原発を推進してきた人びとは、明確な謝罪と責任の明確化の上に「脱原発」を語れ!/白川真澄
白川真澄(『季刊ピープルズ・プラン』編集長)
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東日本を襲った巨大な地震と津波は、2万人を越える人びとの命を奪い40万人近い人びとに避難生活を余儀なくさせている。そればかりか、地震と津波による福島原発の事故は、高濃度の放射能を放出して地元の住民に避難を強いたが、さらに事故の危険度が上昇し放射能を広域に飛散させる危険性がある。
こうした危機的な状況のなかで、これまで原発を積極的に推進してきた勢力のなかから、原発推進政策の見直しを表明する声が上がり始めている。自民党の谷垣総裁は3月17日に「原子力政策の推進は難しい」と発言し、枝野官房長官も翌18日に「谷垣発言は至極当然のこと」と応じた。原発安全神話の崩壊を目の当たりにして多数の人びとが原発への不安を募らせている現在、自民党も民主党も原発推進を主張することはできず、政策転換を迫られたのである。世界各国も、福島原発事故に衝撃を受けて次々に原発計画の凍結・見直しに踏みだしている。脱原発社会への転換は、必要かつ必然の流れになろうとしている。
しかし、自民党政権は、長年にわたって安全神話をふりまきながら54基の原発を地震列島の上に稼働させる無謀な政策を推進してきた。代わった民主党政権も、14基以上の原発を新増設するエネルギー基本計画を昨年6月に策定し、新成長戦略の一環として原発輸出を進めてきた。原発の危険性を警告する地元住民や市民の声を押しつぶし、今回の大事故を招いた為政者としての両党の政治的な罪は、きわめて重く大きい。また、原子力安全・保安院を筆頭にした官僚たち、東電をはじめとする電力会社や電機メーカー、安全神話をねつ造したりたれ流してきた「専門家」やマスメディアの罪も、同じように重い。
その人たちが原発推進政策からの転換を語るのであれば、自分たちの過ちと責任を明確に認め、大きな被害を与えた地元の住民や原発現場の労働者をはじめすべての市民に対して謝罪することが先決である。そして、原発推進政策の見直しや転換を本当に進めるのであれば、少なくとも次のことをただちに明言し、実行するべきである。
*最も危険性が指摘される浜岡原発の運転を即時中止する。そして、全国の原発を廃炉にしていく長期計画をつくる。
*アジアの人びとにも被曝の危険を及ぼす原発の輸出を中止する。
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脱原発への声や意識が高まっているとはいえ、原発を推進する勢力の悪あがきも強い。これを打ち破って脱原発社会に大きく転換していくためには、社会運動の力強い発展と市民自身の自覚的な主体的営みがどうしても必要である。原発をやめれば電気が足りなくなって困るという意識や気分も人びとのなかにまだ根強くある。それに乗じて「より安全な原発にすればよい」という言説も、マスメディアで流布されている。大震災からの「奇跡の復興」を成し遂げ、経済成長を回復しようといった幻想もばらまかれている。脱原発社会の構想を明確に語り、この構想を多くの人びとが共有することによって、脱原発、そして脱成長の社会に向かって踏み出すべきときである。私たちは、最低限次のようなことを主張したい。
*東京をはじめ大都市の住民の快適で便利な生活を支えるために過疎の村や町の住民が原発のリスクを最も多く負うという不公正な構造をなくす。
*分散的・分権的で地域自給的なエネルギーの供給のあり方を創りだしていく。
*電気をふんだんに使うようなライフスタイルを根本的に見直し、限られたエネルギーの枠内でゆったり暮らす生活や経済に転換する。
*電気の大口需要者である大企業の生産活動や巨大なオフイスビルの業務を縮小し、労働時間を短縮する。脱成長の経済に転換し、働き方を変える。