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特集に当たって
今年の七月に北海道洞爺湖で開かれるサミット(G8)では、地球温暖化問題が最大のテーマになると言われている。福田政権は、このサミットに向けて安倍政権の「美しい星50」提案を受け継いで、「二〇五〇年までに温室効果ガスの排出量を半減させる長期目標を、経済成長と両立しながら実現する」ために「国際社会を先導する」(一月の施政方針演説)と宣言している。しかし、日本政府は、バリ島会議で米国に同調して国別のCO2排出削減目標の設定に反対して強い批判を浴びた。そのため、慌てて国別目標の設定という方針に転じたが、肝心の削減目標は産業ごとにエネルギー効率などを尺度にして削減可能量を上積みして決めるといういい加減な方式に頼ろうとしている。政府は、トヨタなどの企業の利益を優先して京都議定書で公約した削減目標の達成を企業の自主行動計画に委ねてしまい、環境税の導入といった政策を採ろうとはしていない。むしろ道路特定財源を確保して五九兆円を投入し一万四〇〇〇キロの高規格道路を建設することによって、クルマ社会化をさらに推進しようと企てている。こんな日本政府に環境問題を語る資格などないのだ。
日本では、地球温暖化をはじめ環境問題への取り組みは、反原発運動などを別とすれば環境NGOを主体にした温暖化防止への政策的な提言活動として展開されている。しかし、世界的には、環境運動は反グローバリゼーション運動の重要な勢力を形づくっている。この海外の環境運動から提起されている資本主義と環境問題の関係をめぐる論争やラディカルな理論を積極的に学び、生かしていく必要があるだろう。また、環境問題は、基地問題(沖縄の辺野古とジュゴンなど)や原発問題(柏崎原発事故など)や食の問題(遺伝子組み換え作物など)など多くの課題と密接に関連している。こうした多くの課題や運動とのつながりのなかで環境問題を再定義していくことが求められている。
日本ではかつて環境問題は、大型開発に抵抗する地域住民運動を基盤にして社会をラディカルに変革する運動の一環に位置してきた。しかし、いま、環境問題はどちらかというと、市場での排出権取引や企業による「環境にやさしい」技術や商品の開発によって解決できるという文脈の中に組み込まれつつある。私たちはこの支配的な文脈に揺さぶりをかけ、その外に出て、環境問題を再定義する必要を痛感する。そして、あらためて経済成長主義とラディカルに対決し、オルタナティブな「脱成長社会」をめざす理念・構想、政策、運動論を再構築したい。本号はこうした問題関心に立って特集を組んだが、なかでも、洞爺湖サミットが常軌を逸した戒厳体制のなかで行われようとしている現在、このサミットに批判的なスタンスをとる人びとや反対行動に取り組んでいる人びとのなかで本号の内容が議論していただければ幸いである。
白川真澄(本誌編集長)
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