正義と公正と社会変革
講師:太田昌国、金井淑子、川本隆史、齋藤純一
コーディネーター:青山薫
持てる者と持たざる者の差が広がっている。日本社会の内部でも、日本と世界の間でも。働けば希望に近づくと見えた半世紀は終わり、経済成長の恩恵も、集団としての連帯の実感もない世代がやがてこの社会の中心となる。彼ら、彼女らには、ただの一個の人として、最小単位の抵抗や生存、怒りの基盤が残されている。
けれどもそれこそが、人に普遍的であるはずの権利というものを、自分のものとするための出発点だ。彼ら、彼女らは、競争から降ろされて、あらためて、誰とどのように協力したら人としての尊厳を失わずにすむのかを日々模索しているに違いない。そんな彼らと、彼女らと一緒に、この先半世紀の「正義」とは、「公正」とは何かを考えたい。そして、グローバルな政治経済権力関係、相変わらずのジェンダー不平等、「ケア」労働の使い捨て、すべての踏みつけられた人びとに対する倫理の欠如を、捉え返すこととなるような場を作り出したい。そこから生まれた変革の芽は、「希望は戦争にはない」と言うだろう。
● 日にち: 9月26日/10月10日/24日/11月14日/28日/12月19日/1月30日/2月20日/3月13日[全9回]
● 時間:19:00?21:00
● 参加費:
通し参加 :会員/8,100円、非会員/9,900円
単発参加:会員/1,000円、非会員/1,200円
貧乏人<自己申告制>/800円
★第2回以降の内容および担当者が決まりました
2回 10月10日 齋藤純一:公共性と社会連帯
公共の利益とは何か、人は社会的に連帯する必要があるのか、原理的な問いについて社会保障の機能など具体的な例を使って考えます。参加希望者には事前に齋藤の小論文を配布します。
3回 10月24日 川本隆史:記憶をケアする
広島市で生まれた川本がヒロシマとの「新たな」出会いをふまえ、被爆当事者でない者がその被爆の記憶を歴史的に語り継ぎ、加害と忘却を告発することができるのか、するべきなのか、記憶の公共性や連帯の歴史的側面から考えます。
4回 11月14日 金井淑子:フェミニズムの他者、外部の他者/内部の他者(化)
フェミニズムと倫理学とのはざまで〈ためらいながら〉発言してきた金井が、女性という集団内部にある格差と差別、フェミニズムが連帯するために見ないようにしてしてきた内部の「他者」について、みずからの「他者」との関係を省みながら討論を促します。
5回 11月28日 太田昌国:歴史的な公正さとは何か
異なる民族史のはざまにある私たちが、どのようなスパンで見れば歴史を公正に見ることができるのか、経済的再分配の問題とされがちな「グローバルな正義」を構築する可能性について、歴史と記憶の側面から議論します。
6回 12月19日 齋藤純一:デモクラシーの理論と分類
デモクラシーの原理と、そのさまざまな現れ方を解説。個人的な人間関係と社会的な人間関係の相互作用、親密な関係の暴力性とデモクラシーの根源としての可能性の両方についても議論します。
7回 1月30日 川本隆史:「デモクラティックな平等」とは何か
正義の核心を(効率ではなく)「公正」として捉えたジョン・ロールズ。彼が提案する「デモクラティックな平等」を平易な言葉で解説し、それが日本社会の変革を構想する上でどういった示唆をもたらすのかを参加者と話し合います。
8回 2月20日 金井淑子:女の経験を語る/記憶を耕す 自己へのケア
親密な関係やケア関係に働く権力、暴力のもっともモクロレベルでの発動において、女性が加害者であることも免れがたい。なぜなのかを考えたい。今日における「親密圏」を〈自己へのケア〉の場としてとらえ返す視点から、身体・セクシュアリテ・、生活、それらを「まるごと生きる」ことを課題としたウーマン・リブの運動の意味にも遡って、議論します。
9回 3月13日 太田昌国:権力を求めない社会変革
政治的・経済的・文化的権力の奪取を前提とするのではなく、権力を求めない前提で社会変革をめざす思想は、フェミニズムや少数者の運動から今までも提唱されてきました。これを普遍化するには何が必要か、議論します。
講師プロフィール
太田昌国(おおたまさくに):釧路市生まれ。現在の関心は、(1)挫折した20世紀型社会変革運動の理念と実践の、どこに過ちがあったかを考えて、新たな道を探ること。(2)「理想主義」の敗北の上に乱れ咲く徒花のような、日本ナショナリズムの悪煽動を批判する、有効な視点を得ること。最近の仕事、『暴力批判論』(太田出版、2007年)と文庫版『「拉致」異論』(河出文庫、2008年)は、その途上で生まれたものです。生業=編集者。
金井淑子(かないよしこ):神奈川県生まれ。倫理学から、女性学・フェミニズム・ジェンダー研究に踏み込み、両領域を架橋する問題意識から発言。最近の関心は、「親密圏、身体性、暴力 トラウマ」の問題に、とりわけ「秋葉原事件」以降は気持ちはそこに釘付け。ネオリベ・男女共同参画同道批判はもとより、フェミニズムにも厳しく自己反省的なまなざしが向けられるべきかと。近著『異なっていられる社会を 女性学/ジェンダー研究の視座』(明石書店2008年)。
川本隆史(かわもとたかし):広島市生まれ。ジョン・ロールズとキャロル・ギリガンから受けた衝撃をバネにして、正義(普遍的な公平さの実現)とケア(目の前の苦しみを緩和しようとする営み)を兼ね備えた社会のあり方を構想するようになった。また日米両国の原爆をめぐる「記憶」の歪み・偏りを正す作業を「記憶のケア」と名づけ、それを通じて「記憶の共有」にいたる理路を探っている。近著に『共生から』(双書・哲学塾、岩波書店、2008年)がある。
齋藤純一(さいとうじゅんいち):福島県生まれ。政治理論・政治思想史専攻。近著に『政治と複数性――民主的な公共性にむけて』(岩波書店, 2008年)がある。ハンナ・ アーレントから受けた衝撃をバネにして、政治的な意見形成、意思形成が民主的であるための条件について考えている。公共圏、親密圏、社会統合(社会的連帯)のほか、最近は政治と情念をめぐる問題にも取り組んでいる。