『季刊ピープルズ・プラン』83号(2019年2月25日発行)
特集 非暴力・非武装のリアリティ
特集にあたって 白川真澄(本誌編集長)
二〇一九年、最重要の政治テーマは何といっても、安倍首相による改憲の企みをめぐる攻防である。自民党総裁選で三選を果たした安倍は、昨秋の国会で自民党改憲案の憲法審査会への提出を目論んだが、この目論見は阻まれた、だが、安倍は、二月の自民党大会で「憲法に自衛隊を明記し違憲論争に終止符を打つ」とぶち上げた。欧米諸国の政権が軒並み不安定化するのと対照的に例外的な安定を誇る六年の長期政権として、やりたい放題の悪政を行なってきたが、「歴史的使命」と自認する改憲だけは未達成である。それだけに改憲への執念は、すさまじい。とはいえ、安倍による改憲への企ては大きな抵抗と壁に阻まれて、そう易々と進まないだろう。春の統一地方選挙と天皇代替わりによる政治休戦は、統計不正問題の浮上もあって、通常国会の日程を窮屈にし、改憲案の提出と国会発議の余地をいちじるしく狭めている。そして、七月の参院選は改憲勢力が三分の二を確保するか否かが焦点になる。自民・公明・維新・希望の改憲勢力は現在一六五議席と三分の二(一六二)をわずかに上回るが、参院選で二議席失うだけで三分の二(議席増で一六四)を割ってしまう。安倍改憲阻止の市民運動がイニシアティブを発揮し野党が一人区を中心に共闘すれば、改憲勢力を三分の二割れに追い込める可能性はかなり高い。そうなれば安倍の野望は挫折し、政権自体が揺らぐことにもなろう。
こうして、改憲をめぐる論争が政治舞台に大きく浮上することは必定である。しかし、改憲をめぐる最近の議論は、安倍による九条への自衛隊明記案はむろんのこと、これに反対する見解も自衛隊と自衛権の存在を当然の前提にした論調が主流となりつつある。「立憲的改憲」論、「新九条」論、「改憲的護憲」論などが賑わい、「軍事力による平和」の確保が常識と化しつつある。九条の非武装国家像はリアリティのない理念として片付けられてしまう状況がある。
これに対して、私たちは、殺人の権利を握った国家の軍隊とは何なのかという点にまで遡って考え、非暴力抵抗と非武装国家のリアリティを大胆に提示する必要がある。現に沖縄の人びとは、自己決定権と誇りを蹂躙する安倍政権に対して辺野古基地建設ノーの強固な意思を突き付けているが、その根底にはかつての島ぐるみ闘争以来の非暴力不服従の運動の長い歴史を見ることができる。沖縄のみならず、多様な非暴力による抵抗の歴史的経験を学び、非武装国家を実現し支える基礎へとつなげていくことができる。
九条のいう非武装国家のリアリティは、一方では南北朝鮮首脳会談と米朝首脳会談を転機とする東アジア情勢の歴史的転換によって甦る条件を得つつある。他方では、中国の軍事力拡大と大国主義的振る舞いを口実にして、日米軍事一体化での自衛隊の攻撃的兵器への飛躍的強化(「いずも」の空母化など)が、九条改憲の実質を先取りするものとして進行している。この現実に立ち向かい、鋭く切り込む運動もますます重要になっている。
この特集では、改憲をめぐる論争の地平を新しい次元に押し上げることを試みた。特集の論稿やインタビューのみならず、武藤一羊の連載「『米日同盟』の軍事的核との対決なしに安倍改憲とたたかえるか」も改憲論争をこれまでの枠組みから解き放つことを提言した問題提起である。また、「『政治的暴力』をめぐって」(特別合評会の記録)も、非暴力抵抗の立場につながってくる経験を論じたものである。
本号が安倍改憲とたたかう運動のなかで討論を活性化することに役立てば幸いである。
特集 非暴力・非武装のリアリティ
特集にあたって 白川真澄(本誌編集長)
二〇一九年、最重要の政治テーマは何といっても、安倍首相による改憲の企みをめぐる攻防である。自民党総裁選で三選を果たした安倍は、昨秋の国会で自民党改憲案の憲法審査会への提出を目論んだが、この目論見は阻まれた、だが、安倍は、二月の自民党大会で「憲法に自衛隊を明記し違憲論争に終止符を打つ」とぶち上げた。欧米諸国の政権が軒並み不安定化するのと対照的に例外的な安定を誇る六年の長期政権として、やりたい放題の悪政を行なってきたが、「歴史的使命」と自認する改憲だけは未達成である。それだけに改憲への執念は、すさまじい。とはいえ、安倍による改憲への企ては大きな抵抗と壁に阻まれて、そう易々と進まないだろう。春の統一地方選挙と天皇代替わりによる政治休戦は、統計不正問題の浮上もあって、通常国会の日程を窮屈にし、改憲案の提出と国会発議の余地をいちじるしく狭めている。そして、七月の参院選は改憲勢力が三分の二を確保するか否かが焦点になる。自民・公明・維新・希望の改憲勢力は現在一六五議席と三分の二(一六二)をわずかに上回るが、参院選で二議席失うだけで三分の二(議席増で一六四)を割ってしまう。安倍改憲阻止の市民運動がイニシアティブを発揮し野党が一人区を中心に共闘すれば、改憲勢力を三分の二割れに追い込める可能性はかなり高い。そうなれば安倍の野望は挫折し、政権自体が揺らぐことにもなろう。
こうして、改憲をめぐる論争が政治舞台に大きく浮上することは必定である。しかし、改憲をめぐる最近の議論は、安倍による九条への自衛隊明記案はむろんのこと、これに反対する見解も自衛隊と自衛権の存在を当然の前提にした論調が主流となりつつある。「立憲的改憲」論、「新九条」論、「改憲的護憲」論などが賑わい、「軍事力による平和」の確保が常識と化しつつある。九条の非武装国家像はリアリティのない理念として片付けられてしまう状況がある。
これに対して、私たちは、殺人の権利を握った国家の軍隊とは何なのかという点にまで遡って考え、非暴力抵抗と非武装国家のリアリティを大胆に提示する必要がある。現に沖縄の人びとは、自己決定権と誇りを蹂躙する安倍政権に対して辺野古基地建設ノーの強固な意思を突き付けているが、その根底にはかつての島ぐるみ闘争以来の非暴力不服従の運動の長い歴史を見ることができる。沖縄のみならず、多様な非暴力による抵抗の歴史的経験を学び、非武装国家を実現し支える基礎へとつなげていくことができる。
九条のいう非武装国家のリアリティは、一方では南北朝鮮首脳会談と米朝首脳会談を転機とする東アジア情勢の歴史的転換によって甦る条件を得つつある。他方では、中国の軍事力拡大と大国主義的振る舞いを口実にして、日米軍事一体化での自衛隊の攻撃的兵器への飛躍的強化(「いずも」の空母化など)が、九条改憲の実質を先取りするものとして進行している。この現実に立ち向かい、鋭く切り込む運動もますます重要になっている。
この特集では、改憲をめぐる論争の地平を新しい次元に押し上げることを試みた。特集の論稿やインタビューのみならず、武藤一羊の連載「『米日同盟』の軍事的核との対決なしに安倍改憲とたたかえるか」も改憲論争をこれまでの枠組みから解き放つことを提言した問題提起である。また、「『政治的暴力』をめぐって」(特別合評会の記録)も、非暴力抵抗の立場につながってくる経験を論じたものである。
本号が安倍改憲とたたかう運動のなかで討論を活性化することに役立てば幸いである。