『季刊ピープルズ・プラン』46号(2009年春号)
【特 集】民衆運動の構想力
【小特集】ワシントン反軍事基地会議

特集にあたって
白川真澄

 金融危機から発した世界同時大不況の襲来、イスラエルによるガザ大虐殺の強行、オバマ新政権の登場。誰もが、世界が混沌たる大転換期に入っていることを実感している。これまでのアメリカの覇権が崩れて「帝国」が没落しつつあること、市場万能の新自由主義とマネー主導の金融資本主義が行き詰ってしまったことは、疑う余地がない。しかし、富と権力をほしいままにしてきた人間たちは、未曾有の金融危機を引き起こした原因と自らの責任を明らかにせず、大量の労働者を解雇しその生活を破壊することによって危機から脱出しようとしている。為政者たちは、機能不全に陥った既存の政治・経済システムに代わって世界と社会がどこへ向かうべきかというビジョンを積極的に描きだす能力を失なっているかに見える。惰性に身を任せ、つぎはぎだらけの政策を場当たり的に並べるだけの麻生政権は、その見本である。

 世界と日本の民衆運動には、この大転換期にどのように立ち向かい、オルタナティブな社会をめざすのかという構想力が問われている。住宅取り上げや大量解雇、「弱者」切り捨てに反撃するたたかいが世界各地で抗議デモ・ストライキ・「暴動」という形をとって展開されているが、日本ではグローバル企業のやり口の理不尽さに比べて人びとの怒りの声と行動の現われ方は、残念ながらひじょうに弱い。しかし、「派遣切り」に対するユニオンのたたかい、生存を守るための「生活相談」や生活支援の運動、貧困に対する女性たちのネットワークづくりなど、新しい試みが確実に胎動している。

 本号では、大転換と危機に立ち向かっている民衆運動のなかに育っている連帯や助け合いの鼓動を聞きとりながら、オルタナティブな社会の形成につながる一連のキーワード(「脱経済成長」、生存権、ベーシック・インカム、「連帯経済」、「民衆憲章」など)について問題を提起した。これらを糸口にしながら、世界と日本社会のオルタナティブについての本格的な議論をつくりだすことをめざしたい。ぜひお読みください。
(しらかわ ますみ/本誌編集長)

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