※「世界オルタナティブ・フォーラム」を主催するエジプト出身の経済学者で活動家、サミール・アミンが、チュニジアに続くエジプトでの民衆決起についていち早く独自の分析を発信した。以下、第一報として訳出したものがそれである。エジプトの事態はその後急速に展開したので、アミンの第二信を追加した【編集部】。
エジプト民衆の決起が「長い革命」の開始を告げる
サミール・アミン
2011年2月
「ソフトな移行」にかけた米国の狙いとムスリム同胞団(1月28日)
エジプトは、米国の地球管理計画のカナメ石だ。ワシントンは、エジプトが米国への完全な屈従から離れようとするいかなる試みをも我慢しないだろう。エジプトの対米屈従は、イスラエルが、まだパレスチナとしてかろうじて残っている領土の植民地化を推し進めるためにも必要なものなのだ。これこそ、ワシントンがエジプトの「ソフトな移行」に「関与」するさいの唯一の目標なのである。この意味で米国はムバラクの辞任を考慮するかもしれない。新たに副大統領に任命された陸軍諜報部の長であるオマール・スレイマンが事態を掌握するだろう。軍は慎重に弾圧への関与を避け、自分のイメージを無傷に保とうとしてきた。
この時点でエルバラダイが登場する。彼は国内より国外で知られていたが、急速にこのイメージを訂正できると思っている。エルバラダイは「リベラル」で、経済の運営については現状維持以外には何の考えももっておらず、まさしくこの経済の現状こそが、社会的荒廃の源であることを少しも理解できない。「真の選挙」と法の尊重(逮捕や拷問の停止)を欲するという点で彼は民主主義者である。
彼が移行にさいして、ある役割を果たすことは不可能ではない。だが軍と治安機関は、社会の統治におけるその圧倒的に優勢な立場を手放そうとはしないだろう。エルバラダイはそれを受け入れるだろうか。
移行が「成功」し「選挙」が行われる場合、ムスリム同胞団はもっとも重要な議会勢力になるだろう。米国はそれを歓迎し、ムスリム同胞団が「穏健」であるとお墨付きを与えるだろう。つまり、従順で、米国の戦略に従い、イスラエルがパレスチナを自由に占領し続けることを受け入れるという意味である。ムスリム同胞団はまた、完全に外部依存的な現行の「市場」システムを手放しで支持している。事実、ムスリム同胞団は「買弁」支配階級のパートナーでもある。労働者のストライキや土地の所有権を守ろうとする農民の闘争に反対するのが彼らの立場である。
米国の対エジプト政策はパキスタン・モデルに似通っている。すなわち「政治的イスラム」と軍諜報部の結合を図ることである。ムスリム同胞団は、コプト派には「穏健でなく」振舞うことで、このような同盟政策の辻褄を合わせようとする可能性がある。そのようなシステムに「民主主義」の免許証を与えるべきだろうか。
今回の運動は、都市の若者たち、とくに職のない学卒者によるもので、それを教育をうけた中産階級と民主主義派が支持している。新体制は、おそらく多少の譲歩――公務員採用枠の拡大など――を試みるだろうが、譲歩はそれ以上にはならないだろう。
むろん状況は、労働者階級と農民の運動が加わってくれば変化しうる。だがそれが日程に上っているようにはみえない。もちろん、経済システムが「グローバル化ルール」で運営される以上、今日の抗議運動を引き起こした問題は一つも解決されることはないだろう。
◆追伸 ムバラクは辞任したのではなく、解任されたのだ(2月13日)
起こったのは、第一にムバラクは辞任したのではないということだ。彼は軍の最高指揮官のクーデタで罷免されたのだ。ムバラクとその仲間のオマール・スレイマン副大統領は罷免された。軍の新しい正式指導部は、選挙までは軍が権力を握り、その後は兵舎に帰ると言っている。それまでは軍が移行に責任を負うという。
しかし、運動会議(conference of movement)は仕事を続けている。そして、結社の自由やメディアへのアクセスの自由を含むすべての自由を保証する新しい民主主義への要求を推し進めている。
第二に、運動会議は新しい憲法のコンセプトを議論して打ち出し、選挙で選出される議会が、立法議会でなく、憲法制定議会となるよう活動するだろう。政府が現行憲法にソフトな手直しを加える場合でも、それは制憲議会でなければならない。
この新しい政府が状況を管理できるかどうか、判断はまだ下せない。まもなくそれは判明するだろう。運動はその意図をまだ達成していない。軍の指導部は、強引な移行でムスリム同胞団が強力に代表される議会をつくることを欲している。われわれは時間をかけた移行を望んでいる。新しい民主的諸勢力が、選挙前に、みずからを組織化し、プログラムと政策を仕上げ、世論に影響を与えることができるようにである。
[訳:武藤一羊]
※折から世界社会フォーラム(WSF)の総会がアミンの本拠地でもあるセネガルのダカールで開かれており、その席上、香港の劉健芝(ラオ・キンチ)と中国の汪暉(ワン・フイ)が、エジプトの運動状況についてアミンに聞いたインタビューが届いている。これについては、3月中旬発行予定の『季刊ピープルズ・プラン』53号に掲載予定なので、乞うご期待【編集部】。
エジプト民衆の決起が「長い革命」の開始を告げる
サミール・アミン
2011年2月
「ソフトな移行」にかけた米国の狙いとムスリム同胞団(1月28日)
エジプトは、米国の地球管理計画のカナメ石だ。ワシントンは、エジプトが米国への完全な屈従から離れようとするいかなる試みをも我慢しないだろう。エジプトの対米屈従は、イスラエルが、まだパレスチナとしてかろうじて残っている領土の植民地化を推し進めるためにも必要なものなのだ。これこそ、ワシントンがエジプトの「ソフトな移行」に「関与」するさいの唯一の目標なのである。この意味で米国はムバラクの辞任を考慮するかもしれない。新たに副大統領に任命された陸軍諜報部の長であるオマール・スレイマンが事態を掌握するだろう。軍は慎重に弾圧への関与を避け、自分のイメージを無傷に保とうとしてきた。
この時点でエルバラダイが登場する。彼は国内より国外で知られていたが、急速にこのイメージを訂正できると思っている。エルバラダイは「リベラル」で、経済の運営については現状維持以外には何の考えももっておらず、まさしくこの経済の現状こそが、社会的荒廃の源であることを少しも理解できない。「真の選挙」と法の尊重(逮捕や拷問の停止)を欲するという点で彼は民主主義者である。
彼が移行にさいして、ある役割を果たすことは不可能ではない。だが軍と治安機関は、社会の統治におけるその圧倒的に優勢な立場を手放そうとはしないだろう。エルバラダイはそれを受け入れるだろうか。
移行が「成功」し「選挙」が行われる場合、ムスリム同胞団はもっとも重要な議会勢力になるだろう。米国はそれを歓迎し、ムスリム同胞団が「穏健」であるとお墨付きを与えるだろう。つまり、従順で、米国の戦略に従い、イスラエルがパレスチナを自由に占領し続けることを受け入れるという意味である。ムスリム同胞団はまた、完全に外部依存的な現行の「市場」システムを手放しで支持している。事実、ムスリム同胞団は「買弁」支配階級のパートナーでもある。労働者のストライキや土地の所有権を守ろうとする農民の闘争に反対するのが彼らの立場である。
米国の対エジプト政策はパキスタン・モデルに似通っている。すなわち「政治的イスラム」と軍諜報部の結合を図ることである。ムスリム同胞団は、コプト派には「穏健でなく」振舞うことで、このような同盟政策の辻褄を合わせようとする可能性がある。そのようなシステムに「民主主義」の免許証を与えるべきだろうか。
今回の運動は、都市の若者たち、とくに職のない学卒者によるもので、それを教育をうけた中産階級と民主主義派が支持している。新体制は、おそらく多少の譲歩――公務員採用枠の拡大など――を試みるだろうが、譲歩はそれ以上にはならないだろう。
むろん状況は、労働者階級と農民の運動が加わってくれば変化しうる。だがそれが日程に上っているようにはみえない。もちろん、経済システムが「グローバル化ルール」で運営される以上、今日の抗議運動を引き起こした問題は一つも解決されることはないだろう。
◆追伸 ムバラクは辞任したのではなく、解任されたのだ(2月13日)
起こったのは、第一にムバラクは辞任したのではないということだ。彼は軍の最高指揮官のクーデタで罷免されたのだ。ムバラクとその仲間のオマール・スレイマン副大統領は罷免された。軍の新しい正式指導部は、選挙までは軍が権力を握り、その後は兵舎に帰ると言っている。それまでは軍が移行に責任を負うという。
しかし、運動会議(conference of movement)は仕事を続けている。そして、結社の自由やメディアへのアクセスの自由を含むすべての自由を保証する新しい民主主義への要求を推し進めている。
第二に、運動会議は新しい憲法のコンセプトを議論して打ち出し、選挙で選出される議会が、立法議会でなく、憲法制定議会となるよう活動するだろう。政府が現行憲法にソフトな手直しを加える場合でも、それは制憲議会でなければならない。
この新しい政府が状況を管理できるかどうか、判断はまだ下せない。まもなくそれは判明するだろう。運動はその意図をまだ達成していない。軍の指導部は、強引な移行でムスリム同胞団が強力に代表される議会をつくることを欲している。われわれは時間をかけた移行を望んでいる。新しい民主的諸勢力が、選挙前に、みずからを組織化し、プログラムと政策を仕上げ、世論に影響を与えることができるようにである。
[訳:武藤一羊]
※折から世界社会フォーラム(WSF)の総会がアミンの本拠地でもあるセネガルのダカールで開かれており、その席上、香港の劉健芝(ラオ・キンチ)と中国の汪暉(ワン・フイ)が、エジプトの運動状況についてアミンに聞いたインタビューが届いている。これについては、3月中旬発行予定の『季刊ピープルズ・プラン』53号に掲載予定なので、乞うご期待【編集部】。