木枯らしが吹く季節になりましたが、次回(来年1月5日)の脱成長ミーティングのお知らせです。
いま世界では、気候変動危機や経済格差が人びとを苦しめ不安にさせています。その主たる原因が「大人たちはお金と永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかりしている」(グレタ・トゥンベリさん)社会システムにあることが、ますます明らかになってきています。経済成長を追い求め続け経済成長なしにはやっていけないシステムに代わるオルタナティブな社会を構想し、実践する動きが活発になっています。
脱成長ミーティングの次回の会合では、脱成長の社会の構想として、ガンディーの村落共同体の自治・自給とその連合という社会構想をテーマに取り上げます。インドはこれとは正反対の近代化の道を走っていますが、ガンディーの社会構想のユニークさとその現代的意味を捉えかえしたいと思います。報告者は、ガンディーの研究者である石井一也さん(香川大学)です。新しい年が明けてすぐの日程ですが、鬼に笑われても、出席の予定を入れておいてくだされば幸いです(白川真澄)
日時:2019年12月4日(水) 19時?
場所:PP研会議室
テーマ:戦争体験と戦争責任
報告者:池田祥子さん
読んでくるもの:北村小夜『画家たちの戦争責任:藤田嗣治の「アッツ島玉砕」をとおして考える』梨の木舎(2019年)
□ 日時:2019年11月30日(土)13:30?17:00(開場13:00)
□ 場所:たんぽぽ舎: 千代田区神田三崎町2-6-2 ダイナミックビル4F
TEL:03-3238-9035 FAX:03-3238-0797
★「水道橋」駅から徒歩5分 https://www.tanpoposya.com/アクセス/
《発題者》
◆いまの枠組みから踏み出す―非武装原理
武藤一羊(ピープルズ・プラン研究所)
◆変わる欧米の社会運動―左翼ポピュリズムと気候変動問題
箱田 徹(天理大学教員・社会思想史)
◆なぜラディカルフェミニズムは分かってくれないのか… 青山 薫(神戸大学教員・ジェンダー・セクシュアリティ研究)
《コメンテーター》
*花崎皋平(哲学者)
*船橋邦子(北京JAC、女性差別撤廃運動)
*松井隆志(武蔵大学教員)
*白川真澄(ピープルズ・プラン研究所)
* 司会:天野恵一(ピープルズ・プラン研究所)
◆とき:2019年9月14日(土)18:15? (18時に開場します)
◆ところ:スペースたんぽぽ(千代田区三崎町2-6-2 ダイナミックビル4F)
◆地図 最寄駅 JR水道橋駅
◆資料代 500円 【チラシPDF】
◆発言
◎「特定重大事故等対策施設」問題とは何か?
山崎久隆さん(たんぽぽ舎)
◎「原子力非常事態宣言」下のオリンピックに反対しよう!
宮崎俊郎さん(オリンピック災害おことわリンク)
原子力規制委員会は4月に「テロ対策施設」を期限までに完成しなければ、原発の運転停止を命ずる、という方針を明らかにした。「新規制基準」をパスしたとして再稼働させた原発も、それに含まれるというのだ。
原子力企業ベッタリの再稼働指導委員会と化していた原子力規制委員会のこの姿勢は何故?
それは正式には「特定重大事故等対策施設」であり、第二の「制御室」と呼ばれ、福島原発のメルトダウンの事故を、これさえあれば、あそこまで放射能がまきちらされることは、なかったといわれる施設だ。福島事故後つくりなおされた「新規制基準」は、その設置を義務づけたにもかかわらず、規制委は後に「工事計画」認可から「5年以内」でよしと期限の延長を勝手に決め、再稼働をパスさせる作業を推進してきた。「天皇代替わり」・「G20<大阪>」、そして2020年東京オリンピックへとハードな警備(強権的弾圧)体制をつくりだしつつある安倍政権にとって、「原発テロ無策」は、まずいとの政治判断が、この方針転換の裏にあると思われる。
各原発に「特重施設」をつくらせるのは当然の要求なのである(5年の期限延長が許されない決定であったにすぎないのだ)。
ただ私たちは「テロ対策」を名目にした民衆の運動への強権的弾圧を正当化しようという安倍政権の政治に乗せられ、「テロ対策」を反原発運動が呼びかける方向に引きずりこまれるわけにはいかないのだ。
そこで原発再稼働反対を闘っている私たちは、「反テロ・キャンペーン」に抗して、2020年原子力非常事態宣言下の東京(「復興」)オリンピックと闘っている仲間とともに、この問題を討論する集まりを持つことを思いたった。
このやばい局面を、反原発・反五輪グループの闘いの協力を拡大していく方向への逆転のチャンスに転ずるために。
主催・問い合わせ 福島原発事故緊急会議
Tel:080-9031-4611(国富) fax:03-6424-5749 e-mail 2011shinsai.office@gmail.com
賛同・カンパのお願い
アベノミクスが始まってから、すでに6年間が経過しました。雇用の改善・株価の上昇・企業利益の急増といった成果が吹聴されていますが、深刻な人手不足にもかかわらず賃金は伸び悩み、8割の人が「景気回復を実感できない」状態が続いています。日本経済は低成長・低金利・低インフレが常態化し、今後も急激な人口減少のなかで経済成長が期待できない時代に入っています。
こうした現実を前にして、従来の経済学の理論的枠組みでは説明できないテーマが浮かび上がってきています。例えば、異次元の金融緩和を続けたにもかかわらず、なぜ2%インフレ目標は実現できなかったのか。労働力不足なのに、なぜ賃金は上がらないのか。「低インフレ」のまま、デフレから脱却しているのではないか。巨額の財政赤字が積み上がっているにもかかわらず、なぜ財政破綻が生じていないのか。
そこから、さまざまの論争も起こってきました。最近では、MMT(現代貨幣理論)に依拠して、高いインフレが生じるまで借金を増やして財政支出を拡大し景気回復を実現して税収を増やす、といった「反緊縮」論も登場し、一定の支持を受けています。これに対して、公正な増税を実行して安定した財源を確保し、社会保障の拡充によって将来の生活不安をなくすことが必要、といった批判も行われています。
そこで、経済・財政・金融をめぐって論争になっているテーマを読み解いていく勉強会をスタートさせることにします。3カ月に1回程度のペースで、話題になっている本や論文を取り上げて、レポートと討論を行います。テーマは重要で大きいものになりますが、少人数で突っ込んだ議論をざっくばらんに行う場にしたいと思います。
参加を希望される方は、ご連絡ください。
第1回 日時:10月4日(金) 18:00?21:00
テーマ:「反緊縮」論とそれへの批判
テキスト:松尾 匡×白川真澄「激突討論:アベノミクスとどう対抗するか」(『季刊ピープルズ・プラン』85号)、高端正幸「税は何のためにあるか――『反緊縮左派』の難点をめぐって」(同)
報告:平 忠人
場所:ピープルズ・プラン研究所
(大河 慧、白川真澄、平 忠人)
■問題提起:
北村小夜(元教員)
田中聡史(教員)
天野恵一 (反天皇制運動連絡会)
(司会)松井隆志(PP研)
■日時:2019年10月13日(日)14時30分?(開場14時)
■場所:PP研会議室(裏面参照)
■参加費:800円
■主催・連絡先:PP研(裏面参照)
天皇「代替り」の政治のスタートを告げる「生前退位」希望のアキヒト・メッセージにふれて北村小夜は、こう語った。
「小学校で執拗に教えられたので決して忘れることはない。天皇が国民に言った“ことば”が勅語で、書いたものは詔書と。
2016年7月13日、NHKのスクープに始まり、8月8日には『ビデオ・メッセージ』(おことば)が流れて、退位の意向が示されると、70年経っても主権在民が身につかない国民の支持に押されるように、無法は無視され、政治が実現に向かっていった。こんなことができるのは大日本帝国憲法下の天皇でしかない。まさに『天皇ハ神聖ニシテ侵スベカラズ』ではないか。
2016年4月から小学校で、道徳が教科化された。2006年改悪教育基本法の『伝統文化を尊重し、わが国と郷土を愛する・・・』を掲げ、22の徳目ごとに教材で具体化した検定教科書による授業が始まっている。教科化に対しては教育勅語・修身の復活といって、1958年の導入以来60年にわたって反対してきた。私たちが使った第三期国定教科書修身の一年生の初めは『テンノウヘイカバンザイ』であった。当時に比べれば天皇・皇族は身近にある。よく歩き回り、新聞やテレビに現れない日はない。歩き回った跡には碑や看板ができる。興味本位な情報もあふれている。自民党憲法改正草案では元首化を目指している。いまこの国で生き方を学ぶには天皇制については真剣に議論しなければならない。しかし、道徳教科書は天皇や元号に全く触れていない。大抵の教材は背後に置くことくらいは容易に見える。書く条件は揃っているのに書かないのはきちんと書くのは憚かられ、中途半端に書けば、左右からの攻撃を受けることを怖れているからであろう。私たちも天皇・国旗・国家などの記述は少ない方が良いという消極的な対応しかできないのが現実であるが、次回からは本性が現れるだろうし、道徳の性根が明らかになったのだから、覚悟してかからなければならない」(傍点引用者)。
「天皇制と道徳の教科書」のタイトルの「反天連」のニュース(Alert24〈2018年6月5日〉)の文章である。
「平成から令和」への「代替り」の今、新元号フィーバーをテコにした〈祝祭ナショナリズム〉の政府・マスコミ一体化した大騒ぎはやまない。このプロセスを通して、教育の国家主義(道徳)化は、より加速されよう。今回は、戦後教育の中を教師として生きてきた北村小夜に、安倍首相(夫妻)が肩入れした「森友学園」の幼児教育にグロテスクに浮上した「教育勅語」(全児童の唱和)に象徴される状況が、なにを示すかをメインに語っていただく。
もう一人、2003年10月23日の東京都教育委員会が出した「入学式・卒業式等における国旗掲揚及び国家斉唱の実施について(通達)」、いわゆる「10・23通達」以後、各段と強まった学校現場での「日の丸・君が代」強制に、少数派に追い込まれながらも〈抵抗〉する動きの中を生き続けてきた特別支援学校教員、田中聡史に、ドタンバの現状を(いくつかの裁判闘争の経過も含めて)レポートしていただく。
反天皇制運動連絡会の天野恵一は、後から振り返れば、「昭和代替り」のプレ・イベントともいえた、1987年の沖縄海邦国体の問題。その時の読谷村のソフトボール大会会場での、知花昌一らの強制された「日の丸」を焼き捨てた〈抗議〉行動への弾圧への救援活動の体験を通して、「国旗・国歌」化されてしまい、あたりまえのとされつつある「日の丸・君が代」の今を問いなおす。
〈「代替り」状況の中で考える「教育勅語」・「日の丸・君が代」と象徴天皇制〉。この集まりへの参加を呼びかける。
白川真澄
■自公の勝利、野党の善戦
7月21日の参院選は、有権者の半数以上が棄権する惨状に終わった(投票率48.80%で、前回16年から6%近く低下)。この政治的シラケのなかで、自民党は57(改選議席から10減)、公明党は14(3増)、合わせて71議席と、改選過半数を8上回る議席を得た。自公に維新10(3増、希望1を含めると2増)を加えた改憲勢力は81で、非改選を合わせて160議席と、改憲発議に必要な3分の2(164)を割った。
野党は、立憲17(8増)、国民6(2減)、共産7(1減)、社民1(増減ゼロ)、野党系無所属9(6増)、れいわ新選組2(2増)であった。立憲は倍増だったが、国民と合わせた23議席は、前回の民進党32からは9減。ただし、野党系無所属が前回より5増なので、4減であった。野党は合計で42議席を獲得したが(12増)、前回よりは2減。逆に自公維は81(5減)で、前回より4増となった。
比例区の得票は、自民1771万票(前回より240万減)、公明654万票(103万減)、維新491万票(24万減)と減らしたが、得票率は自公がほぼ変わらず、維新が0.6%アップだった。野党は、立憲792万票、国民348万票で、合わせると前回の民進より35万の減少にとどまったが(得票率は合わせて22.8%と、1.8%アップ)、立憲は17年総選挙の比例1108万票からは316万票も減らした。共産448万票(154万減)、社民105万票(48万減)と、得票も得票率も減らしている。対照的に、れいわは、投票者総数が642万も減るなかで、228万票、得票率4.6%を獲得した。
第1に、自民党は高い内閣支持率に支えられて、議席と得票数の減少を最小限にとどめ、大都市で低投票率もあって強さを保った公明党と組んで、政権の安定的維持に成功した。
第2に、改憲3分の2をめぐる攻防では、改憲勢力の狙いを阻むことができた。ただし、その差はわずか4議席で、補選や寝返りによって失われる可能性がある。3分の2に近接したのには、維新が大阪・兵庫に次いで東京と神奈川で進出したことが大きい。大都市を中心に新自由主義(「身を切る改革」)に共鳴する強固な層の存在を見せつけた。
第3に、改憲勢力による3分の2獲得を食い止めた意義は大きい。安倍は国民の切り崩しを公言し、改憲への野望をぎらつかせているが、改憲発議へのハードルはとりあえず高くなった。野党は、野党統一候補を擁立した1人区では10勝22敗(前回は11勝21敗、13年は2勝29敗)と、自民党の集中攻撃をはね返して善戦した。勝利したほとんどの1人区が僅差の勝利だった激戦ぶりが物語るように、野党共闘の力は引き続き発揮された。
第4に、女性は28名が当選し、参院では56名と過去最多となった。
■なぜ、安倍政権を追いこめなかったのか
にもかかわらず、私たちは、安倍政権に国政選挙での6連勝を許してしまった。欧米諸国の政治的変動と対称的に、例外的に異常な政治的安定が続く結果に終わった。40%前後の内閣支持率が40%前後で落ちないように、多数派の人びとの政治への期待は、「変化」(34%)よりも「安定」(60%)が上回っている(朝日7月3日)。つまり、現状がこれ以上悪くならないことを望んでいる。
しかし、参院選の前には、安倍政権を脅かしかねない材料があった。1つは、消費税の10%への引き上げである。これへの反対(52%)は、賛成(42%)を上回っていた(朝日7月15日)。消費増税を公約した政権は、過去いずれも敗北し退陣に追い込まれた。もう1つは、年金だけでは生活できず「老後2000万円が必要」という問題の浮上である。これについても、「老後の不安に対する安倍政権の取り組み」を評価しない人がずっと多かった(62%、評価するは22%、同)。
野党は、立憲主義といったテーマではなく、生活の場から政権を批判する論戦を仕掛け、消費増税の中止、安心できる年金制度(マクロ経済スライドの廃止や最低保障年金など)を訴えた。この争点設定は間違いではなかったが、野党の主張は、不安を抱える多くの人びとの気持ちを動かすことができなかった。
社会保障の財源として消費増税はやむなしと考える人が少なくない、逆に年金制度を信頼できず「自助」に頼るしかないと思う人が多い(62%、日経7月1日)といったことも、その要因である。しかし、野党の最大の弱点は、当面の短期的な政策をめぐる議論、例えば消費増税は消費を冷やし景気を悪くするといったレベルに終始したことにある。人口減少と低成長が避けられない時代にふさわしい長期的な社会ビジョンを大胆に打ちだせない。いいかえると、経済成長にすべてを託し「我が亡き後に洪水は来たれ」というアベノミクスの根本的な弱点に切りこめていないのだ。
■左派ポピュリズムの登場
旋風を巻き起こしたのは、れいわであった。消費税は廃止、奨学金はチャラといった主張のシンプルさ、生産性優先と自己責任の社会の拒否の訴えの迫力もあったが、何よりもその政治スタイルが斬新で既成政党のそれを見事に打ち破った。ALS患者や重度障害者の候補を特定枠に推す、山本太郎が広場で聴衆に対話を呼びかける、SNSを駆使する、4億円の寄付を集める。れいわは、これまで政治に縁遠かった人びと、とくに野党に失望していた人びとの心を掴んだ。20?40代の無党派の1割以上の支持を集め、初挑戦で得票率4.6%、得票228万票と大躍進した。
もちろん、消費税を廃止すれば個人消費が喚起され景気が回復して税収も増える、その間は国債発行に頼るという政策主張は、ズブズブの経済成長主義であり、目先のことしか想定していない。
れいわは、こうした政策の粗悪さも含めて、日本における左派ポピュリズムの登場を告げた。それは、政治を動かせるという希望を少なくない人びとに与えた。この流れが次の総選挙でどこまで大きくなるかの予測は難しい。しかし、野党も私たちも、この左派ポピュリズムにどう向き合うかが、問われる。
白川真澄(PP研)[2019年7月23日記、「反改憲通信」2019年7月31日、一部修正]
前書き
白川真澄(本誌編集長)
2019年の参院選は、改憲勢力による3分の2獲得を阻むことができたとはいえ、安倍一強政治の継続を許す結果になった。与党は、自民党が改選議席から10減らしたが、議席増の公明党と合わせて改選過半数を上回る71を獲得し、参院での安定多数を制した。首都圏に初進出した維新を加えた改憲勢力は81議席で、非改選を合わせて3分の2(164)に4議席届かなかったが、安倍の改憲へのぎらつく野望を挫くまでには至らなかった。
野党は、統一候補を擁立した1人区で善戦し(10勝22敗)改選議席を上回ったが、全体で42議席獲得と前回(16年)並みにとどまった。議席倍増の立憲民主党が比例区では17年総選挙での得票数から316万票減らしたことに見られるように、野党は無党派層の支持を呼び戻し、安倍政権を追い詰めるだけの勢いを発揮できなかった。
この選挙では、有権者の半数以上が棄権に回った。政治に何も期待できないという空気が覆うなかで、旋風を起こしたのはれいわ新選組であった。消費税廃止・奨学金チャラといったシンプルな政策主張、生産性優先と自己責任の社会の拒否の訴え、そして何よりも既成政党には真似のできない斬新な政治スタイルは、政治に距離を置いていた人びと、野党に不満を感じていた人びとの気持ちを掴んだ。得票率4.6%で228万票は、大躍進であった。消費税廃止・国債増発といった主張の危うさも含めて、左派ポピュリズムの登場と言ってよい。
◇ ◇
なぜ、安倍一強政治の継続を許すことになったのだろうか。
安倍政権は、「ほかより良さそう」という理由で高い内閣支持率を保ってきたが、選挙を前にして不安材料を抱えていた。反対の声の方が多い10月の消費増税を公約に掲げたことは、過去の経験からすれば賭けであった。また、年金だけでは暮らせず「老後2000万円が必要」という不安は高まり、政府の取り組みへの不信も強かった。野党は、「消費増税の中止」や「安心できる年金」を訴えて、政権への批判や怒りに点火しようとした。だが、多数の人びとは、現状に不満や不安を感じつつ現状がいっそう悪くなる方を恐れて、政治の「変化」よりも「安定」、つまり現状維持を選んだのである。
景気回復を実感できない人が8割にも上るのに、アベノミクスへの評価は拮抗している(評価する38%、評価しない43%、朝日6月24日)。2%インフレ目標の達成が失敗し低インフレが続いているために、皮肉にも物価上昇への不満が表出することが抑えられている。この5年間で175兆円も政府債務を増やしながら、超低金利のおかげで財政危機(社会保障をばっさり削るような)が顕在化しない。低成長の下での奇妙な安定、つまり小さなきっかけで均衡が崩れかねない安定が長く続いている。
こうした状況では、当面の短期的な景気対策をめぐってアベノミクスに対抗しようとしても勝ち目がない。例えば、消費増税の中止や消費税の廃止によって消費を活発にして景気を回復し、税収も増やすといった野党やれいわの議論がそうである。アベノミクスは、政権維持のための短期的な景気回復策だけを次々に打ち出す。だから、その根本的な弱点は、人口減少と低成長が避けられない時代を見据えた長期的な社会・経済政策を持たず、人びとの将来の生活への不安に応えられないことにある。
私たちにはあらためて、腰を据えて長期の視野で安倍一強政治とのたたかいを再構築することが求められる。改憲を阻む運動では非武装の原理とそのリアリティを、アベノミクスとの対抗では経済成長主義を脱した「公正と支え合い」の社会・経済のビジョンを対置する必要があるだろう。私たちの対抗原理やオルタナティブは何であるべきか。議論の喚起のために、前々号の特集「非暴力・非武装のリアリティ」に続いて、本誌では松尾 匡×白川真澄「激突対論:アベノミクスとどう対抗するか」、高端正幸「税は何のためにあるか」を載せている。「反緊縮」を主張し借金の増大を恐れるなという「リフレ左派」の立場と「公正な増税」で社会保障の拡充を主張する立場との論争を、ぜひ読んでほしい。
◇ ◇ ◇
今号の特集は、「このメチャクチャがなぜまかり通る?」である。安倍一強政治とアベノミクス、その背景にあるグローバル化の下で、日本の社会と生活を壊すメチャクチャな出来事が横行している。これまで曲がりなりにも政府や大企業の横暴な振る舞いを抑制し民主主義や公共性を保障してきたルールが、さまざまな分野で実に乱暴に蹂躙されつつある。
その代表例は安倍一強政治にほかならないが、なかでも沖縄の人びとに差し向けられた暴力と差別はすさまじい。県民投票で示された辺野古基地建設反対の確固たる意志を、「真摯に受け止める」と言いながら、平然と埋め立て工事を強行する政権の姿は恐ろしい。浦島悦子論文は、この政権の本質を沖縄現地からリアルに暴き出している。そして、杉田 敦論文は安倍一強政治の特徴と秘密を、冷戦終焉後の日本政治の構造的変化のなかで歴史的に解明している。
同時に、社会生活の分野でも地域の公共的な資源を資本の手に奪い、利潤追求の道具に変える攻撃が相次いでいる。昨年だけでも、命に直結する水の事業を民営化する水道法改悪、種子を農民の手から取り上げる種子法廃止、コモンズの規制で保全されてきた漁業資源を企業に渡す漁業法改悪が強行された。アベノミクスの「成長戦略」は、実質2%・名目3%の経済成長にも生産性の向上にも失敗しているが、規制緩和によって公共の資源やサービスを企業の利益追求活動に供する事態だけは進行している。
しかし、浜松の市民による水道民営化反対の運動、新潟などの農家による種子法廃止に抵抗する取り組みといった新しい動きも生まれている。特集では、さまざま分野で起こっているメチャクチャな状況を具体的に取り出すと同時に、こうした状況に抵抗する運動の可能性に光を当てた。
(19年7月25日記)
みなさま。猛烈な暑さが到来しましたが、8月25日の脱成長ミーティングの案内をさせていただきます。次回は「脱原発と地域づくり」というテーマで、原子力市民委員会で活躍され全国を歩いておられる大沼淳一さんに報告をしていただきます。時間をとって、ぜひご参加ください。白川真澄
3・11から8年が経ちましたが、安倍政権はあたかも原発事故などなかったかのように再稼働を進め、脱原発の流れに背を向けています。2020年東京五輪を「復興五輪」として演出し、福島の人びとの苦しみを忘却させようとしています。しかし、再稼働を許さない運動、東京電力の責任を問う訴訟、避難者の権利を守る取り組み、低線量被曝による健康リスクを明らかにする活動などが全国各地で粘り強く続いています。そして、再生可能エネルギーによるエネルギー自給を地域づくりの柱とする試みも広がっています。
そこで、今回は全国を歩き回って脱原発の運動に深く関わってこられた大沼淳一さんに、原発再稼働など政府の政策、全国各地の脱原発の運動や活動、再生可能エネルギーによる地域づくりの取組みなど豊富な話題提供をお願いしています。ぜひ時間をとって参加し、活発な討論をしていただくようお願いします。白川真澄
日時:8月25日(日) 14:00(13:30開場)?17:00
会場:ピープルズ・プラン研究所
テーマ:脱原発と地域づくり
報告:大沼淳一(原子力市民委員会)
参加費:500円
〈「平成」代替りを問う〉連続講座 第2期 第3回
《安倍政権による、マスコミを意識的に利用した〈天皇教〉の布教活動を許すな!》 ――『ピープルズ・プラン』84号合評会
2019年8月11日(日)14時30分?(開場14時)
■問題提起:天野恵一 (司会・PP研編集委員)井上森(立川自衛隊基地監視テント村)
松井隆志(PP研編集委員)白川真澄(PP研編集長)
米沢薫 (PP研事務局)
■場所:PP研会議室
http://www.peoples-plan.org/jp/modules/tinyd1/index.php?id=5
■参加費:800円
■主催・連絡先:PP研
【連絡先】
一般社団法人ピープルズ・プラン研究所
東京都文京区関口1-44-3 信生堂ビル2F
電話: 03-6424-5748
Fax : 03-6426-5749
E-mail: ppsg@jca.apc.org
1995年3月に、かつての「平成天皇」への代替りの一連の儀式について、三権分立(民主主義原則)の理念を大きく裏切り、政府の意向にそった判決は出し続けてきた裁判所ですら、以下のごとき判決を出している。大阪地裁である。
「天皇が神になる儀式であると理解されていた」「宗教的象徴行為」である大嘗祭を中心とする「宗教的観念、神話的イデオロギーを流布する」一連の即位の諸儀式は、「マスコミを意識的に利用した布教活動」であり、違憲の「疑いを一概に否定できない」。「政府の唱える天皇教ともいうべき観念で」人々に同調を強いるのは許されない。
それにもかかわらず安倍政権は、前回同様の〈天皇教の布教活動〉の〈宗教的象徴行為〉を、またくりかえしだしている。この状況へ抗議の大きな声を出すべく『ピープルズ・プラン』(84号)は「〈天皇教〉国家が露出してきた――象徴〈人間〉天皇が、なぜ〈神〉にならなければならないのか?」を特集した。責任編集者(天野)の「特集にあたって」は以下の通り。