経済危機はどこへ向かうか
                                   白川真澄


経済は?字回復?
 今年の春にはどん底にまで落ちた経済が急速に回復しているかに見える。
 米・欧・日の7?9月期の実質GDPは、前期(4?6月)の激しい落ち込みに急反発して高い伸び率を記録した。米国は前期比7.4%、年率換算で33.1%増(4?6月は▲31.4%)、ユーロ圏は前期比12.6%、年率換算で61.1%増(同▲40%)、日本は前期比5.0%、年率換算で21.4%増(同▲28.8%)であった。日本のそれは、1968年10?12月以来の高い伸び率となった。また、いち早く経済を回復させていた中国は、7?9月に前期比2.7%、前年同期比4.9%(4?6月は3.2%増)の増加で、年率換算すると約11%の伸びであった。米・欧・日は個人消費の回復と輸出の回復が、中国は投資や輸出の増大が大きな要因となった。
 さらに、株価の高騰が続いている。米国のダウ工業平均株は、11月に入って史上初めて3万?台に乗せた。3月にはそれまでの2万9千?台から1万8千?台に急落したが、その後は上昇を続けてきた。株価高騰は、巨大IT企業GAFAMの株が牽引しているが、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの3社が開発中のワクチンの実用化を公表したこと、バイデンの勝利が確定し連邦政府が政権移行開始を決めたことで政治的安定さを取り戻したことが、好材料となった。米国株の急騰に連れて、日経平均株価も11月24日には2万6千円台をつけた。バブル崩壊直前の1991年5月以来、29年半ぶりの高値となった。
 株価は実体経済の悪化にもかかわらず上昇していたが、実体経済もGDP成長率が?字回復したことを根拠に、経済危機から早期に脱出することができるという超楽観的なシナリオも出始めている。ワクチン接種の開始によって新型コロナの感染は急速に収束し、経済活動が全面的に回復する。雇用も個人消費も輸出も設備投資も順調に拡大し、景気回復と経済成長軌道への復帰が可能になるというわけである。

経済回復の足元は脆弱で不安定
 しかし、経済回復の実態は、よく見ると弱々しく覚束ない。
 GDPは、7?9月の急速な伸びによって4?6月期に失われた分をかなり取り戻したが(米国は7割強、ユーロ圏は9割強、日本は5割強)、いぜんとしてコロナ危機前の水準を下回ったままなのだ。昨年(19年)7?9月期と比べると、GDPは米国が2.9%、ユーロ圏が4.3%強、日本が5.9%も低い。日本のGDPは507.6兆円に回復したが、昨年7?9月期よりも約32兆円も低い水準にとどまり、7年前(13年)の水準に戻っている。4?6月期の激烈な落ち込みがどれほど深刻な打撃を与えたかを示している。
 最重要の関心事である雇用は、改善していない。米国の失業率は、4月の14.7%から6.9%(10月)にまで低下したが、コロナ危機前の3.5%に比べると高い水準だ。失業者数は1100万人と、危機前の2倍以上である。また、失業者のうち「一時解雇」の割合が小さくなり、失業の長期化の恐れが大きくなっている。労働参加率は61.7%と、1年前より1.6㌽も低くなっている。
 日本の雇用は、失業率3.1%、失業者数214万人(10月)とじりじりと悪化し続けていて、改善の気配がない。なかでも、若い世代(25?34歳)の女性の失業率が突出して悪化し(8月に4.7%、9月に4.6%、10月に4.5%)、5年ぶりの高さになっている(女性全体では8月が2.9%、9月と10月が2.7%)。非正規雇用の割合が高く、就業者が多い宿泊業・飲食サービス業が打撃を受けた影響だと考えられる。休業者数は、4月の597万人のピークからは10月には170万人にまで減ったが、非正規雇用はいぜんとして前年同月比で100万人前後の減少が続いている(9月は123万人減、10月は85万人減)。そして、コロナ危機による解雇・雇止めは7万人を突破した(11月6日)。
 経済成長がプラスに転じている中国でも、都市部の失業率は2月の6.2%から10月の5.3%に改善されたとはいえ、雇用の回復は緩やかで、賃金は伸び悩んでいる。
 個人消費はたしかに回復してきたが、それは政府の巨額の財政支出による家計への支援に依存するところが大きい。米国では家計への現金給付と失業手当への上積み(週600?)が行われたが、後者は2500万人に支給され月600億?(約6兆円)に上った(日経7月27日)。米国の個人消費(5月、1兆?弱)の6%分に相当し、可処分所得と個人消費の増加を支えた(日経7月27日)。
日本では、賃金総額(実質雇用者報酬)が4?6月期に前年同期比3.5%、約2.6兆円減少したのに続いて、7?9月期も前年同期比3.0%減少した。しかし、一律10万円の現金給付によって家計の可処分所得は4?6月期に7.7兆円も増えた。ある調査では、10万円の給付金の使い道は、49.4%が「食費などの生活費」、24.7%が「預貯金」であった(「地域ブランドNEWS」6月1日)。個人消費は、政府の現金給付によって下支えされ、激しい落ち込みを免れたのである。
 このように、個人消費の回復に政府の家計支援が決定的な役割を演じた。だが、このことは裏返すと、“企業の設備投資の拡大 → 雇用の拡大 → 賃金上昇 → 消費支出の拡大”という自律的な景気回復のサイクルが起きていないことを意味する。
 株価の急騰にも危うさが潜んでいる。投資家のなかでも、ワクチン接種による感染収束への過剰な期待に警鐘を鳴らす人がいる。株式市場は、有利な投資先を見出せない巨額のマネーが流れ込み、バブルの様相を呈している。バフェット指標(株式市場の時価総額÷名目GDP)は世界全体で111%と、過熱を示す100%を超え、米国のそれは190%近くにまで急上昇し、日本も130%に上昇している(日経11月11日)。コロナの感染拡大が長引いて経済活動が収縮するといった事態を引き金にして、バブルが崩壊する可能性がある。

感染拡大下で雇用も消費支出も足踏みが続く
 見かけ上の?字回復にもかかわらず、その足元は脆弱で不安要素が一杯であった。そこへ新型コロナの感染の再拡大の大波が襲来した。これによって、トンネルの出口が見え始めたかに思われた景気回復は、腰折れしつつある。10?12月期のGDPは、米国が前期比0.5%増、ユーロ圏が▲0.1%、日本が0.7%増に逆戻りすると予想されている(日経11月17日)。
 感染拡大の勢いはすさまじく、11月26日には世界の感染者は6000万人を突破。3カ月間で3500万人、2.4倍という増え方だ。死者も142万人と、58万人、1.7倍の増加である。最大の感染者と死者を出している米国では、ニューヨーク州などがレストランなどの営業時間を制限する措置を取った。フランス・イギリス・イタリアなどは相次いで再度のロックダウンに踏み切り、ドイツも飲食店や娯楽施設を閉鎖した。経済優先に固執する菅政権も、GoToキャンペーンの部分的手直しを迫られ、東京都などは飲食店の夜間営業を制限し始めた。
 急激な感染拡大と外出制限措置は、飲食サービス、娯楽、宿泊、小売りの分野に再び大打撃を与え、雇用の危機を加速する。先進国では、これらのサービス部門の雇用の比重がひじょうに大きいからだ。米国では、娯楽・ホスピタリティと小売の分野の就業者だけで全体の22%を占める(16年)。日本では、飲食・宿泊、娯楽,小売りの分野の就業者が1700万人、全体の26%になる(19年)。感染拡大に伴って、これらの分野を中心にして失業や休業が再び拡大する可能性がある。
 日本では、失業者の増大を防ぐために、年末までとしてきた雇用調整助成金の特例措置(中小企業への助成率100%、支給上限額1日1万5千円など)を21年2月まで延長することを決めた。しかし、有効求人倍率は、10月に1.04倍と前月より0.01%上昇し1年6カ月ぶりに改善されたが、東京・大阪など都市部は4カ月連続で1を割り込んでいる。主要企業(1036社)の21年春入社の内定者(11月6日現在)は昨年と比べて、大卒が11.3%減、高卒が31.9%減ときびしい状況である(日経11月27日)。このままでは「第2の就職氷河期世代」が生まれる危険性が高い。
 雇用が改善されなければ、雇用者報酬(賃金)も増えず、景気回復のカギを握る個人消費は伸びない。ILOによれば、世界の労働者の収入は、雇用の危機によって1?9月に前年同期比11%も減った(日経11月26日)。労働者の賃金が低下あるいは伸び悩む状況では、政府が家計への大規模な支援を続けて可処分所得を増やし、個人消費を支えるしかない。
 とはいえ、春には世界全体で11兆?近い規模で実施された財政支出を今後も続けていくことは、簡単ではない。米国では、民主党が失業手当への週600?の上積み措置を継続することを提案しているが、共和党は縮小を主張して対立している。また、バイデン政権は、トランプ政権が春に行った大人1人1200?(約13万円)の現金給付を繰り返すことができるのか、不透明である。
 日本では、ひとり親世帯への臨時特別給付金(子ども1人5万円、第2子以下は1人3万円)を再び給付することが決まった。これは、困窮者に対象を絞った現金給付で、総額も1365億円と補正予算の余り7.2兆円を活用すれば可能である。しかし、国民全員への一律10万円の現金給付は13兆円弱かかるから、これを繰り返し実施することは容易ではない。
 しかも、家計への現金給付は確実に可処分所得を押し上げるが、それが消費支出に向かうとは限らない。4?6月期の可処分所得の総額は、一律10万円給付によって賃金減少がカバーされた結果、7.7兆円も増えた。だが、消費支出は6.2兆円も減っている。つまり可処分所得が増えた分は、主として貯蓄に回されたのである。家計の貯蓄率は、実に23.1%にまで上昇した。
 これは、ある意味で当然のことだ。人びとは、コロナ危機の収束が見通せないなかで、いつ仕事を失ったり収入が減ったりするか分からないという不安に怯えている。したがって、少しでも収入が増えれば、それを「不要不急」の消費に回すよりも貯蓄に回して自己防衛しようとする。政府が大がかりな家計支援や消費減税を実施したとしても、個人消費の活性化に確実につながるとは言えない。

バイデン政権登場でグローバルな経済活動は復活するか
 経済危機からの脱却の重要な条件となるのは、国際協調体制が再構築され、国境を超えるサプライチェーンの再構築や人の移動の全面再開などグローバルな経済活動が復活することである。
リーマン・ショックからの急速な回復を可能にしたのは、中国を組み入れたG20サミットという新しい国際協調体制の創設であった。そして、中国の高度経済成長が世界経済の景気回復を牽引したのである。
 しかし、グローバルな経済活動の復活は、せっかく減少したCO2の排出量(前年比8%)の急増を招いて気候変動危機を加速する恐れがある。今こそ、経済のグローバル化にブレーキをかけ、ローカル化に転じるべき時である。私たちは、グローバルな経済活動の回復を期待したり礼賛する立場に立たない。
 その上で、今後の動きを見てみる。バイデン新政権は、国際協調主義に戻り、米国が主導的な役割を果たすと宣言している。深刻なコロナ危機にもかかわらずトランプの下では一度も開かれなかったG20サミットも再開されるであろう。しかし、バイデンの登場によって、最大の懸案である米中対立がやわらぐ可能性は小さい。両国の対立の本質は、貿易赤字の問題ではなく先端技術の開発と独占をめぐる争いであるからだ。バイデンの国際協調路線は、中国に対抗するために同盟諸国との協力・連携を再建しようというものである。
 しかし、コロナ危機のなかで、中国はその存在感と影響力を強めている。マスクや防護用ガウンに象徴される中国依存からの脱却が叫ばれたが、実際には中国の工業生産に対する世界各国の依存は高まっている。主要国の輸出に占める中国のシェアは、4月以降は2割を超えていて、米中貿易戦争前のピーク19%(15年)を上回っている(日経11月29日)。RCEPの結成は、中国の輸出を大きく押し上げると予測されている。
 これからも、中国の工業生産・投資活動の回復状況が世界各国の輸出入の動向、そして景気回復の成否を左右するであろう。とはいえ、中国がコロナ危機以前のような高い経済成長(10年間で平均7.6%)に戻ることは、もはやありえないだろう。

「グリーン化」は経済成長を復活させるか
 では、やや長期の視点で見て、感染がワクチンの実用化などによって早期に収束し、社会・経済活動が元の日常に戻るとすると、危機で失われたGDPを取り戻し経済成長を復活させることは可能だろうか。
ポストコロナの景気回復と経済成長の中心柱に置かれているのは、「グリーン化」(グリーン・ニューディール)と「デジタル化」である。
 EUは、グリーン化とデジタル化を進める「グリーン・ディール」をコロナ経済危機からの回復政策の中心柱に据え、10年間で1.1兆ユーロ(約130兆円)を投入する。また、新たに補助金と融資からなる7500億ユーロ(約90兆円)の「Next Generation EU」を補完措置として決定した。CO2の2050年排出ゼロ、30年55%削減をめざす大胆な計画だ。具体的には、太陽光や風力など再生可能エネルギーへの全面転換、建築物のエネルギー効率を高める改修率の2倍化、輸送分野での排出量9割削減などに大規模な投資を行う。
 バイデン政権は、CO2の50年排出ゼロをめざして、4年間で2兆?(約207兆円)を環境と公共インフラに投資する。5億枚の太陽光パネルの設置、政府公用車300万台とスクールバス50万台を排出ゼロに切り替え、商業用ビル400万棟と住宅200万棟の省エネ改修、鉄鋼やアルミの米国産クリーン素材の使用、CO2の回収・貯留技術の開発などのメニューが並んでいる。社会保障の積み増しなどを合わせて、10年間で10兆?(約1000兆円)という巨額の財政支出を行い、500万人の雇用を創出するとしている。
 中国も、CO2の60年排出ゼロの目標を打ち出した。そのための具体的な計画は明らかにされていないが、風力・太陽光発電のいっそうの拡大、電気自動車への切り替えなどが想定される。
 グリーン化をめざす政府の巨額の公共投資は、たしかに雇用の創出と経済成長にプラスの作用を及ぼす。米国の10年間で10兆?の財政支出は、GDP(年20.5兆?)の5%程度に相当し、22年の経済成長率を3%近く押し上げる可能性がある(日経11月10日)。
では、政府のグリーン投資は、民間部門の経済をどこまで活性化するテコとなりうるだろうか。従来の基軸産業である自動車産業では、30年以降には新規販売が禁止されるガソリン車やディーゼル車、さらにハイブリッド車から電気自動車(E?)への全面的なシフトが引きこされる。新たにE?を大量に製造・販売することは、自動車産業を活性化すると期待される。しかし、ガソリン車・ディーゼル車・ハイブリッド車の製造には約3万点の部品が必要だが、E?はその3分の1の部品で済む。したがって、多数の部品供給企業は不要となり、組み立て工場も簡素化される。自動車産業は広大な裾野をもって大量の雇用(日本では製造だけで91万人、関連部門を含めると542万人)を抱えてきたが、その雇用が大幅に削減される。E?が「雇用喪失車」と呼ばれる所以である。
 経済のグリーン化は、再生可能エネルギーの分野で新たな投資や雇用を創出するが、自動車産業などでは雇用の大幅な縮小をもたらす。デジタル化も、情報・通信や金融といった先端部門で高生産性・高賃金の雇用を増やすが、その雇用創出力は相対的には小さい。グリーン化とデジタル化は、巨額の設備投資と大量の労働力需要(雇用)をそれほど呼び起こさない。つまり、高い経済成長を復活・再現する駆動力にはなりえないだろう。
 これからの経済では、雇用は医療・介護を中心とする対人サービスの分野、すなわち生産性は低いがエッセンシャルワークである分野で増え続ける。そのことは、社会的必要性を満たすことに貢献するが、経済成長には役立たない。だが、雇用の拡大をともなう低成長経済あるいは脱成長経済の到来は、望ましいことである。

低成長の常態化
 各国の政府は、失業と貧困の急増を食い止めて経済の底割れを防ぐために、そしてグリーン化とデジタル化を軸にした経済成長をめざして、引き続き大規模な財政出動と金融緩和を行うにちがいない。
 その結果、政府の財政赤字と累積債務は、ますます膨れ上がる(政府債務残高の対GDP比は、20年度で日本が237%、米国が131%)。しかし、これだけ公的債務が膨らんでも、金融緩和による超低金利によって、債務の利払いは小さくて済む。さらに、当面は急激なインフレに見舞われる可能性は小さい。むしろ世界経済は、低インフレに覆われつつある。日本やドイツはデフレに陥りつつあり、経済回復している中国も消費者物価の上昇率が3月以降低下し続けている。米国は、物価上昇率が10月に1.2%になったが、コロナ危機前の2.5%(1月)にはるかに及ばない。いくらマネーを流し込んでも、賃金が上がらず需要も弱いことからインフレが起こらないのである。
 だが、巨額の累積債務が積み上がっても低インフレが続くことは、経済が「長期停滞」に陥っていることを表す。先進国では、低成長・低インフレ・低金利が常態化しつつある、言いかえると「日本化」が進行しているのだ。IMFによると、世界の貯蓄額は04年に初めて投資額を超えたが、20年には100億?(10兆円)上回っている。有利な投資先を実体経済に見出せず、貯蓄が投資に向かわないのだ。米・欧・日の自然利子率=潜在成長率は、コロナ危機によって軒並み0%台に低下している。数年後に経済危機を何とか抜け出せたとしても、その先に待っているのは経済成長の未来ではなく「長期停滞」の暗い地平であろう。
 低インフレが続くとすれば、MMT派が主張するように財政赤字の膨張を恐れず2%インフレになるまで国債を増発し続けても問題はないのだろうか。何らかの理由(例えば急激な円安)でインフレが起こった時に、これを増税と緊縮財政によって抑制することが難しいだけではない。インフレが生じなくても、国債増発を支える金融緩和(日銀による国債購入)が生む大量のマネーは、株式市場に流れ込み続けてバブルを引き起こす。それは大量の株式を保有する富裕層だけを富ませ、ますます資産格差と社会的不平等を拡大する。

何が必要か
 求められているのは、コロナ危機のなかで緊要とされる財政支出の大幅な拡大を賄うための財源を公正な増税によって確保することである。とくに、株価高騰で大儲けしている富裕層への累進的な金融課税の強化、法人税率の引き上げ、アマゾンなど巨大IT企業へのデジタル課税の導入、環境税の抜本的な強化などが急がれねばならない。
 その上で、次のことが必要とされるだろう。
 第1に、医療体制の拡充である。とくに看護師をはじめ医療従事者の報酬を大幅に引き上げなければならない。それは、当面の医療危機に対応する人材確保のためだけではない。ケア(医療・介護)をはじめエッセンシャルワークをこれからの経済の基軸に据えていくという方向転換を促すためにも必要である。
 第2に、仕事を失ったり収入を減らして生活に苦しむ人びとへの支援である。経済危機によって誰がどれくらい困窮しているかは、支援団体の活動や地方自治体を通じて把握されるようになっている。そこで、例えば年収200万円に届かない人がなくなるように、現金給付を行う。生活保護給付を無条件(資産チェックなどの撤廃)に拡大することも、1つの方策である。
 第3に、医療・介護・教育などの社会サービスを無償化する。また、低所得者向けの住宅手当の支給を創設する。社会サービスの自己負担をなくすことは、約9.5兆円(サービスの質を向上させると20兆円近く)かかるとしても、すべての人に安心を保障する最大の生活支援となる。感染拡大への不安から節約=貯金への志向が強まっているだけに、消費減税によって消費支出を喚起する政策よりはずっと有効である。
 第4に、菅政権が進めようとしている中小企業の再編促進政策をやめさせる。それは、中小企業の数が多すぎるから合併・買収を促し、生産性を高めて経済成長につなげる。そのために税制上の優遇措置をとる、という政策である。とんでもない「ショック・ドクトリン」政策だ。多くの中小企業が苦境に追い込まれている危機に便乗して、再編を進めようとする企てを許してはならない。何とか事業を継続し雇用を守ろうと悪戦苦闘する中小企業や自営業に対する支援を強める必要がある。
 第5に、30年のCO2排出の5割削減をめざして、経済と生活のグリーン化を徹底的に推進する。菅政権は、世界的な流れに押されて50年排出ゼロを掲げたが、そのための具体的な政策を明らかにしていない。それどころか、「脱炭素」の名の下に原発再稼働に前のめりになっている。再生可能エネルギーの普及だけではなく、石炭火力発電の中止、ガソリン車・ディーゼル車の都心乗り入れや新車販売の禁止、地方での代替公共交通機関の整備、炭素税(地球温暖化対策税)の税率の大幅な引き上げといった政策の実行が求められている。
(2020年12月4日記)