転換するのか。
*「人間の安全保障」なのか、「民衆の安全保障」なのか。
(?)民主主義の新しいあり方をどう実現するか
1 住民自治と地方分権のあり方をどうするか。
*日本は連邦制に向かうべきか。
*沖縄の自治権をどう保障するか。
*「道州制」構想をどう批判するか。
2 先住民の権利をどう確立するか。
3 天皇制と国民国家の枠組みをどう変えるか。
4 多様性と多様な生き方(性、健康など)の権利を保障する仕組みは何か。