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【談話】文部科学省の検定基準改悪案に抗議する 

子どもと教科書全国ネット21事務局長・俵 義文


 下村博文文部科学大臣は、11月15日、「教科書改革実行プラン」を発表し、教科書検定基準を改定して、2014年度中学校教科書の検定から実施する方針を明らかにした。その内容は、?「通説的な見解がない場合や、特定の事項や見解を特別に強調している場合などに、よりバランスの取れた記述にするための条項を新設・改正」する、?政府の統一的な見解や判例がある場合の対応に関する条項を新設」する、?教育基本法の目標等に照らして重大な欠陥がある場合を検定不合格要件として明記」する、というものである。これは、検定基準を改悪し、事実上の「国定教科書」づくりをめざすものである。以下、その主な問題点を指摘する。


1.改定に向けた手続き上の問題点

 この検定基準の改定内容は、自民党・教育再生実行本部の「中間取りまとめ」(2012年11月)及び教育再生実行会議・教科書検定の在り方特別部会の「中間まとめ」(2013年6月)の内容そのままである。政権政党とはいえ、一政党の意見をそのまま取り入れて検定基準を改定するのは文科省が自民党の下請け機関化したことを示すものであり、自民党による教育への「不当な支配・介入」である。

 さらに、検定基準改定案は文科省・教科用図書検定調査審議会の審議を経て、パブリックコメントの実施後に改定・告示されるので、2月以降になる。まず対象となる中学校教科書は、来年の検定申請(通常は4月)に向けて編集中であり、それも最終段階にある。2月は申請図書のゲラ刷りができる頃である。この時期に検定基準を改定するというのは、試合が開始されてすでに終盤にさしかかったところでルールを変更することに等しい。教科書検定は、小学校、中学校、高等学校と年度を追って順次行われるので、通常、検定制度の改定は小学校教科書検定前に、編集作業に十分間に合う時に行われてきた。今回、中学校教科書の検定からルールを変更するというのも異例のことである。なぜこんなに拙速に改定するのか大きな疑問である。


2.検定基準改定案は「近隣諸国条項」を骨抜きにするものである

 検定基準の「近隣諸国条項」は、近現代史の歴史について、日本と近隣アジア諸国との関係について国際理解と国際協調を深める立場で書くことを求める条項である。下村文科相は、記者会見で「(近隣諸国条項は)政府全体で対応する方針だが、取り組みは始まっていない」と述べている。しかし、後述するように、検定基準改定案は、この近隣諸国条項を骨抜きにし、事実上廃止するものである。

 安倍首相や下村文科相をはじめ、自民党は「近隣諸国条項を見直す」と主張してきた。しかし、この条項は、82年に文部省が教科書検定で日本の侵略戦争・加害の事実をわい曲していることがアジア諸国に知られ、中国・韓国をはじめアジア諸国から抗議され、外交問題になった。この時、宮沢喜一官房長官(当時)は、「アジアの近隣諸国との友好、親善を進める上でこれらの批判に十分耳を傾け、政府の責任において是正する」という談話(「宮沢談話」)をだし、外交問題を解決した。そして、この談話に基づいて定められた検定基準が近隣諸国条項である。その意味では、近隣諸国条項は日本政府のアジア諸国への国際公約であり、日本国民への公約でもある。

 安倍政権・自民党がこの近隣諸国条項の見直しを行おうとしていことに対して、アジア諸国、とりわけ韓国・中国からの批判があり、見直しを行えば外交問題に発展することは明らかである。そこで安倍政権は、見直しを先送りして、近隣諸国条項を骨抜きにして実質的な見直し(廃止)を行おうとしているのである。これは、明文改憲がすぐにはできないので、解釈改憲や国家安全保障基本法の制定などで、事実上9条改憲を行おうとしていることと同じ手法である。きわめて姑息なやり方であり、断じて許すわけにはいかない。


3.検定基準の改定内容は歴史のわい曲を正当化するものである

 自民党・教育再生実行本部「中間取りまとめ」や自民党の衆議院選挙・参議院選挙の公約では、「多くの教科書が自虐史観で偏向している」と主張している。検定基準改定案の?の「バランスの取れた記述」というのは、「自虐史観や偏向」していない記述ということである。対象にされているのは、南京大虐殺(南京事件)や日本軍「慰安婦」、強制連行、植民地支配など日中15年戦争、アジア太平洋戦争時の日本の侵略・加害の記述である。例えば、南京事件について、「なかった」というのも少数説として存在するから両論併記でそれも書け、ということである。さらに、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)の自由社版教科書や日本教育再生機構・「教科書改善の会」の育鵬社版教科書、日本会議の『最新日本史』などは、検定申請時に「南京事件なかった」という趣旨のことを書いて、検定で修正させられてきたが、今後はその記述を認めるようにするということである。歴史をわい曲する内容を教科書に書かせるものであり、近隣諸国条項に違反する。


4.政府見解を書かせるのは教科書を政府の広報誌に変え、教科書の事実上の「国定化」である

 検定基準改定案の?は、教科書を政府の広報誌に変えるものである。これは、領土問題について「固有の領土論」や「尖閣諸島は領土問題ではない」などの政府見解を書かせることをねらうものである。さらに、例えば、日本軍「慰安婦」について、第1次安倍政権は「慰安婦の強制連行はなかった」と閣議決定したので、これを教科書に書け、さらに、1965年の日韓基本条約で解決済みというのが政府見解であるから、これを全ての教科書に書けということである。政府の見解がすべて正しいとは限らないのに、特定の見解を教科書に書かせて子どもたちに押しつけるのはもはや教育ではない。これは「教化」であり、子どもたちをマインドコントロールするものである。これは、事実上の「国定教科書」づくりである。


5.教育基本法の愛国心条項で教科書を統制することは許されない

 2009年3月に文科省が教科書発行者に出した「教科書の改善について(通知)」によって、教科書は教育基本法との「一致」が求められ、社会科だけでなく全ての教科書について、教育基本法第2条の「愛国心」「道徳心」など5つの条項が教科書のどの記述、内容、教材と「一致」しているかを検定申請時に提出する編修趣意書に書くことが求められている。その結果、教科書の画一化が進み、教科書発行者は「愛国心教科書」「道徳心教科書」づくりを求められている。

 こうした事実があるにもかかわらず、あえて、?のようなことを要求する意図は明白である。自民党と安倍政権は、日本の侵略・加害について、歴史の事実を書いた教科書を自虐史観、偏向だと攻撃し、そうした歴史の事実をなくして教科書を「正常化」しなければ、愛国心が育たない、子どもが自国の歴史に誇りが持てない、などと主張している。教育基本法の条項を理由に、不合格で脅して、教科書から歴史の事実を消し去ろうとするものであり、絶対に容認できないものである。

 以上のように、検定基準改定案は、安倍政権が進める「教育再生」の名による教育破壊であり、憲法改悪と一体の「戦争する国」の人材づくりをめざすものであり、怒りをもって抗議すると共に、すぐに撤回することを求めるものである。

 以上。

            子どもと教科書全国ネット21

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