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21年総選挙――野党は、なぜ敗北したのか
                      白川真澄


野党の重大な敗北
 総選挙は、リベラル・左翼の野党の重大な敗北に終わった。
 自民党は議席減が確実視されていたが15減に抑え、単独過半数(233)を大きく上回る絶対安定多数の261議席を獲得した。3議席増の公明と合わせて、自公で293議席(公示前から12減)を確保。前哨戦であった静岡の参院補選で予想外の敗北を喫して単独過半数割れの危機感さえ漂っていたが、議席減を最小限に食い止めて安定した多数を維持したという意味で事実上の勝利となった。
対して、立憲は13議席、共産は2議席を減らし、立憲・共産・社民・れいわの4野党は123議席から13減の110議席に後退した(国民を加えた5野党でも、131議席から121議席に後退)。リベラル・左翼の4野党は、市民連合の仲介で野党共闘を組み「政権交代」をめざして自民党を単独過半数割れに追い込もうとしていただけに、その足がかりさえ獲得できなかった点で重大な敗北を喫したのである。
対照的に、維新は大阪の19選挙区のうち15議席を独占したこと(残り4議席は公明と棲み分け)をテコに、全国でも議席を増やし30増の41議席へ躍進し、14年総選挙で獲得したのと同数の議席を回復した。
その結果、自公と維新を合わせると、改憲勢力は334議席と3分の2(310)をはるかに上回ることになった(国民を加えると345議席)。岸田首相自身は明文改憲に積極的な姿勢を見せていないが、維新が改憲を騒ぎ立てている。来年夏の参院選で改憲勢力が3分の2を取り戻せば、改憲発議へ動く危険性もある。

政治勢力の力関係を変えられなかった
各政党の支持率を示す比例代表の得票と得票率を見ておこう。
自民は前回よりも136万票増やし、得票率を1・38%アップさせた。公明は14万票増で700万票台を回復(得票率は0・13%ダウン)。「保守」(自公)は150万票の微増だが、2702万票を獲得(得票率は47・04%)。有権者全体(約1億人)の3割弱を今回も確保した。
立憲は1149万票、20・0%の得票率と、得票(41万増)と得票率(0.・12%アップ)を僅かに増やした。共産は、得票(24万減)と得票率(0・65%ダウン)のいずれも減らし、416万票、7・25%にとどまった。14年の600万票、11・4%の水準を回復できず、支持の後退に歯止めをかけられなかった。れいわは得票221万票、得票率3・86%で3議席獲得であったが、19年参院選比例区の228万票、得票率4・55%とほぼ同じ水準を確保。支持を伸ばせなかったが、健闘した。その結果、社民・れいわを含めた「リベラル・左翼」は、245万票増の1887万票(得票率27・25%)と有権者全体の2割弱を獲得した。
維新は得票(467万票増)、得票率(7・94%アップ)ともに大幅に伸ばし、805万票、得票率14・01%となり、14年の水準を回復した。維新の躍進が目立つが、他の党の得票の変化が小さいことから、維新の得票増は、14年に「希望の党」に投票した人の票を引き寄せた結果であろう。維新と国民を合わせると1064万票(得票率18・52%)と、前回の維新プラス希望の1305万票(得票率23・43%)に近くなる。国民はネオリベに傾斜しているので、ネオリベ「改革」は1割を確保していることになる。
日本の政治的諸勢力の力関係は2010年代に入ると、「保守」3割、「リベラル・左翼」2割、ネオリベ「改革」1割、棄権を含む「無党派」4割という構図が続いてきた。「保守」が勝ち続けて安倍一強政治が続いたのは、4割の「無党派」が諦めて投票に行かないという極端な低投票率(14年総選挙52・7%、16年参院選54・7%、17年総選挙53・7%)によるところが大きい。
「したがって、リベラル・左翼が保守に勝つためには、政治争点への関心の高まりによって投票率を大きく上げて、無党派層の2割をリベラル・左翼に引きつけ、ネオリベ『改革』支持層を分裂させる必要がある。問題は、リベラル・左翼が無党派層(とくに若者)を投票に赴かせ支持を引きつけるだけの魅力やパワーを獲得できるのか、ということにある」(白川「安倍一強政治とどうたたかうか――リベラル・左翼の課題」、「テオリア」18年3月10日号)。
今回の総選挙の結果も、やはり「保守」が3割弱、「リベラル・左翼」が2割弱、ネオリベ「改革」が1割強、棄権が4割強である。4割強を占める「無党派」を投票に向かわせ、「保守」優位の政治的力関係を覆すことができなかった。投票率はわずかにアップしたが55・93%と、戦後3番目の低さに終わったのである。
今回は「争点なき選挙」と評されたが、《安倍・菅と続いた自公政権を継続させるのか、立憲中心の野党へ政権交代させるのか》が最大の争点であった。しかし、この争点は熱気も帯びず緊迫感にも乏しく、多くの人びとの強い関心を引きつけなかった。
事前の世論調査でも、「今後も自民党を中心とした政権が続くのがよい」46%に対して、「立憲を中心とした政権に代わるのがよい」は半分の22%にすぎなかった。無党派層でも、「自民中心」が27%で「立憲中心」の23%を上回っていた(朝日10月21日)。同じように政権交代の是非が最大の争点になった2009年の総選挙では、事前調査で「民主党中心の政権」が49%と「自民党中心の政権」の21%を圧倒していた。政治を「変える」「変えられる」ことへの期待が高まり、多くの無党派層を投票に赴かせた。投票率は69・28%に上昇し、民主党への政権交代が実現した。
今回はコロナ対策の失敗もあって、自公の長期政権に対する不満や不安や批判は、けっして小さくはなかった。だが、これに代わる立憲中心の野党政権という選択肢は、魅力も迫力も欠けていて、政治を「変える」ことへの期待を搔き立てなかった。これが野党の敗北の意味するものである。

野党はなぜ負けたか
 リベラル・左翼の野党の敗因は、どこにあるか。共産党の限定的な閣外協力を得る野党連立政権という構想に対する期待が高まらなかったからか。あるいは立憲や共産党自体への信頼が乏しかったからか。両方の面から見てみる。
立憲の直接の敗因は、小選挙区では野党共闘の効果もあって議席を10議席増やしたにもかかわらず、比例代表で62議席から39議席へ23も減らしたことにある(比例代表で、自民は6増の72議席へ、公明は2増の23議席へ、維新は17増の25議席へ。共産は2減の9議席へ)。立憲は比例代表で1149万票を獲得したが、これでは公示前議席62を確保するにはまったく足りなかった。例えば自民は1991万票で72議席を獲得している。また、62のうち前回の1108万票で得た立憲の議席は37であり、残りは「希望」が得た967万票で当選し「国民」を経て合流した人の議席である。したがって、公示前議席を維持し、さらに上積みするためには1900万票近い票を獲得する必要があった。しかし、繰り返すが、立憲の獲得した票は1149万にすぎなかった。
 では、なぜ、立憲は支持を大きく伸ばせなかったのか。
その理由が「共産党との共闘」にあるという見方(連合の芳野会長)が台頭しているが、まったく「お門違い」である。たしかに、立憲支持層のなかには野党一本化の共産党候補に投票した人が46%にとどまった(読売新聞の出口調査)ように、共産党への強いアレルギーがあったことは否定できない。
しかし、立憲は、候補者一本化を進めた野党共闘があったからこそ、小選挙区では善戦し9議席を増やすことができたのだ。野党共闘が実現した選挙区での勝率は3割だったが、一本化できなかった選挙区での勝率は8・3%にすぎない。また、自公に敗れたが接戦に持ち込んだ惜敗率90%以上の選挙区は、前回の29から34に増えた(日経11月3日)。野党共闘がなかったならば、立憲はもっと悲惨な敗北を喫していただろう。
とはいえ、野党共闘は小選挙区ではそれなりの力を発揮したが、比例代表の得票に見られるように、多くの無党派層を惹きつけることには失敗した。立憲や共産党の支持率は高まらないままだったが、政治理念(イデオロギー)や政策だけではなく党首個人の魅力や人気、人材の多彩ぶり、組織の体質などにも弱点があった。例えば、枝野や志位は人びとの心をつかむアピール力では山本太郎にとうてい及ばないし、女性のリーダーも少ないし、自治体の首長もいない。
さらに、野党連立政権という構想の提示に迫力が欠けていた。政権構想の「合意」を持ち上げる志位に対して枝野は「立憲単独政権」を強調し、全体として連立政権の構想を強く押し出せなかった。そして、政策(政権公約)の面では、4野党、とくに中心になる立憲のそれは一貫性を欠いていたり、自公との違いや対抗線が不鮮明であった上に、長期的な展望に乏しかった。
もちろん、選択的夫婦別姓制度のように、イデオロギーや社会ビジョンに関わる根本的な対立が鮮明になる政策的主張も提示はされていた。だが、外交・軍事・国際関係をめぐっては、立憲は「健全な日米同盟」や「尖閣諸島の領土防衛」を掲げた。これでは、中国包囲網への軍事的加担を力説した自民党に太刀打ちできるはずもなかった。
「分配と成長」をめぐっては、「新しい資本主義」を謳う岸田が「金融所得課税の強化」を引っ込めた失態を好機として、4野党が富裕層と大企業への課税強化を打ち出したことは評価できる。しかし、公正な増税を主張しながら、立憲は、同時に消費税減税や年収1000万円以下の所得税ゼロを打ち出した。枝野は消費減税については批判的だったから(『枝野ビジョン』)、れいわを野党共闘に引き入れるための政治的妥協だったのだろう。だが、4野党がそろって減税ポピュリズムに走ったことで「高福祉・高負担の社会」という長期的な将来ビジョンを台なしにした。また、消費税・法人税・所得税すべての減税を主張する維新との違いも消してしまった。
さらに、気候危機のテーマを強調したのは共産党だけだったが、共産党も脱炭素化の切り札となる環境税の大幅な引き上げを打ち出さなかった。人びとの税負担が増える政策を主張することに尻込みしたのである。

何が問われているか
 リベラル・左翼の野党の敗北によって、立憲内で野党共闘を推進してきた枝野は辞任に追い込まれ、党内では連合の口出しもあって野党共闘の見直しの声が強まっている。代表選の行方によるが、15年安保法制反対運動のなかから生まれた野党共闘は存続か解体かの瀬戸際に立たされている。
しかし、保守とリベラル・左翼とネオリベ「改革」の3極の対立が保守優位の下で続いている現在、やはりリベラル・左翼が連合し無党派層を味方に引きつけて「保守」に勝つという以外の選択肢はありえない。その意味で、野党共闘を維持し、発展させることがどうしても必要である。だが、そのためには、来年夏の参院選にどう間に合わせるかといっただけの発想を超えて、総選挙で露呈した野党共闘の限界や弱点を明らかにし、率直な相互批判の討論を組織して、共闘を抜本的にバージョンアップしなければならない。とはいえ、それには野党、とくに立憲の自己刷新が不可欠なのだが、率直に言ってそれはあまり期待できない。野党共闘の再生には困難と時間がともなうことを覚悟しなければならない。それだけに、市民運動、さらに「反資本主義」左翼やグリーンの潮流の役割とイニシアティブがいっそう重要になる。
その課題をとりあえず1つだけ挙げておこう。それは、長期的な射程に立った社会ビジョンと政策について活発に論争し、練り上げ、提案していくことである。その際、少なくとも次の2つの方向を明確に打ち出すことが必要だ。
第1は、ポストコロナ、人口減少と高齢化、気候危機を視野に入れた社会と政府のあり方である。そこでは、経済成長への幻想ときっぱり訣別し、地域を主役にしながら「連帯・支え合いの社会」と「大きな政府(高負担による公助)」をめざす。第2は、米中覇権争いの激化のなかでの日本の国際的な立ち位置である。米中両大国のいずれにも加担しない非軍事・非核の対話と協力の関係を、韓国をはじめ東アジア諸国との間に築くことをめざす。
 こうした方向は、これまでの社会・経済や政治のあり方を根本から転換するものだから、すぐには無党派層の共感や多数派の支持を得られないだろう。しかし、例えば若い世代のなかには自助・自己責任に頼ることが不可能なことをコロナ禍で経験した過程で「高負担による公助」への共感も増えつつある。社会の見えないところで起こっている変化に目を向けるべきだ。私たち(市民)の側から原理・原則を大事にしたラディカルな提案を突きつけることによって、はじめて野党を一歩でも二歩でも前へ踏み出させることができるだろう。
(2021年11月6日記)。

表:総選挙の結果

        議席獲得数           比例代表の得票数
         増減   17年              17年
*自民   261  −15   284   1991万(34.66%)  1855万(33.28%)
*公明   32  +3    29     711 (12.38)    697 (12.51)
*維新   41  +30    11     805 (14.01)    338 (6.07)
*国民   11  +3    50※※    259 (4.51)     967(17.36)※※
*立憲   96  −13    55     1149 (20.00)   1108(19.88)
*共産    10   −2    12    416 (7.25)    440 (7.90)
*社民    1   ±0     2    101 (1.69)    94 (1.69)
*れいわ   3   +2          221 (3.86)
*無所属  10  −2      22       

 計                    5746 (100)   5575(100)

※増減は公示前との比較
 ※※は「希望の党」
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