<民主党マニフェストを採点する>
【5】雇用・社会保障編
白川真澄
『季刊ピープルズ・プラン』編集長
2009年8月16日
◆雇用・労働と社会保障の問題が最大の争点
雇用・労働と社会保障をめぐる政策が、総選挙の最大の政策的争点になるだろうと予想される。昨秋以来の経済危機は、小泉「改革」が招いた雇用・労働の劣化と貧困の急増に拍車をかけ、穴だらけの社会保障制度の姿を浮き彫りにしているからである。民主党は、「国民の生活が第一」をマニフェストの中心に置いている。それだけに、雇用・労働と社会保障の分野では、それなりに真っ当で具体的な政策を提案している。真っ当なというのは、「派遣村」に象徴される反貧困の社会運動が主張してきた要求や政策を採り入れ、反映しているということである。
自民党のマニフェストも「行き過ぎた市場原理主義から決別する」と謳い、「安心」「活力」「責任」の3本柱のうち「安心」(「安心な国民生活の構築」、「少子高齢化社会への対応」、「雇用対策」)を冒頭に置いているが、まったく見劣りする。格差や貧困の解決はつまるところ経済成長に委ねる(年率2%の経済成長の実現、200万人の雇用確保、10年で家庭の手取り100万円増)という使い古しの戦略が、本音である。
しかし、民主党には、現在の日本社会に代わるどのようなオルタナティブ社会を構想するのかという社会ビジョンが見当たらない。政権を取るために評判の良い政策をとりあえず羅列しただけというのが、本当のところであろう。その根本的な限界が政策の欠陥として表われている。
◆雇用・労働政策
景気は底を打ったという楽観論が流布されるなかで、「派遣切り」に見られる雇用の危機はますます深刻になっている。失業率5.4%(前年同月比1.4%上昇)、完全失業者数348万人(前年同月比83万人増)、有効求人倍率0.43倍(前年同月比0.45倍の悪化)、「雇い止め」などで仕事を失った非正規労働者23万人(08年10月〜9月)。したがって、雇用政策の最大のテーマは、3人に1人にまで急増した非正規雇用労働者の不安定就労と低賃金の現実、すなわちワーキングプアの問題をどう解決するかである。そして、その緊急の焦点が、今国会で流れてしまった労働者派遣法の改正問題である。
派遣法改正について、民主党のマニフェストは、「製造現場への派遣を原則禁止するなど、派遣労働者の雇用の安定を図る」(マニフェスト39、以下ではM39と略記)としている。内容は、原則として製造現場への派遣を禁止する。専門業務以外の派遣労働者は常用雇用とする。2ヶ月以内の雇用契約については、労働者派遣を禁止する。派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇原則を確立する。「直接雇用見なし制度」を創設する。
民主党政策集「INDEX2009」(p31、以下Ip31と略記)では、「労働者派遣法の抜本見直し」とされている。製造業派遣の禁止については「新たな専門職制度を設ける」という例外規定が入っていて、これが抜け穴にされる可能性も否定できない。しかし、基本的には登録型派遣の禁止と26専門業務への派遣労働の限定(99年法改正以前に戻す)という点で、「労働者派遣法の抜本改正」という政策になっている。
派遣法改正議論が始まった当初、政府・自民党が「日雇い派遣の禁止」だけを打ち出したのに対して、民主党はおずおずと「2ヶ月以内の派遣禁止」の対案を出した。そこから見ると、マニフェストの派遣法改正案は、格段に前進していると言える。それは、派遣労働者が当事者として加入したユニオンが連合をも巻き込みながら「派遣法の抜本改正」の運動の高まりを創りだし、さらに「派遣村」の運動が社会的な共感を呼んだという大きな流れが後押ししたからである。
労働者派遣法の抜本改正と並んで、次のような政策が提案されている。◆「月額10万円の手当付き職業訓練制度」、いわゆる「第2のセーフティネットを創設する」(M37)。◆「雇用保険をすべての労働者に適用する」(M38)。◆「最低賃金を引き上げ」、「『全国最低賃金』(800円)を設定」し「最低賃金の全国平均1000円をめざす」(M40)。◆「性別、正規・非正規にかかわらず、同じ職場で同じ仕事をしている人は、同じ賃金を得られる均等待遇を実現する」(M41)。
これらも、ユニオンを先頭にした労働運動が要求してきた政策である。自民党の雇用対策が「雇用調整助成金の引き上げ」や「3年間で100万人の職業訓練」の実施などにとどまっていることに比べれば、はるかに真っ当である。
◆社会保障政策
民主党マニフェストは、雇用・労働政策と関連して、社会保障制度の確立に向けての一連の政策を提案している。注目されるのは、「最低賃金の引き上げ」(M40)の項目のなかで、「貧困の実態調査を行い、対策を講じる」と明記していることである。これは、日本政府が1965年以来貧困の実態調査とそれにもとづく貧困ラインの設定を拒み続けてきた政策を転換するものである。この政策が本当に実行されるならば、政府は、貧困ライン以下の収入しかない人びとがなくなるように対策をとることを義務づけられる。「反貧困ネットワーク」は、総選挙を目前にした「私たちの要求」のトップで「貧困率調査を行い、貧困削減の具体的な数値目標を掲げること」を要求している。
社会保障制度の確立に向けて、次のような政策が列挙されている。◆子どもの貧困の解消に向けて「月2万6千円の『子ども手当』を創設する」(M11)。◆「公立高校を実質無償化し、私立高校生の学費負担を軽減する」(M12)。◆「生活保護の母子加算を復活し、父子家庭にも児童扶養手当を支給する」、「5年以上の受給者を対象に行なっている児童扶養手当の減額制度を廃止する」(M13)。◆年金制度については、制度を一元化し、税で賄う「最低保障年金」(7万円)プラス「所得比例年金」を創設する(M18)。◆後期高齢者医療制度を廃止する(M21)。◆「質の高い医療サービスの安定的供給」との関連で、2006年「骨太の方針」で決まった財政再建のための「社会保障費2200億円の削減方針を撤回する」(M22)。◆必要な介護サービスの提供のために「介護労働者の賃金を月4万円引き上げる」(M25)。◆障害者の自己負担増を招いた「障害者自立支援法の廃止」する(M26)。
このなかで、とくに意味のある政策は、「子ども手当」の創設に際して、「配偶者控除」「扶養控除」を廃止して個人への手当に切り替える(Ip19)という政策である。これは、低所得者に有利な政策だと位置づけられているが、社会保障制度のあり方を専業主婦優遇と世帯主義から個人単位の制度への転換という点で評価できる。もう一つは、新しい公的年金制度の導入(2014度から)の構想である。「最低保障年金」(税方式)プラス「所得比例年金」という制度(スウェーデン方式)は、すべての市民に生活できるだけの年金を保障する最低保障の機能と同時に、保険料負担と給付の関係を明確にできる点で優れている、と考えられる。ただし、最低保障額7万円は、現行の国民年金だけの受給者の平均額が4.7万円にすぎない現状からすれば改善だとはいえ、生活保護支給水準を下回る。
◆新しい社会ビジョンの不在
民主党マニフェストの雇用・社会保障政策には評価できる真っ当な内容が多いが、大きな欠陥も目立つ。
雇用・労働の分野では、最も底辺に置かれている外国人労働者の問題が無視されている。すなわち、彼ら/彼女らを積極的に迎え入れ、平等で人間らしく処遇する(たとえば研修生制度の改革)という政策は、INDEXにも見当たらない。また、ジェンダー視点から雇用・労働の場で男女平等を実現するための政策も、ひじょうに貧弱である。介護や保育の公共サービスを拡充する必要性からも、地方自治体による雇用創出が「官製ワーキングプア」の解消(非常勤公務員の均等待遇と雇用の安定化)とセットで提唱されてしかるべきであるが、そうした提案が抜け落ちている。
そして、残業時間の上限設定を含む労働時間の抜本的な短縮が、正面から提案されていない。「ワークライフバランスの実現をめざす」(M41)とだけ述べられているにすぎない。「無期雇用、直接雇用を雇用の基本原則と位置づけ、長期安定雇用を雇用・労働政策の基本と」とする(Ip30)と述べているが、それは、小沢一郎の唱える従来型の終身雇用への回帰なのか。それとも、最低限の生活保障の上に多様な働き方を選択する社会をめざすのか。まったく不明確である。
こうした重大な欠陥は、マニフェストの前提になるべき新しい社会像が民主党にはないことから来ている。たとえば、その社会像とは「人間らしい働き方をしながら、少なく働く社会へ」といったビジョンである。それは、脱成長社会につながるものである。
社会保障の分野でも、「派遣切り」が浮かび上がらせたハウジング・プアの解消のために「住む権利」を保障する政策も、貧弱である。「生活・住宅困窮者にとって、公営住宅などは重要なセーフティネットです」(Ip40)と指摘されながら、「多様な賃貸住宅を整備するため家賃補助や所得控除などの支援制度を創設する」(M44)と言われているだけである。また、「給付付き税額控除制度の導入」(Ip19)が提唱されていることは評価できるとしても、それがベーシック・インカム(働いているかいないか、働く意欲があるかないかにかかわりなく、すべての個人に無条件に行われる基本所得保障)の本格的な導入をめざしているかどうかは疑わしい。なぜなら、ベーシック・インカムを本気で導入しようとすれば、「就労による自立」という発想(多くの人たちを苦しめてきた)から決別した社会像に支えられることが必要であるからだ。
もう一つの大きな問題点は、雇用・社会保障の分野の政策を実現する財源確保のためには思い切った税制改革を行ない、財源を確保する必要がある。にもかかわらず、民主党マニフェストは、「公平で簡素な税制をつくる」(M9)の項目を掲げているが、本格的な税制改革を避けているのである。
※このシリーズ<民主党マニフェストを採点する>は衆議院選挙後の分析論文も加えてパンフレット『民主党政権を採点する』として発行しました。詳しくはこちらをご覧ください。
【5】雇用・社会保障編
白川真澄
『季刊ピープルズ・プラン』編集長
2009年8月16日
◆雇用・労働と社会保障の問題が最大の争点
雇用・労働と社会保障をめぐる政策が、総選挙の最大の政策的争点になるだろうと予想される。昨秋以来の経済危機は、小泉「改革」が招いた雇用・労働の劣化と貧困の急増に拍車をかけ、穴だらけの社会保障制度の姿を浮き彫りにしているからである。民主党は、「国民の生活が第一」をマニフェストの中心に置いている。それだけに、雇用・労働と社会保障の分野では、それなりに真っ当で具体的な政策を提案している。真っ当なというのは、「派遣村」に象徴される反貧困の社会運動が主張してきた要求や政策を採り入れ、反映しているということである。
自民党のマニフェストも「行き過ぎた市場原理主義から決別する」と謳い、「安心」「活力」「責任」の3本柱のうち「安心」(「安心な国民生活の構築」、「少子高齢化社会への対応」、「雇用対策」)を冒頭に置いているが、まったく見劣りする。格差や貧困の解決はつまるところ経済成長に委ねる(年率2%の経済成長の実現、200万人の雇用確保、10年で家庭の手取り100万円増)という使い古しの戦略が、本音である。
しかし、民主党には、現在の日本社会に代わるどのようなオルタナティブ社会を構想するのかという社会ビジョンが見当たらない。政権を取るために評判の良い政策をとりあえず羅列しただけというのが、本当のところであろう。その根本的な限界が政策の欠陥として表われている。
◆雇用・労働政策
景気は底を打ったという楽観論が流布されるなかで、「派遣切り」に見られる雇用の危機はますます深刻になっている。失業率5.4%(前年同月比1.4%上昇)、完全失業者数348万人(前年同月比83万人増)、有効求人倍率0.43倍(前年同月比0.45倍の悪化)、「雇い止め」などで仕事を失った非正規労働者23万人(08年10月〜9月)。したがって、雇用政策の最大のテーマは、3人に1人にまで急増した非正規雇用労働者の不安定就労と低賃金の現実、すなわちワーキングプアの問題をどう解決するかである。そして、その緊急の焦点が、今国会で流れてしまった労働者派遣法の改正問題である。
派遣法改正について、民主党のマニフェストは、「製造現場への派遣を原則禁止するなど、派遣労働者の雇用の安定を図る」(マニフェスト39、以下ではM39と略記)としている。内容は、原則として製造現場への派遣を禁止する。専門業務以外の派遣労働者は常用雇用とする。2ヶ月以内の雇用契約については、労働者派遣を禁止する。派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇原則を確立する。「直接雇用見なし制度」を創設する。
民主党政策集「INDEX2009」(p31、以下Ip31と略記)では、「労働者派遣法の抜本見直し」とされている。製造業派遣の禁止については「新たな専門職制度を設ける」という例外規定が入っていて、これが抜け穴にされる可能性も否定できない。しかし、基本的には登録型派遣の禁止と26専門業務への派遣労働の限定(99年法改正以前に戻す)という点で、「労働者派遣法の抜本改正」という政策になっている。
派遣法改正議論が始まった当初、政府・自民党が「日雇い派遣の禁止」だけを打ち出したのに対して、民主党はおずおずと「2ヶ月以内の派遣禁止」の対案を出した。そこから見ると、マニフェストの派遣法改正案は、格段に前進していると言える。それは、派遣労働者が当事者として加入したユニオンが連合をも巻き込みながら「派遣法の抜本改正」の運動の高まりを創りだし、さらに「派遣村」の運動が社会的な共感を呼んだという大きな流れが後押ししたからである。
労働者派遣法の抜本改正と並んで、次のような政策が提案されている。◆「月額10万円の手当付き職業訓練制度」、いわゆる「第2のセーフティネットを創設する」(M37)。◆「雇用保険をすべての労働者に適用する」(M38)。◆「最低賃金を引き上げ」、「『全国最低賃金』(800円)を設定」し「最低賃金の全国平均1000円をめざす」(M40)。◆「性別、正規・非正規にかかわらず、同じ職場で同じ仕事をしている人は、同じ賃金を得られる均等待遇を実現する」(M41)。
これらも、ユニオンを先頭にした労働運動が要求してきた政策である。自民党の雇用対策が「雇用調整助成金の引き上げ」や「3年間で100万人の職業訓練」の実施などにとどまっていることに比べれば、はるかに真っ当である。
◆社会保障政策
民主党マニフェストは、雇用・労働政策と関連して、社会保障制度の確立に向けての一連の政策を提案している。注目されるのは、「最低賃金の引き上げ」(M40)の項目のなかで、「貧困の実態調査を行い、対策を講じる」と明記していることである。これは、日本政府が1965年以来貧困の実態調査とそれにもとづく貧困ラインの設定を拒み続けてきた政策を転換するものである。この政策が本当に実行されるならば、政府は、貧困ライン以下の収入しかない人びとがなくなるように対策をとることを義務づけられる。「反貧困ネットワーク」は、総選挙を目前にした「私たちの要求」のトップで「貧困率調査を行い、貧困削減の具体的な数値目標を掲げること」を要求している。
社会保障制度の確立に向けて、次のような政策が列挙されている。◆子どもの貧困の解消に向けて「月2万6千円の『子ども手当』を創設する」(M11)。◆「公立高校を実質無償化し、私立高校生の学費負担を軽減する」(M12)。◆「生活保護の母子加算を復活し、父子家庭にも児童扶養手当を支給する」、「5年以上の受給者を対象に行なっている児童扶養手当の減額制度を廃止する」(M13)。◆年金制度については、制度を一元化し、税で賄う「最低保障年金」(7万円)プラス「所得比例年金」を創設する(M18)。◆後期高齢者医療制度を廃止する(M21)。◆「質の高い医療サービスの安定的供給」との関連で、2006年「骨太の方針」で決まった財政再建のための「社会保障費2200億円の削減方針を撤回する」(M22)。◆必要な介護サービスの提供のために「介護労働者の賃金を月4万円引き上げる」(M25)。◆障害者の自己負担増を招いた「障害者自立支援法の廃止」する(M26)。
このなかで、とくに意味のある政策は、「子ども手当」の創設に際して、「配偶者控除」「扶養控除」を廃止して個人への手当に切り替える(Ip19)という政策である。これは、低所得者に有利な政策だと位置づけられているが、社会保障制度のあり方を専業主婦優遇と世帯主義から個人単位の制度への転換という点で評価できる。もう一つは、新しい公的年金制度の導入(2014度から)の構想である。「最低保障年金」(税方式)プラス「所得比例年金」という制度(スウェーデン方式)は、すべての市民に生活できるだけの年金を保障する最低保障の機能と同時に、保険料負担と給付の関係を明確にできる点で優れている、と考えられる。ただし、最低保障額7万円は、現行の国民年金だけの受給者の平均額が4.7万円にすぎない現状からすれば改善だとはいえ、生活保護支給水準を下回る。
◆新しい社会ビジョンの不在
民主党マニフェストの雇用・社会保障政策には評価できる真っ当な内容が多いが、大きな欠陥も目立つ。
雇用・労働の分野では、最も底辺に置かれている外国人労働者の問題が無視されている。すなわち、彼ら/彼女らを積極的に迎え入れ、平等で人間らしく処遇する(たとえば研修生制度の改革)という政策は、INDEXにも見当たらない。また、ジェンダー視点から雇用・労働の場で男女平等を実現するための政策も、ひじょうに貧弱である。介護や保育の公共サービスを拡充する必要性からも、地方自治体による雇用創出が「官製ワーキングプア」の解消(非常勤公務員の均等待遇と雇用の安定化)とセットで提唱されてしかるべきであるが、そうした提案が抜け落ちている。
そして、残業時間の上限設定を含む労働時間の抜本的な短縮が、正面から提案されていない。「ワークライフバランスの実現をめざす」(M41)とだけ述べられているにすぎない。「無期雇用、直接雇用を雇用の基本原則と位置づけ、長期安定雇用を雇用・労働政策の基本と」とする(Ip30)と述べているが、それは、小沢一郎の唱える従来型の終身雇用への回帰なのか。それとも、最低限の生活保障の上に多様な働き方を選択する社会をめざすのか。まったく不明確である。
こうした重大な欠陥は、マニフェストの前提になるべき新しい社会像が民主党にはないことから来ている。たとえば、その社会像とは「人間らしい働き方をしながら、少なく働く社会へ」といったビジョンである。それは、脱成長社会につながるものである。
社会保障の分野でも、「派遣切り」が浮かび上がらせたハウジング・プアの解消のために「住む権利」を保障する政策も、貧弱である。「生活・住宅困窮者にとって、公営住宅などは重要なセーフティネットです」(Ip40)と指摘されながら、「多様な賃貸住宅を整備するため家賃補助や所得控除などの支援制度を創設する」(M44)と言われているだけである。また、「給付付き税額控除制度の導入」(Ip19)が提唱されていることは評価できるとしても、それがベーシック・インカム(働いているかいないか、働く意欲があるかないかにかかわりなく、すべての個人に無条件に行われる基本所得保障)の本格的な導入をめざしているかどうかは疑わしい。なぜなら、ベーシック・インカムを本気で導入しようとすれば、「就労による自立」という発想(多くの人たちを苦しめてきた)から決別した社会像に支えられることが必要であるからだ。
もう一つの大きな問題点は、雇用・社会保障の分野の政策を実現する財源確保のためには思い切った税制改革を行ない、財源を確保する必要がある。にもかかわらず、民主党マニフェストは、「公平で簡素な税制をつくる」(M9)の項目を掲げているが、本格的な税制改革を避けているのである。
※このシリーズ<民主党マニフェストを採点する>は衆議院選挙後の分析論文も加えてパンフレット『民主党政権を採点する』として発行しました。詳しくはこちらをご覧ください。