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尖閣問題に沖縄の視点を
  国境を超え民衆交流を
  相互理解を築く努力重要

 
新崎盛暉
沖縄大学名誉教授
2010年10月4日『琉球新報』掲載

 尖閣諸島を自国の「固有の領土」だとする日中両国の応酬は、今に始まったことではない。そして、日米同盟至上主義的立場に立つ閣僚、議員、官僚あるいはそれに連なる論者たちが、露骨に、あるいは示唆的に強調してきたのが、中国の尖閣侵攻に対する抑止力としての在沖米軍である。もとよりこのような強引な基地押し付けの論理は、沖縄に対してはほとんど説得力を持たなかった。

 だが、今回の事件をめぐる中国側の高圧的ともいえる対応は、沖縄にもある種の衝撃を与えた。それが幾つかの地方議会の決議などになって現れている。しかし、沖縄が独自な自己主張をする場合には、観念的な「固有の領土」論に巻き込まれないよう注意する必要がある。尖閣諸島が沖縄の一部だというのは、それが、沖縄の民衆、とりわけ先島の漁民にとって、「イーグンクバジマ」という地域独自の呼び名を持ち、鰹節工場の存在や攻撃された疎開船の避難場所にもなったというように、歴史的な生活圏の一部だからである。尖閣諸島を生活圏とする沖縄が日本に所属しているから、そこが日本の「固有の領土」になるのである。

 そもそも領土とか、国境とかいう概念が厳密な意味を持ってくるのは、近代国家の成立に伴うものである。それは、日本の幕藩体制の中の「異国」と位置づけられながら、中国(清)とも冊封関係にあった沖縄(琉球)のたかだか百数十年前のありようからも明らかである。しかも近代国家形成期の明治政府は、「固有の領土」と人民の一部を、経済的利益と引き換えに、中国(清)に譲り渡そうとさえしたのである(分島改約問題)。そして太平洋戦争において、国土防衛の最前線に位置づけられたのが沖縄であった。沖縄独自の自己主張は、こうした歴史的体験を踏まえたものでなければならない。

◎無責任な幕引き

 もう一つこの事件が明らかにしたのは、日米同盟の「頼りなさ」(9・21本紙社説)である。

 岡田民主党幹事長(前外相)や前原外相がリードする菅政権は、この漁船衝突事件を奇貨として、尖閣侵攻の危機感を煽ろうとした節がある。なぜなら、小泉政権のときでさえ、尖閣に上陸した中国人ナショナリストを逮捕後直ちに強制送還するという政治的決着を図っていたからである。ところが中国側の想像を超える強硬な態度に直面して、結局は、政治判断を検察に委ねるという無責任でみっともない幕引きを試みざるを得なくなった。

 この間、頼りの同盟国アメリカはどのような態度をとっていたか。

 9月23日に、ニューヨークでクリントン米国務長官との初めての日米外相会談に臨んだ前原外相は、会談後、クリントン長官が「日米安保条約第5条が尖閣諸島にも適用されると述べた」ことを強調している。そして日本のメディアは、このことを大きく報道した。だが、春名幹男名古屋大教授も指摘している(9・28QAB報道ステーション)ように、クローリー米国務次官補(広報担当)のこの会談に関する記者会見のテキストには、何処にもこのような発言は見当たらない。クリントン長官が繰り返しているのは、日中両国の対話による問題解決への希望である。

 尖閣が安保の対象になるか否かという日本政府のアメリカに対する確認は、これまでも繰り返されてきたことだが、こんな確認をすること自体がおかしい。沖縄返還後も、尖閣諸島には、日米地位協定による米軍への提供施設(射爆場)がある。70年代末からは使用されていないようだが、それでも返還はされていないから、石垣市は、今なお基地所在市町村の一つである。日米地位協定による提供施設の所在地が、安保の適用対象地域ではない、などということあるだろうか。

◎対等に向き合う

 さて、日米外相会談がおこなわれた同じ時期、国連総会に出席するため訪米していた温家宝首相とオバマ大統領の首脳会談が行われたが、そこでの話題は、もっぱら中国元の切り上げなど経済問題に終始した。にもかかわらず菅首相は、オバマ大統領に対して、5・28日米合意に基づく問題解決を強調している。

 ここに、現在の米中日の関係が如実に反映されている。だが、日中の経済的相互依存関係は、米中関係に劣らず重要である。観光客誘致に熱を上げている相手を、別の軍事大国を後ろ盾にした抑止力の対象にするという政策が通用する時代ではなくなっているのである。日本は、戦後65年も続いていた対米従属的日米関係を脱して、アメリカとも、中国とも対等に向かい合うしかない。そしてわたしたちは、国家の論理にとらわれることなく、国境を超える民衆相互の文化的経済的交流と相互理解を深める努力をしていかなければならないのである。

 [琉球新報社提供]
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