『季刊ピープルズ・プラン』50号(2010年春号)

OPEN報告
第3回 ジェンダーとセクシュアリティ
     ――婚姻血縁家族制度と生産中心主義を離れて


 一人目の発言者、尾辻かな子さん(元大阪府議)は、レズビアンであることを公表しており、参議院選挙に出たこともある(そのときの経験については、本誌40号(目次はこちら)を参照)。公表した後に彼女が直面したさまざまな反応が興味深い。たとえば、「ベッドの中のこと、プライベートなことをなぜカミングアウトするの?」という疑問。それから、沖縄や在日朝鮮人、部落など、さまざまな人権・差別の問題に関わってきた人から言われた「あんたの問題はわからへん」という言葉。そこから尾辻さんは話を広げて、社会的な慣行や制度の議論へと進む。たとえば、レズビアンのカップルは「家族向け」住宅にどうやって入るのか? 地域で自治会に入るとき、自分たちの関係をどう説明するのか? パートナーが急病になったら、自分は「家族」として扱ってもらえるのか? こうして日常的に直面する難題こそが、レズビアンが日本社会の中で立っている場所を指し示している。その上で尾辻さんは、日本でも同性愛パートナーの社会的・法的な保障を考えていくべきだ、と話を結んだ。

 次の発言者、青山薫さん(ピープルズ・プラン研究所)は、人間の性的志向や性自認は、「男」から「女」までのグラデーションの中のどこかにあり、きわめて多様でカテゴリー化することがとても難しい、という認識を示した。尾辻さんが語るように、日本では、異性どうしの結婚以外には権利が与えられていない。しかし、諸外国では、多様な性のあり方が認められるようになってきている。同性結婚を認めるケース、外国で成立した同姓カップルが国内に移住してきた場合にそれを認めるケース、「シビル・ユニオン」といって、結婚した異性カップルと同等の法的権利を同姓カップルに認めるケースなど、さまざまある。その中で青山さんは、英国のシビルパートナーシップ法(2005年施行)について、その手続きなどもふくめて、細かく説明してくれた。

 討論ではまず、シビル・ユニオンなどもふくめて、共同生活や「親密な関係」の間口を異性愛カップル以外に広げていくべきだとの意見が出た。ただそれは、同姓「婚」(=国家によって、法律によって認められた結婚)という形を必ずしもとる必要はなく、むしろ、事実婚を拡大していって既成事実を積み重ねることで徐々に権利を勝ち取っていくのがよい、ということだ。「生活共同体法」「ドメスティック・パートナー法」という法律で権利を獲得していこう、という構想もあるようだ。

 これに対して、そうした方向性は結局のところ、カップル主義(異性どうしであれ同姓どうしであれカップルに社会的特権を与えること)や世帯主義(世帯を社会生活の基礎単位とみる)を強化することになるのではないか、との批判が出された。それよりもむしろ、結婚していなくても、パートナーがいなくても、一人で生きていける社会を作ることが必要なのではないか、というのだ(こういう議論は、講座第5回目の内容「生存権の保障」にもつながることになるだろう)。

 結局のところ、多様な人間関係を、異性愛主義的な結婚に準ずるような形で社会的・法的に認めていくことが、既存の結婚制度をただ保守することにつながってしまうのか、それとも、それを内側から突き崩すポテンシャルを持つとみるのかが、議論の焦点であるように感じた。
(山口響/PP研スタッフ)

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