オリンピックいらない宣言――2016東京の場合
小山和久(東京にオリンピックはいらないネット)
2009年10月
10月3日、デンマーク・コペンハーゲン空港の出発ロビー。15:00出発予定の羽田行きANA特別便のファーストクラスに乗り込む一団に私たちは遭遇した。石原慎太郎都知事を中心に歩く十数名の一団。中には日本オリンピック委員会(JOC)竹田会長の顔も見える。声をかけた。「石原さん!」。何を勘違いしたのか笑みを浮かべて近寄ろうとしてきた。「もうオリンピック招致は止めてくださいよ!」「無駄な招致費、どうするんですか!」「ちゃんと責任とってください!追及しますよ!」。静かなロビーに私たちの声は反響した。ことさら石原氏には……。
前日の10月2日、国際オリンピック委員会(IOC)は東京も立候補していた2016年夏季大会の開催地をリオデジャネイロに決めた。公表しているだけで150億円、実際は200億円を超える金をつぎ込んでイベントを呼び込む賭博を石原氏は行っていた。その金のうち40億円は民間資金だが、残りは全部都民の税金だ。賭けに負け、どう言い繕うか思案の帰り道、いやな奴らに会ってしまったわけだ。
オリンピックとは一体なんだろう? この媒体でこれを読まれる皆さんには詳しい説明は省かせてもらうが、一言でいって、近代オリンピックは商業主義化の戦略・手段を徹底的に行なって来たことと、表向きナショナリズムを否定しつつ徹底的にナショナリズムを利用し尽くしてきたことで、極大化したスポーツイベントと言えるだろう。招致する側の様々な問題を考える時、IOCとオリンピック自体がすばらしい物ではない、むしろ拝金主義のとんでもない連中(イベント)というところから考えた方が実態をよく理解できるのではないかと思える。
オリンピック大会の主催者は誰? 開催都市と答える方が意外といる。しかし、あくまでも主催はIOC。IOCが都市に開催の名誉を与える、のだとか。そこから立候補都市による招致レースを考える時、必然的に都市によるIOCへの条件提示合戦は加熱する。こんなにIOCに貢献します、これだけの便宜提供します……になる。「オリンピック」が平和を象徴するイベントとしてのイメージを保ち続ける限り、そして国家主義とは決別しているという建前を踏み誤らない限り、ブランドとして、商品としてオリンピックはIOCにとって莫大な利益を生み出す構造を作り出した。招致都市にとってはそのブランドの招致なのだ。だから長野大会のように金で買うと言うことにもなる。その構造を作ったのがサマランチ前IOC会長だった。余談になるが、正面切っての政治的メッセージはブランド価値を逸することになるので、広島・長崎の開催はないと断言できる。
今回の石原都知事を先頭とする招致活動はどうだったのか? 開催場所の臨海地区は都市博中止で一旦開発が頓挫した場所だ。ここで再度仕事を作りたい建設業者を中心とする政・官・業の癒着団体、JAPIC(日本プロジェクト産業協議会)が石原と森喜朗元総理(文教族)に招致を持ちかけた。それに乗った石原氏は全てを電通に丸投げしたと言うのが本当の話だろう。そして石原は国威発揚も期待して。なぜ電通か? 電通はかつてIOCのマーケティングをアディダスとの共同出資会社(ISL社)で独占していたこともあり、IOCの内実を熟知していた。IOCがマーケティング事業をISL社から取り上げ、自らがコントロールするようになって久しいので熟知は過去形なのだが……。
丸投げの持つ意味は、都から出た浄財(都税)はダーティーな使途として公表できない、ということだ。当然だ。しかし一度電通に支払った中から支出したらどうか……。これは推測だ。都と、NPO法人の形態をとった招致委員会との関係も怪しい。なぜ都の事業として行わないのか? 都知事は石原氏で招致委員会の会長も石原氏。NPO法人の事務所は都庁内にある。かつて長野の招致委員会は、県から補助金を受けていたにもかかわらず文書管理の義務を顧みず、その公文書を廃棄した。表に出したくない部分を任意団体のものとして逃れたかったのだ。東京のNPO法人も全く同じ性格を期待されたと見るべきだろう。
4年の東京の招致活動が大きくつまずいたのは世論が全く盛り上がらなかったためだろう。IOC自身が行った東京開催を支持する世論調査では支持が55.5%しかなかった。それは招致にまつわる怪しさを市民が知っていたからだ。名古屋、長野、そして大阪の反対運動が、IOCの、招致の怪しさを追及し続けてきたことの「成果」であるといえる。
東京は自身の金の力を過信した。しかしIOCとそのスポンサーたちは東京が提示したような目の前の資金力には目もくれない。既に成熟しこれから坂を下りていく国で開催するより、7年先の巨大マーケットの開拓により強い関心を示すのはわかりきっていたはずだ。2008年北京のように。いずれにせよ税金を賭博の資金にした責任は取ってもらう。
※くわしくは、「オリンピックいらない宣言・東京」パンフレット(500円)をぜひお買い求めください。お問い合わせは小山和久(koyamakaz<at>bea.hi-ho.ne.jp)まで。(<at>を@マークに変えてください)
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