トップ (メニュー)  >  ラチャダムヌンの誓い(1992年)
 われわれ500人をこすタイ国内および外国からの「ピープルズ・プラン21世紀」への参加者たちは、1992年12月6〜10日、バンコクに集まった。われわれは、あらゆる地域と大陸にわたる46か国の民衆の運動、そのネットワーク、そして全国的、地域的、また国際的なNGOと連帯グループを代表している。われわれは、たたかいと連帯と希望のなかで民衆の越境する連合を築こうとするわれわれの意志とかかわりを再確認し、新たにするためにここに集まった。われわれはPP21の誕生を画した水俣宣言(1989年)で誓いあったあの精神でここに集まったのである。
 水俣以来、地区、全国、地域、そして大陸と大陸の間に、民衆同士の連合とプロセスが、境界を越え、文化の違いを越えて実現されてきた。このプロセスにおける重要な一里塚は、アメリカ大陸の「先住民・黒人・草の根抵抗の500年」との間に関係が生まれたことであり、また中米にPP21の集団が生まれたことである。
 われわれはここに、女性、労働者、農民、青年、学生、先住民、都市貧民として出会った。われわれはまた、平和と人権、参加民主主義、エコロジー的に健全な草の根の発展、オルタナティブな文化などの提唱者、活動家として、また観光開発の破壊的結果に抵抗する活動家として出会った。タイの各地で行なわれた、こうした階層別、階層間の出会いと経験、またそこから生まれたさまざまな考えや行動計画は、バンコクで開かれたメイン・フォーラムの高まりのなかに集約された。そこでわれわれは、詩や歌や踊りや劇や展示など、さまざまな形で、生活とたたかいの経験をともにしたのである。

■水俣からバンコクへ 希望の連合をあらたに
 PP21は、タイで全地球的、そして全国的な重要な変化のまっただなかで行なわれた。この変化はわれわれの存在の根底に挑戦するものである。
 ソ連邦は崩壊した。国際資本主義システムはますますその支配力を強めている。米国ならびにその同盟国であるG7諸国へのかつてない世界的な権力の集中が起きている。これらの国々は政治機構、経済資源、軍事力、情報、技術製品や方法に対する決定的なまでの独占的支配を行使している。IMFや世界銀行、GATT、アジア開発銀行といった国際機関は、共同して自由市場の名のもとでの多国籍企業の支配を強化しようとしている。これは社会の周縁に追いやられている人びとの基本的必要や生存にまったく責任を負わないものである。国連、とりわけ安全保障理事会は湾岸戦争ならびにその後の事態に示されているように米国の対外政策の道具となっている。
 この地球支配のシステムと不可分なのが、一定のパターンによる国内管理と支配であって、生活のさまざまな部分に顔をのぞかせている。アジア太平洋地域の政府の大半は広い範囲におよぶ権力で完全武装しており、市民社会の成長を阻んでいる。民主主義は、実体を奪われたシンボルと儀式のシステムになり果てている。人びとの基本的な市民的、政治的権利は否定され続けている。この権利の否定は、軍事支配下にある社会ではきわめて露骨であり、また全体主義が人間のマスクをかぶっている社会では、それ以上にとはいわないまでも、同じくらい破壊的である。
 大衆的な貧困と周縁化、労働・環境へのおそるべき搾取が存在する。女性はますますひどくなっており、女性に対する暴力は増えている。アジア太平洋の多くの国々のエリートは、人びとの基本的必要と基本的権利を犠牲にしたうえで、権力の永続化と利益の追求を強めている。国際資本がわれわれの国をがっちり握り、輸出指向型工業化を進めることを「経済的奇跡」(NICs)と讃えたが、実際には、貧しい者に一層の悲惨と貧窮をもたらすだけである。
 しかし、絶望することはない。地域のレベルであれ、国のレベルであれ、国際のレベルであれ、不正な構造は砕かれ、崩壊することをわれわれは知っている。不正な構造は決して永続きはしない。われわれの確信は単なる未経験からくるものではない。人間性に満ちた、正義の未来への確信はユートピア的な夢の産物ではない。水俣以降の3年間に、われわれのたたかいは成長し、発展してきている。
 7か月前、素手の人びとが、民主主義の確立のために銃と戦車に対するたたかいを展開した。この国の人びとは大都市の街頭で、地方の町々で、目に見える存在となった。人びとは国家権力に挑戦して、今再び、非暴力民衆闘争の力を示したのだった。血と涙を通じて人びとは精神的な勇気と参加民主主義という大義への関与を示したのだった。そのプロセスにおいて、人びとは本来の尊厳を重ねて主張し、自分たち自身のものである力をとりもどした。
 これはおそらく水俣以降にこの地域でおきた、もっとも劇的なピープルズ・パワーの姿であったであろうが、他方で、暴力と支配に対する女性たちのたたかい、生存を求め、文化と民族的アイデンティティー、そして自然と人間の調和のとれた関係を保持するための先住民族のたたかい、土地を求める農民のたたかい、正義ある、人間的な労働条件をもとめる労働者のたたかい、居住権を求める都市貧民のたたかい、正義ある民主的な社会を求める青年や労働者のたたかい、観光開発に対する地域住民や先住民族のたたかい、持続的でない開発パラダイムやプログラムに対する民衆のたたかいが進行している。
 さらに1990年にバングラデシュとネパールで全体主義と軍事支配に対する民主的なたたかいが成功している。軍部に対するビルマ民衆のたたかいは今も続いており、正義と国際的支持を求めている。フィリピンでは、1991年9月16日に比米軍事基地協定が拒否された結果、アジア太平洋地域で最大の平和への脅威が取りのぞかれた。
 これらのひとつひとつは民衆の意識の覚醒の証である。既存の秩序の不正や不平等に対する、われわれの心のざわめきである。ひとつひとつのたたかいは自分たちの運命を自分たちで決める民衆の力量を示すものである。このことは歴史の流れを変えるわれわれの能力への確信の証であり、そのことがまた確信を強めるのである。
 アジア太平洋の現実のなかでのこれらのたたかいの意義は、それらが生命への深いかかわりを強調していることである。アジアは世界の主だった精神的、道徳的伝統を生んだ大陸であるがゆえに、それは重要な意味をもつかかわりである。同時に、これらのたたかいは、また、アジア太平洋地域の先住民族の伝統、文化、価値の今日性と重要性をもさし示している。この伝統のなかでもとくに中心的なのは、生命観と正義、愛、共感に満ちた暮らし方である。そのなかで重要なものを生かしていくためには、伝統の再解釈が必要になる。このような再解釈があってこそ、貧しい者、抑圧された者がその人間性を主張するたたかいのなかで共鳴するのである。
 われわれの人間性の主張は、われわれの人間性を奪い、われわれを富と権力の奴隷とする、家族、地域、国、国際のレベルでの不正な構造の破壊を意味する。このことは、参加民主主義を創出し、真の発展をはぐくむための、われわれの側の一致した努力を必要とする。草の根のイニシアチブとネットワークの強化、民衆諸組織の連合の形成を必要とする。エコロジー的に持続しうる、公正な、ジェンダーからみて正当な社会を創出するための民衆のたたかいを支援する、地域、国際のレベルでの越境する連携を必要とする。

■連合の形成
 連合の形成とは、長期的なPP21の目標一希望の連合、すなわちこの不正で不平等な世界の権力に対決し、うち克つ地球的なピープルズ・パワーに向かうものである。そのようなパワーをうちたてるためにわれわれは、草の根、地区、全国、国際のレベルでの民衆の諸運動の連合の強化のために共同しなければならない。
 この連合は、境界や階層別、組織別の利害をのりこえる友好とパートナーシップの文化に根ざす民衆と民衆の出会いに基礎をおくものである。このことは互いのたたかいに学び、われわれの社会にすでに育っている関係や連合を強化する態度をわれわれに要求する。単に思想だけでなく人と人を結びつける努力のなかで、他の文化や経験にオープンであることが求められる。支持を期待するだけでなく、支持し、寄与することが求められる。民衆同士の言語とコミュニケーションに意味を与えることが求められる。あらゆるレベルからのイニシアティブやオルタナティブにオープンであることが求められる。
 PP21は民衆と民衆組織のイニシアティブと参加に基礎をおく。これは、民衆のアクションの基礎となる具体的な行動課題を奨励し、支持する、われわれの連合形成の基本である。
 わわわれ、'92PP21タイの参加者は、メインフォーラムに先立って、さまざまな階層別、テーマ別フォーラムの参加者が採択した提案や行動計画を支持する。あわせて以下の提案をも採択する。

■情報交換と情報の流布
 われわれのまわりで起こっていることについてもっと知る必要がある。多くの理由から急激に変化する現実、そのすべての次元での傾向について把握している必要がある。理由のひとつは、われわれがますます情報を奪われ、情報へのわれわれの接近を巧妙に阻む傾向があるからである。もうひとつの理由は、われわれの地区、社会、地域には越境する方法でしか対抗できないような支配のプロセスが機能しているからである。さらに、われわれが互いの知識、経験、たたかいから学び、それらを重ね合わせていく必要があるからである。このことは、われわれをますます近づけ、それぞれのたたかいを相互に強化する調整された共同行動に向かう道を示すものである。
 人びとの生活に直接的で、広汎な影響をもたらす問題の複雑さを考えるならば、情報の流布は単に機械的な伝達のプロセスとみなされるべきではない。思想は民衆のなかから生まれるのであって、自分たちの考えを民衆に押しつけることがないように留意する必要がある。さらに思想や分析がアカデミックな言語のわなに取り込まれることがないようにしなければならない。それを必要とする階層が、自分たちの情報ベースを利用すると同時に、行動を目的としたわかりやすい民衆指向の言語での分析や情報を手に入れることができるように、適切なコミュニケーション戦略を実施する必要がある。
 メインフォーラムにおいて、参加者は幅広く、多様な問題に関する情報交換ならびに情報の流布の必要を表明した。たとえば次のような問題が含まれる;
−農業、換金作物、医薬品にたいするバイオテクノロジーの影響ならびに地域の大多数の人びとにとっての意味。
−地域のNGOのリスト、それぞれの技術、資源、関心領域
一性の売買と性産業
一援助、貿易、債務および構造調整
一開発と持続性に直接関連する環境問題

■ロビー活動、政策提言、連帯行動
 民衆の必要に奉仕し民衆の基本的権利を推進するために、多国籍企業ならびに政府に責任を果たすよう求めるべきであるという要求がくりかえし表明された。とくに連帯行動が必要とされているのは、団結権の要求、人権、自決権の保護と推進という問題である。

南/南、南/北の連合の形成
 村のレベルから国際のレベルにいたるまで、越境する、階層ごと、階層間の連合を形成する必要がある。すでにいくつかのプロセスとイニシアティブが進行中である。そのような交流の一例は南部タイとマレーシア北部の漁民によるものである。もうひとつの越境するイニシアティブは、アジアの農業、農民の存続のためのタスクフォースによって行なわれている。学生、青年の参加者は、農民、先住民族と連携することを誓った。北の消費者(例えば日本)と南の生産者(例えばネグロスの砂糖労働者)との間に等価交換にもとづく貿易関係が形成され、一層発展されようとしている。
 メインフォーラムで、われわれは、さまざまな国からの諸グループによって組織されつつある越境する行動や行事について知った。それらはさまざまなテーマや問題領域におよんでいる。なかでもとくに繰り返し言及されたのは次のような問題である。

*国際的な人身売買(日本など)および女性出稼ぎ労働力の売買の犠牲となっている女性、とくにタイ女性のためのシェルター、救援、法律援助、カウンセリング、リハビリテーションの相互支援ネットワークの強化。
*1993年11月25日に、女性に対して行なわれる暴力を強く弾劾するために、女たちが産み出しつつある、性別、階層、文化、国籍を越えた連合。
*1993年を先住民年とするための少数民族、先住民族に対する全国的、国際的な支援の動員。先住民族の権利を主張する国際条約や宣言は先住民族の言葉に翻訳し、先住民族が理解し、利用しやすい形にすべきである。

■文化の違いを越える連合の形成
 われわれは、解放的な文化に基づいて、民族排外主義や自民族中心主義や人種差別の高まりのなかで互いの多様性を尊重し、豊かにしていくように連合を形成しなければならない。

■PP21のフオローアップと推進:メカニズム
 地域グループや連合との協力のもとで、地区、全国、階層間のレベルで、民衆組織の指導的役割や参加を強めなくてはならない。地域レベルではPP21プロセスを保証するために最低限の推進メカニズムが提案されている。今後のPP21の諸行事の形態や流れを決めるために地域組織の間での相談を行なう。とくに次のような提案がなされている。
*タイPP21の参加者リスト(プロフィールを含む)を作成し、配ること。
*タイPP21の資料を各国語に翻訳すること(参加者自身が担うことがすでに提案されている)

われわれは、われわれの責任ある参加を誓うとともに、われわれが力を創りだしつつあることを自覚する。それは、力あるものに依存するのではなく、われわれ自身の力、既存の抑圧的な構造にもかかわらず何事かをなす能力であり、われわれ自身の行動の場を創造し、維持するというわれわれの決意に立脚している力であり、21世紀へ向かう信頼関係と連合のあり方をまなび、それをきずきあげることを可能にする確信と能力としての力である。
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