5 月 3 日 パネルディスカッション「ADBは必要か?」 報告

投稿日時 2007/5/15 22:19:47 | トピック: オルタ・グローバリゼーション

 WSF連絡会の大屋です。

 すでのPP研の小倉さんから簡単な報告が出ていますが、A
DB京都総会に対する運動側の企画の一つとして、5月3日にパ
ネルディスヵッション「ADBは必要か?」が開かれ、そこに
PP研のメンバーとして参加しましたので報告いたします。

 この企画については、JCJのサイト(http://www.jcj.gr.jp/forum.html#20070502
)にも投稿しましたので、ご覧いただければ幸いです。
 取り急ぎ。

大屋

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 アジア開発銀行(ADB)の年次総会の関連行事が始まるの
を機会に、「開発」の意義とADBの存在そのものに疑問を投
げかけるパネルディスカッション「ADBは必要か?」が、5
月3日、京都精華大学で開かれた。
 ADBは、アジア各国の開発事業に融資を行い、アジアの人
々の生活に密接な影響を与える国際機関だが、資金提供の中心
になっているのは、日米両国。歴代総裁が全て日本人で、現在
も黒田東彦氏。日本政府の影響力も大きい。しかし一方で、大
規模公共事業や輸出主導型産業支援による援助側地域の生活破
壊など、ADBの融資活動には多くの問題点が指摘されている

 この日のパネルディスカッションは、50名弱を集めた。


読んでくる本:
前回に引き続き『日本資本主義講座』の第十巻「総論」より、
経済分析の章(宇佐美誠次郎、井上晴丸)を取り上げます。

参考:雑誌『潮流』の1948年の特集「日本ファシズムとその抵抗線」
より、宇佐美・井上論文。(あるいは、天野恵一+池田浩士編
 冒頭、ビデオ「The 4th World War」(Big Noise Production
制作)が上映され、アルゼンチン、メキシコ、韓国、南アフリ
カなど、各地における「新自由主義的グローバル化」と「戦争
」の広がりとそれにたいする抵抗運動が紹介された。

 次に、主催団体より問題提起として、ADBの来歴と動向が
説明された。
とりわけADBの唱える持続可能・住民参加型の「新しい開
発」に疑問が提示された。ADBをはじめとする国際開発銀行
は、近年大型公共事業融資から転換しようとしており、「人間
開発」・「社会開発」・「エンパワーメント」といった主張の
もと、被援助国側の住民を伝統的な生活関係から切り離し、市
場経済システムに自発的に編入させようとしている。こうした
「開発」概念は、市場原理にもとづく経済のみを優先させるも
のとして、批判されるべきではないかと、主催団体は主張した

 また、フィリピンにおける開発と暴力のつながりや、大阪に
おける野宿労働者の排除について、現場からの報告が行われた


 その後、4名のパネラーによる討論・質疑が行われた。
 大屋定晴氏(ピープルズプラン研究所)は、ADB不要論の
論拠として、?ADBは、無償融資機関ではなく、利子つきで
返済をもとめる資本主義的「銀行」なのであって、その結果、
融資を受け取る側も、返済のために、利潤のあがる事業を計画
しなければならなくなる、?ADBは、私的所有権・自由市場
・自由貿易が人間の富と福利につながるという「新自由主義」
的な「開発」を志向しているため、競争(市場競争・輸出競争
)で生き残れる者と生き残れない者がでてくることを自明のも
のとし、結果として多国籍企業や富裕層に有利な融資を促進し
ている、?こうしたADBの「開発」の保証のために各国の暴
力行為(警察・軍事行動)が誘発・強化される構造がある、と
指摘した。
 綱島洋之氏(京都大学大学院生)は、インド・アーンドラプ
ラデシュ州の大規模ダム建設計画について報告し、開発対象地
域からの立ち退きを要求されている先住民たちが、移住先で商
品作物栽培による経済的「自立」を強制されることで、生活不
安定化を強いられていると批判した。そしてこうした「開発」
政策が、大阪の野宿労働者にたいする「自立」強制策に酷似し
ていると述べた。
 安岡健一氏(反戦と生活のための表現解放行動)は、200
1年以降米国の主導する「対テロ戦争」とADB融資のつなが
りを指摘し、先進諸国の軍事戦略に開発融資が組み込まれてい
ると発言した。そして、日本に住む人たちも、一見すると無関
係に感じられる「開発」という問題が、憲法九条を変えるかど
うかという、自分たちの国のあり方を問うこととつながってい
ると締めくくった。
 崎山政毅氏(立命館大学教員)は、1990年代以降グロー
バル化と軍事化が同時並行的に進行しており、国家間戦争では
なく、ある特定社会集団(個人)を軍事目標として攻撃する「
非対称戦」が常態化する一方で、国際開発銀行も、国家の制約
を超えた「開発」を目指す傾向にあると指摘した。そして米州
開発銀行の「エコロジー資本主義」戦略にふれつつ、「環境破
壊はしない」という美名のもと、先住民族の伝統的知識や自然
資源が自由貿易や市場取引の対象とされ、その結果、旧来の社
会関係が市場関係へと再編されようとしていると告発した。

 質疑応答では、障害者運動団体から、自分たちの活動が世界
銀行から支援を受けていることの是非について疑問が呈せられ
るなど、さまざまな立場からの発言が出た。
 とりわけ議論は「開発」概念に集中した。?「開発」概念が
、企業の営利活動や資本蓄積による経済成長という発想にすり
かえられている、?ADBの「新しい開発」が、人間を市場競
争や企業営利活動に適合するかたちに作り変え、いわば「開発
」の「共犯者」的立場に被援助国住民を陥らせる可能性がある
、?軍事戦略と開発とのつながりは、日本では沖縄県の基地経
済問題として解釈できる、?労働市場に出て賃金を稼ぐ労働者
になること、あるいは、商品・サービスに対して代金を払う消
費者になることを強いるという意味で、「新しい開発」は日本
での障害者の「自立」支援とも類似しているなど、いくつかの
問題が提起された。
 そして、こうしたADBを一環とする政治経済的動向に対抗
するために、専門家・活動家・地域の住民が対等な民主的討論
関係をつくりだすこと、短絡的な解決策にゆだねるのではなく
、ゆっくり議論を進めることなどが指摘された。


(WSF連絡会事務局 大屋定晴)





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