【特集】討論:「安倍政権とは何か、どう対決するか」?
白川真澄(本紙編集長)
安倍政権は、いまなお高い内閣支持率を維持して今夏の参院選で大勝する勢いを見せている。安倍の宿願はいうまでもなく改憲であり、参院選において改憲に必要な三分の二の勢力を維新の会やみんなの党と組んで獲得することを狙っている。
安倍にとって、改憲とは「レジームチェンジ」(体制転換)である。自民党改憲草案があからさまに示すように、国家を成り立たせる原理そのものを一八〇度転換させようとしている。安倍は、「戦後の歴史から日本を取り戻す」と言い、戦後を全否定した戦前の「日本帝国」への回帰を唱えている。と同時に、「強い経済を取り戻す」と、経済成長をとげた戦後の日本の復活を持ち出している。論理的には支離滅裂なのだが、そんなことにお構いなしに本来は対立・矛盾した路線や政策を平然と抱き合わせ、ごった煮にして総動員してくる。
この点に安倍流の政治の特徴があるのだが、国内的にはその政策がはらむ矛盾はなかなか顕在化しない。たとえばアベノミクスは、借金(国債増発)による財政出動(公共事業の再開)政策と従来の二倍ものおカネを注ぎ込む金融緩和政策という本来は両立できない「二本の矢」を同時に放つ。どちらか一本でも当たって景気回復の期待感が高まればよい、というものだ。一三年度末には国の借金が確実に一千兆円を越え、長期金利が上昇し、国債の利払いが雪だるま式に膨らむ。金融緩和による急速な円安が輸入に頼る食料品やエネルギーの価格を高騰させて家計を直撃する一方で、賃金は上がらず非正規雇用だけが増える。だが、安倍政権は、アベノミクスの抱えるこうしたリスクがどんなに大きくても、参院選さえ乗り切れば、後で人びとに押しつけることができると、高をくくっているようだ。
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しかし、安倍流の支離滅裂の政治は、日本の外に一歩出ればまったく通用しない。それは、早くも大きな軋轢を引き起こしている。安倍の「レジームチェンジ」は、「日米同盟の完全な修復」を本質的な要素としつつ、歴史認識の根本的な変更(改ざん)があってはじめて成り立つ。「安倍内閣として村山談話をそのまま継承しているわけではない」(四月二二日)、「侵略という定義については、学会的にも国際的にも定まっていない。国と国とのどちら側から見るかということにおいて違う」(四月二三日)。
アジアへの侵略(村山談話の核心)を真っ向から否認する安倍の歴史認識は、中国、そして韓国との間に緊張を生んでいるだけではない。米国の議会調査局の報告書は、安倍の歴史認識が「東アジア地域の国際関係を混乱させ、米国の国益を害する恐れがある」と批判した。米国政府は、二〇〇六年のときと同じく安倍政権に対して歴史修正主義に走ることに強い警告を発している。完全に修復したはずの日米関係に鋭い亀裂が入りつつあるのだ。そこへ、改憲への盟友・橋下(維新の会共同代表)の「従軍慰安婦制度は必要だった」発言が加わった。安倍も「(慰安婦の募集に)強制性を証明するものはなかった」(一二年九月一二日)と強弁して、自らは河野談話を継承するとは決して言わない。橋下は、安倍のこころを推し測って暴言をはいたのかもしれない。
「レジームチェンジ」としての改憲をめざす日本の支配エリートの本当の姿が、いまアジアと世界のなかでさらけ出され、強い批判と警戒心を呼び起こしている。外向けの発言を使い分けるといういつもの二枚舌で事態を収拾しようとしても、二度目はうまくいかないだろう。ここに、安倍政権の本質的な弱みがある。橋下の「慰安婦必要」発言に対する激しい怒りの声は、国際的な批判とひとつになって安倍政権を撃つ流れをつくりだすにちがいない。さらに、改憲の中身を隠したまま、「国民の手に憲法を取り戻す」と称して九六条改憲を先行させる安倍の企ては、人びとのなかに疑問や反対を大きくしている。
安倍政権の野望の全体像はどのようなものか、その弱点は何か、それとどのように対決し、その野望を挫くのか。民衆運動のさまざまな分野からの抵抗と反撃に根ざしつつ、領域を横断する討論と問題意識の共有を行なうことが求められている。本誌では前号で「安倍政権とは何か、それとどう対決するか」というテーマで広く討論を呼びかけ、その口火を切るために編集委員二名から問題提起を行なった。これに答える形で、多くの方々が今号に執筆してくださった。読者のみなさんがじっくり読んで、討論のさらなる発展に参加していただきたいと願う。
(しらかわ ますみ)