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暗闇を取り戻す思想と行動を

大野和興(農業ジャーナリスト)
2011年3月

【出典】『反改憲運動通信』6期20・21号(2011.3.30)

 断続的に続く停電。4月が近いのに底冷えがする。外へ出てみると、満天の星空。これまで目を凝らしても見えなかった小さな星も見えている。ここは秩父市のはずれ、横瀬町と境を接する小高い山の上だが、こんな星空をみたのはいつだったろうと記憶をたどる。

 20年、いや30年くらいさかのぼるかもしれない。

 福島原発暴走による停電で生産も生活も停滞を余儀なくされた結果なのだが、原発を捨て、ここまで戻るのは、とても魅力的な選択ではないのか、と闇の中で空を見上げながら思う。豊前火力発電所建設反対運動のなかで松下竜一は「暗闇の思想」を書いた。今後展開するであろうこの列島の、想定されるシナリオを思い浮かべ、いま私たちに必要なのは、「暗闇を取り戻す思想と行動」なのではないか、と考えた。

 暴走する原発を何とか抑えつけ地震と津波被災地で復旧が始まる。あの事故を抑えつけた日本の技術力は称賛され、付加価値となって原発輸出が加速する。津波被災地では、多国籍企業を含めた大手ゼネコンがひしめき、国家事業となった震災復興に群がる。震災特需に世界中から資本が入り込み、震災が長く停滞する先進国経済の救世主となる。被災者の不満を抑えるために、社会の管理化が急速に進む。

 復興資金を稼ぐためには、より一層の経済のグローバル化が必要との声が政治家と経済界で高まり、TPP(環太平洋経済連携協定)参加論議が勢いを得て、そのことに反対するのは非国民、といった空気がかもしだされる。原発事故で有事に強い日米軍事同盟の威力が宣伝された結果、普天間を含む沖縄の基地闘争は、これまた非国民・国賊扱いとなり、孤立する。

 「新自由主義的復興」とでもいうべきこれから想定されるシナリオにどう対峙し、それとは違う“この列島のつくりかえ”を用意し、足元から動き出すか、いま市民・民衆運動に側はその力量が問われているのだと思う。もちろん東京だけの動きで、そんなことができるわけはない。幸い、ぼくが軸足を置く農と村と百姓の世界では、反TPP を掲げ、各地の手だれの百姓が参加する「TPP に反対する人びとの会」が生まれ、行動を起こしていた。農村の女たちの間では「反TPP百姓女の会」が生まれ、戦後農村女性運動を担ってきた女たちが動く場がつくられていた。そのなかには、今回被災した人
も多い。

 これらの運動と連携をとりながら、ムラやマチの生活者、手だれの百姓、漁師、小零細業者、職人を包み込む動きをつくりだせないか。ことは急ぐ。試行錯誤や失敗は承知の上で、少しずつ歩み出すしかない。私たちが目指す世の中の見取り図はそれなりに出来上がっている。当事者主権と民主主義、大きなシステムではなく小さな仕組み、人と自然・人と人の関係性のもやい直し。それをありふれた言葉だが、「脱原発社会」と名付けてもいいかもしれない。
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