【提言】政府・東電・専門家・マスコミは、今後起こりうる事態と避難策を語れ/川崎哲
転載します。(PP研)
http://kawasakiakira.at.webry.info/201103/article_5.html
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2011/03/18 21:20
私はいまピースボート船上にいます。船に乗る前に東京から空路スイス・ジュネーブに飛んだのですが、その翌日に大震災が起こりました。ヨーロッパで被害状況の報道を連日見てきました。3月16日にイタリア・ナポリ港から船に乗り現在地中海を航行しています。私はいま、被災地の状況に対して直接に何もできないことに、心を痛めております。
福島原発の状況は、きわめて深刻かつ危機的です。ヨーロッパ各国においても、連日トップニュースで報じられており、各国の人々も、自国の原子力政策との関係でたいへん関心をもっています。
そうしたヨーロッパでの報道やインターネットを通じた情報、さらに各国の核問題の専門家やNGO関係者から送られてくるニュースや分析等を総合して、私は事態の深刻さを実感しています。
いま日本国内の報道は、放水による冷却がどのように続けられているか、また、周囲の放射線量がどのくらい測定されたか、ということを中心になされているようです。しかしながら、「いま」どのような放水をしているか、「いま」何ミリシーベルトが検出されたか、という情報だけを垂れ流すのではダメだと思います。「今後」何が起きうるのかをいま議論しなければならないと思います。でなければ、本当の危機を回避することはできないからです。
すでに、これまでの日本の原子力業界の想定を越えた大事故がおきたことははっきりしていますし、放射能漏れが起きていることも事実です。大事なことは、これから何がおきうるのか、これから何に備えなければいけないのかについて、情報や知見を有する人たちがそれを公開し、人々がそれを理解したうえで議論し行動していくことだと思います。
つまり、いま必死になされている冷却活動が、(1)成功して原子炉の圧力や燃料プールの熱が比較的早く鎮静化した場合、(2)時間はかかるが鎮静化に向かった場合、(3)成功せず原子炉の圧力や燃料プールの熱がさらに上昇の一途をたどった場合、それぞれ何が起きうるのか。
これに関して、政府、東京電力は情報を公開する第一義的責任を負っていますし、原子力や物理学の知見のある専門家はそれらの分析や解説を積極的に行うべきです。放射性物質が風に乗って飛散・拡散することを考えると、気象庁や気象学者もこれらの責任を果たすべきです。
そして、それに応じて、どのような避難策がありうるのか、シナリオごとに議論すべきです。それを抜きにして、「今日の時点で何ミリシーベルトだから大丈夫だ」とか「大丈夫でない」といった議論は、ほとんど意味を持ちません。放射能漏れが進行し、それが収束する展望が全く見えておらず、スリーマイル島と同等かそれ以上の深刻さの事故であることがはっきりしているのです。この先に何が起きるのかについて、人々は知る権利があるし、それを知って対策をたてることができる状態になる権利があります。
避難策についても、同様に情報公開と分析が必要です。どの程度の退避が必要でありまた現実的であるのか。これらについては、科学的データの分析に加えて、社会学、都市工学といった観点からの議論も必要でしょう。今こそ、それらの権限を有する機関や知見を有する個人は、その責任を果たさなければなりません。
政府や東電は、これらの議論を行うための元データを、まずはリアルタイムで全面的に公表すべきです。マスコミは、政府や東電が断片的に行う発表をただ垂れ流すのではなくて、上記のような視点からきちんとした専門家を交えた特集をいま組むべきです。
日本の外にいる私が行うこのような提言は、もしかすると日本にいる方々の感覚とはずれているところがあるかもしれません。違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。もしかすると、すでに連日テレビではそういう議論がなされているのかもしれません。(しかし私がネットを見る範囲ではまったくそういう議論は出てきませんが。)そして何よりも、震災の被害は原発の放射能漏れに限らず、もっと目の前の避難所における食糧や暖房の問題、日々の電力や生活の問題かもしれません。さらにまた、「今後起こりうること」については間違った情報に基づく風評被害や不必要なパニックの恐れがつきまとうことも承知しています。
それらすべてを踏まえてもなお、「核」という問題に長くかかわってきた者として、私はこのことを強調し提言したいと思います。きちんとした専門家や機関が情報を公開し、議論が活性化すれば、デマ的な情報はむしろ淘汰されていきます。逆に情報を公開しなければデマ的な情報が跋扈して人々は不安に陥れられます。
私たちはいま、非常に重要な歴史的局面に来ていると思います。責任ある機関にいる方々や役職にある方々、核や災害にかかわってきた方々は、全員がその責任を果たさなければならないと思います。