【特集】労働が壊される
【小特集】暴発する安倍政治
白川真澄(本誌編集長)
働く場で心身をボロボロにされ、人間の尊厳を潰される若者の悲鳴が聞こえてくる。いや、声も上げられずに、ただ不安と諦めのなかで耐えるしかない労働者のほうが多いかもしれない。
雇用と労働の劣悪化は、グローバル市場競争のなかで世界的な傾向である。だが、それは、労働組合の抵抗力がまったく衰弱した日本では際立っている。非正規雇用で働く人びとは、労働者全体の36.6%(2013年)、4割近くにまで増えている。女性は55.8%と、6割近い。非正規の仕事に就くしかなければ、生活できない低い時給、いつでも契約打ち切りで失業する不安が待ち受けている。正社員として就職しても、過酷な残業や上司の罵倒に苦しめられ、早期離職や「心の病」に追い込まれる。
アベノミクスは、この現状を極限まで悪化させようとする。「成長戦略」の中身は規制緩和ということに尽きるが、その中心柱は働き方と雇用の規制緩和である。労働者派遣法の改悪が突破口だ。派遣労働は例外的な働き方として期間(3年)と業務(26)が限定されてきたが、閣議決定された派遣法改正案は、この限定を取っ払い派遣労働の無制限な利用ができるようにする。これによって正社員のやっていた仕事を派遣労働にどんどん置き換える。また解雇しやすい「限定正社員」が導入されはじめ、さらに正社員の解雇規制の撤廃が企てられている。(ごく少数の管理・開発部門の正社員を除く)労働者の全面的な非正規化を進め、「世界で一番企業が活動しやすい国」にしようというわけである。
アベノミクスを支えてきたのは株高だが、それは海外からの緩和マネーの流入が産んだものである。実体経済の回復がままならない現在、景気回復ムードを保つためには株価の維持・上昇にすがるしかない。労働の規制緩和は、安倍政権にとって外国人投資家の投資を呼び込む「株価対策」の切り札でもあるともされている(朝日新聞3月23日)。
安倍は「成長戦略」の看板に、女性を労働力として「活用」することを掲げている。だが、それは雇用の非正規化と一体であるばかりか、保守主義的な「家族の再生」とセットだという矛盾に満ちたものである。
壊される労働の実態にメスを入れ、若者や女性が声を上げる、抵抗する、横につながる運動の新しい可能性を探ってみたい。